アンテナとは何か?基本原理と役割を初心者向けに解説

私たちの身の回りには、スマートフォン、無線LAN、Bluetooth機器、カーナビ、IoTセンサーなど、数多くの無線通信機器が存在しています。これらの機器に共通して不可欠な存在が「アンテナ」です。
しかし、「アンテナとは何か」と聞かれても、その役割や仕組みを明確に説明できる方は意外と多くいません。単に電波を出す・受ける金属部品という認識にとどまっているケースも少なくないでしょう。
本連載では、アンテナ技術を初学者にも分かりやすく、かつエンジニア視点で体系的に解説していきます。
第1回となる本稿は、アンテナの定義や基本的な役割、電波との関係、さらに技術の発展の流れを概観します。
以降の専門的な内容を理解するための土台として、まずは「アンテナとは何か」をしっかり押さえていきます。
目次
1.アンテナとは?
「アンテナ」とは、電気信号と電波を相互に変換するための装置です。無線通信において、アンテナは信号が空間と回路の間を行き来するための“窓口”のような役割を担っています。送信時には電気信号を電波として空間に放射し、受信時には空間を伝搬してきた電波を電気信号として取り出します。
アンテナは単体で通信機能を持つわけではありませんが、その性能や特性は通信距離、通信品質、安定性に大きな影響を与えます。そのため、アンテナは無線システム全体の性能を左右する極めて重要な構成要素といえます。
(1)アンテナと電気回路の違い
アンテナは電気回路の一部として扱われることもありますが、その動作原理は一般的な回路部品とは異なります。抵抗やコンデンサが回路内でエネルギーを消費・蓄積するのに対し、アンテナはエネルギーを空間へ放射、あるいは空間から受け取る役割を持ちます。この「空間とエネルギーをやり取りする」という点が、アンテナを理解するうえでの重要なポイントです。
(2)アンテナが必要不可欠な理由
高周波信号を回路だけで扱っても、電波として遠方へ情報を届けることはできません。
アンテナが存在することで初めて、電気信号は空間を伝搬可能な電磁波へと変換されます。
逆に受信側でも、アンテナがなければ微弱な電波を効率よく捉えることはできません。
アンテナは無線通信を成立させるための必須要素なのです。
2.アンテナの基本的な役割
アンテナの役割は大きく「送信」と「受信」に分けられます。どちらの場合でも、電波と電気信号の変換効率が重要な評価ポイントになります。
(1)送信アンテナの役割
送信アンテナの主な役割は、回路から供給される高周波電力を効率よく電波として放射することです。
アンテナに高周波電流が流れると、時間的に変化する電界と磁界が発生し、それが空間へと広がっていきます。この現象を「放射」と呼びます。
アンテナの設計が不適切な場合、電力が空間へ放射されにくくなり、多くが送信機側へ反射されてしまいます。その結果、通信距離の低下や機器の性能劣化につながります。
(2)受信アンテナの役割
受信アンテナは、空間を伝搬してきた電波を捉え、それを電気信号に変換する役割を担います。
電波がアンテナに到達すると、アンテナ導体内に微弱な電圧や電流が誘起されます。この信号を回路で増幅・処理することで、音声やデータとして利用できるようになります。
受信アンテナの性能は、感度や指向性に大きく影響し、通信品質を左右します。

【図1 アンテナの基本的な役割】
3.電波とアンテナの関係
アンテナを理解するためには、電波の基本的な性質を押さえておくことが重要です。
アンテナのサイズや形状、特性は電波の性質と密接に関係しています。
(1)電波とは何か?
「電波」とは電磁波の一種であり、電界と磁界が互いに直交しながら空間を伝搬する波です。
「電界」とは、電圧がかかっている場所の周りにできる力が及ぶ空間であり、「磁界」は電流が流れている場所の周りにできる磁気の力が及ぶ空間です。これらが交互に発生することで伝搬が起こります。
周波数によって特性は異なり、無線通信では用途に応じて数kHzから数十GHzまでの幅広い周波数帯が利用されています。
一般的に周波数が低いほうが回り込み(回折性が高く)やすく遠距離まで到達しやすい一方、扱える情報量は少ない傾向があります。
一方、周波数が高くなると直進性が高くなり、比較的近距離での利用に適する傾向があり、より多くの情報を扱える通信が可能になります。また、周波数が高くなるほど波長は短くなり、アンテナの小型化が可能になります。

【図2 電波(電界と磁界)のイメージ】
(2)波長とアンテナサイズ
アンテナ設計では波長が重要な指標となります。これは、アンテナが波長に共振するように設計されているため、周波数が低い(波長が長い)と大きなアンテナとなり、周波数が高い(波長が短い)とアンテナを小さくできます。
例えば、最も基本的な構造である半波長ダイポールアンテナは、使用周波数の波長の約1/2の長さを持ちます。また、グラウンド(導体面)に対して1/4波長程度の導体で構成されるモノポールアンテナがあり、身近では自動車の車体上部などに用いられます。

【図3 半波長ダイポールアンテナ】
4.アンテナはどのように電波を放射・受信するのか
アンテナの仕組みを理解しようとすると、「なぜ金属の部品から電波が出るのか」「どうして電波を受け取れるのか」といった疑問を持つ方が多いと思います。
この章では、電磁気学の数式や厳密な理論には踏み込まず、初心者でもイメージしやすい形で、アンテナの放射と受信の基本的な原理・考え方を説明します。
(1)電流が流れるだけでは電波は放射されない
まず押さえておきたい点として、アンテナに電流を流せば必ず電波が出るわけではありません。例えば、乾電池につないだ導線に直流電流を流しても、遠くまで届く電波は発生しません。
電波を放射するために必要なのは、「時間的に変化する電流」です。これは高周波信号(交流)を扱う状況に相当します。無線通信では、高周波の交流電流がアンテナに流されます。この電流の変化が、電波発生の出発点になります。
また高周波回路では配線により形成されるインダクタンスやキャパシタンスが重要となります。
(2)電流の変化が電磁界を生み出す
アンテナに高周波電流が流れると、その周囲の空間には電界と磁界が発生します。電流が増えたり減ったりするたびに、これらの電磁界も時間とともに変化します。この変化する電磁界が、アンテナの周囲から空間へ広がっていくことで電波が生じます。
水面に石を落としたときに波紋が広がる様子を思い浮かべると、アンテナから電波が放射されるイメージをつかみやすいでしょう。
(3)近傍界と遠方界という考え方
アンテナ周辺の電磁界は、距離によって性質が大きく異なります。この違いを表す概念が「近傍界」と「遠方界」です。
アンテナのすぐ近くの領域では、電界と磁界が複雑に分布し、エネルギーは空間に放射されず、アンテナの周囲にとどまって振動します。この領域を「近傍界」と呼びます。近傍界では、遠方界のように電波として安定して伝搬する成分が支配的ではありません。
一方、アンテナから十分に離れた領域では、電界と磁界が一定の関係を保ちながら進み、エネルギーは空間を伝搬します。この領域が「遠方界」です。
近傍界と遠方界で電磁界のふるまいが異なる背景には、距離によって電界と磁界の比(見かけのインピーダンス)が変化することが関係します。近傍界では空間インピーダンスが一定ではなく、遠方界において安定した一定値になるためです。
私たちが無線通信として利用している電波は、主にこの遠方界に存在するものです。遠方界では、距離が離れるほど電界強度はおおむね距離に反比例して低下します。

【図4 近傍界と遠方界のイメージ】
(4)アンテナの形と放射効率の関係
アンテナの形状や長さが重要視されるのは、近傍界から遠方界へエネルギーを効率よく移行させるためです。
アンテナのサイズが使用周波数の波長と大きくずれていると、電流がうまく振動せず、エネルギーの多くが近傍界にとどまってしまいます。
一方、波長に適した長さや構造を持つアンテナでは、電流が効率よく往復し、エネルギーが遠方界へ放射されやすくなります。このように波長に適した長さや構造を持つものを放射効率が良いといいます。放射効率とは、文字通り送信機からアンテナに入力された電力のうち、実際に空間に放射された電力の割合を示すものです。
このため、放射効率を高めるためにアンテナ設計では周波数と形状の関係が極めて重要になります。
(5)電波の受信は放射の逆の現象
電波の受信は、放射とは逆向きの現象として理解できます。
遠方界を伝搬してきた電波がアンテナに到達すると、アンテナ近傍の電界と磁界が変化し、その影響でアンテナの端子に微弱な電圧や電流が生じます。受信回路はこの信号を増幅・処理することで、音声やデータとして利用できる形にします。
また受信時にも、アンテナ利得(ゲイン)という指標があり、特定の方向から来る電波をどれだけ受けやすいか(方向による受けやすさ)を表します。こうして、空間を伝わってきた電波は電気信号へと変換され、受信回路で処理されることになります。
5.アンテナ技術の歴史と発展
アンテナは、無線通信の広がりとともに形や役割を大きく変えてきました。初期は長距離通信を目的とした大型アンテナが主流でしたが、周波数の高周波化や機器の小型化に伴い、設計思想も多様化しています。
(1)黎明期のアンテナ
19世紀末、ヘルツやマルコーニによる電磁波実験と無線通信の実用化を契機に、アンテナの歴史が始まりました。アンテナは当初、非常に大きなワイヤアンテナや鉄塔が用いられていました。主に長距離通信が目的で、比較的低い周波数帯が中心だったため、波長が長く、アンテナも大きくなりやすかったためです。
その後、放送や業務通信など用途が広がるにつれて、目的に応じたアンテナ形式が発展していきます。日本においても1920年代に八木・宇田アンテナが開発され、その後テレビ受信用アンテナとして広く普及しました。八木・宇田アンテナのように、特定方向の電波を強める「指向性」を活用したアンテナは、受信品質の向上に大きく貢献しました。
(2)現代のアンテナ技術
現在では、携帯端末用の小型アンテナ、基地局用アレイアンテナ、衛星通信アンテナなど、多様な用途に応じたアンテナが実用化されています。特に携帯端末では、限られた筐体内に収める必要があるため、小型化しながらも性能を確保する工夫が重要になります。
また基地局では、複数のアンテナ素子を組み合わせたアレイアンテナにより、指向性を制御して狙った方向に電波を届ける技術が広く用いられています。5Gや将来の6Gでは、ミリ波帯の利用やビーム制御技術が重要な役割を果たします。
[※関連記事:ミリ波レーダーとは何か?仕組みや特徴、LiDARとの比較など徹底解説!]
6.おわりに
本稿では、「アンテナとは何か」という基本的な問いに対して、役割や原理、電波との関係を概観しました。
次回以降は、アンテナ特性の指標、代表的なアンテナ構造、設計や評価の考え方について、より具体的に解説していきます。
(日本アイアール株式会社 特許調査部 T・T)



](https://engineer-education.com/wp/wp-content/uploads/2021/10/Circuit-element0-150x150.png)


































