【工場運営AtoZ】工場の環境対策・押さえておきたい3つの基本
目次
日本の工場の歴史は、公害との戦い・環境対策の歴史
工場という概念が発生した当初、環境対策という考えはありませんでした。小さな工場では、影響範囲も狭く、工場から少し離れれば多少の大気汚染も問題にはならなかったのでしょう。
日本では、第二次世界大戦以前に公害という概念はなかったと思われますが、鉱山、製錬所に起因する水質汚濁、大気汚染等の問題はあり、栃木県の渡良瀬遊水地、茨城県日立市の大煙突などが環境対策の始まりだと思われます。
公害の教訓から環境先進国になった日本。失われた20年の間に環境意識も失われた?
全国的な社会問題になったのは1960年代の公害、4大公害と呼ばれる、水俣病、第二水俣病、四日市ぜんそく、イタイイタイ病からで、これらの大きな犠牲のもとに法整備が進み、環境庁(後の環境省)も設立されました。これによって公害は沈静化しましたが、2005~9年、複数の会社における長期にわたる違法な排出と環境データ改ざんが明らかになり、大企業も含め信用は地に落ちました。
この事態を受けて、経済産業省と環境省は2007年「事業者向け公害防止ガイドライン」を策定し、その中で、「公害防止に対する重要性の認識が相対的に低下しており、公害防止対策を典型的な保全業務としてみなす場合が見受けられる」と指摘しています。
少しでも気を抜くと、直ぐに公害の時代に逆戻りしてしまうという、工場関係者が忘れてはならない重要なポイントです。
環境関連では、環境基本法をトップに沢山の法令があり、地方の条例もありますが、これらはよく理解し、遵守しなければなりません。
新たな環境問題対策、サプライチェーンへの責任も必要
最近は、環境問題というと、オゾン層破壊や地球温暖化、マイクロプラスチックの拡散というような、地球規模の環境保護についての議論が盛んになってきています。
工場においても、これまでの公害対策を中心とした「工場から出ていく物の適切な管理」だけでなく、「製品のための資源採取から、使用後の最終廃棄、リサイクルまでの全体(Life Cycle)」が及ぼす環境負荷を最少化するための活動が求められます。
とは言え、未だ方法論が確立しておらず、単に形を整えてアピール材料にしようとする動きが見えなくもない、という気もします。
いずれにしても、地球環境保護のための、省エネルギー、省資源、省廃棄物という方向は、特別なことではなく、工場で日常的に行っている生産性向上のための改善活動そのものであると言うこともできます。
まずは、世界的な動向を注視しつつ生産性向上活動を進めながら、地域レベルの課題にきちんと対処していくことが重要です。
環境対策の基本その1 地域の方との「ご近所づきあい」
日常業務としては、設備を適正に管理し、作業標準通りに操業し、排出基準を守る、正しい測定結果を残す等の法令遵守は当然、法律では扱えない問題も考慮する必要があります。
皆さんが集合住宅(マンション、アパート等)に住んでいるとして、上の部屋の足音、ピアノの音などは気になりませんか?これは、何ホーン以下だから良いというような数字の問題ではありません。
隣近所のつきあいと同じように、地域の人とのふれあいが重要で、なれあいはいけませんが、交流がないと、地域住民が何を問題視しているのかがわからず有効な対策も打てないという事態になってしまいます。
大事なステークホルダーである、地域社会と良好な関係を保つことは、工場の大切な仕事です。
環境対策の基本その2 行政との「コミュニケーション」
工場外の人との関係を維持するうえで、常日頃から工場内部の事業内容、取り扱い物質などについて、積極的に情報発信をする(いたずらにこわがらせてはいけないが)ことも重要です。
ことに、もう一つの重要なステークホルダーである行政に対しては、かくすことなく相談に乗ってもらいましょう。行政には環境問題の専門家がいます。
もし皆さんの工場で扱う物質について行政側に専門知識がなかったら、専門家になってもらうつもりで、情報を発信しましょう。
たとえば、天災が起こった時に環境事故につながりそうな項目はないかと検討する時など、土地の事を良く知っている行政の意見は貴重です。
忘れてはならないのは、行政の基本が指導であり、取り締まりではないということです。
環境対策の基本その3 事故への備え
自分のいる工場で、どのような環境事故が起こりうるか、日頃からよく検討し、緊急事態対応マニュアルの形でまとめるとともに、定期的に対応訓練をする必要があります。
具体的には、応急措置、通報・連絡、被害状況調査を並列的に進めることになりますが、マニュアルの中では、一般論ではなく、その工場特有の問題と対策、本には書いていないような具体的な対策を立案しておかなければ、効果的とは言えません。
工場では、家庭と違って有毒な物も扱ううえ、工場外の人は一般的に専門知識を持っていない為、工場外へ漏洩してしまうと、最悪の場合無関係な人を命の危険にさらしてしまう可能性もあります。
漏洩を工場内で止められたか、公共の環境に影響を与えてしまったかで、その後の事故処理に雲泥の差がでます。とにかく工場内に留めることに、最大限の努力を払うべきです。
とくに怖いのは「油」!
環境事故でもっとも頻度が高いのは、水質汚濁事故、特に油の流出です。
これは、「たかが油」と気を抜いている証拠とも言えますが、魚は大量死し、範囲が広ければ除染作業、被害補償も大変なことになることを忘れないでください。
(アイアール技術者教育研究所 形だけの地球環境保護活動に懐疑の目を向けている元工場長H・N)