【注目の多孔性材料】MOFとゼオライトを徹底比較!強み・弱みがスッキリわかる

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MOF対ゼオライト

MOF(Metal Organic Frameworks=金属有機構造体)は、その開発者に2025年のノーベル化学賞が授与されるなど、近年注目されているナノ細孔材料(数ナノメータあるいは1ナノメータ以下の微細な細孔を有する機能材料、多孔性材料)です。
しかしナノ細孔材料としては既にゼオライトが存在し、幅広い分野で使用されています。
両者にはどんな違いがあるのでしょうか?今後MOFはゼオライトを置き換えていくことになるのでしょうか?

 

1.MOFとゼオライトの比較

本記事ではMOFとゼオライトの対比に重点をおいて解説します。
それぞれの基本事項に関しては、下記の別コラムや近刊成書1)もご参照ください。
なおゼオライトには合成品の他に天然品も存在しますが、本稿では合成品に焦点をあてます。

まず、MOFもゼオライトも各々に多様な構造が含まれており、MOFやゼオライトは総称であることをご承知おきください。その上で、表1は各々の特徴を比較したものです。

 

【表1 MOFとゼオライトの比較】

MOF ゼオライト
基本組成 金属イオン+有機配位子からなる
有機無機混合
Si-Al-Oを主成分とする無機構造体
代表的な構造 ZIF-8, MIL-100, HKUST-1 ZSM-5, Y, A
合成温度 室温も含む低温 100℃前後の高温
比表面積 >1000m2/g 350-400m2/g (ZSM-5の例)
硬度 柔軟 剛直
設計の自由度 非常に高い 自由度はあるがMOFには及ばない
化学的安定性 水や酸に弱いものが多い 高い
耐熱性 低い 高い
製造時の再現性 課題が残る かなり高い
成型法 未確立(検討中) 確立
スケールアップ技術 未確立(検討中) 確立
応用分野 開発中
(高濃度・高選択性吸着への期待大)
石油精製触媒、分子ふるい、吸着剤

組成の比較

各々の組成に関しては、ゼオライトがSi-Al-O系の無機材料であるのに対して、MOFは金属イオンと有機配位子とから構成される有機無機の混合体です。即ち、MOFには有機成分が含まれています。これが根本的な相違点であり、後述する物性面での差を生む要因でもあります。

ゼオライトの構造としてはZSM-5やY型、A型等が代表的です。一方、MOFの代表としてはZIF-8、MIL-100、HKUST-1が良く知られています。

ゼオライトはSi系とAl系の原料に構造規定剤を加えて水熱反応により合成されます。この合成には通常100℃前後の温度が必要になります。これに対し、MOFは金属イオンを含む液と有機配位子構造体を含む液とを室温程度の低温で単に接触させるだけでも、即ち、単純な方法で穏やかな条件でも合成できます。

また、ゼオライトは高表面積の材料として知られ、例えば、ZSM-5の表面積は350-400m2/gに達します。MOFはこれを大きく上回る1000m2/g以上、種類によっては4000 m2/gの超高表面積を有しています。またゼオライトが剛直な構造を持つのに対してMOFは柔軟です。

MOFは金属イオンと有機配位子を自由に選べますので、設計の自由度という点でゼオライトを大きく凌いでいます。ゼオライトは現時点で230-250種とされていますが2)、MOFには既に2万以上が報告されています3)

以上の比較から、皆さんは、MOFには大きな可能性があるとお感じになったと思います。ゼオライトが現在使用されている触媒、分子ふるい、吸着剤等の分野でゼオライトを代替する可能性を秘めた有望な素材であることは確かです。しかしMOFは多くの課題も抱えています。

 

MOFの課題

まず、MOFは水や酸に弱いものが多く、化学的安定性ではゼオライトに劣ることが挙げられます。さらには耐熱性という点でもゼオライトに及びません。これらの物性は、多くの場合、MOF実用化の障害になります。

この物性面に加え、MOFは製造面にも課題があります。
穏やかな条件でも合成できるものの、合成条件を同一にしても同じものが得られない、即ち再現性に乏しいという弱点を抱えています。成型法も未確立です。当然ながら、量産もできない状況であり、工業的製造法が確立しているゼオライトとは大きな差があります。両者を比較した最近の総説中でも、MOF合成はゼオライトよりも再現性に乏しくスケールアップが困難だと明記されています4)

 

2.石油精製分野の例でみるMOFの弱点とゼオライトの強み

MOFの製造面での課題は今後の研究開発より解決される可能性があります。ゼオライトをはじめ、多くの工業材料の実用化・商業化は産業界の長年に渡る多大な努力により達成されたものだからです。
しかし、化学的安定性や耐熱性の不足という物性上の弱点はMOF固有のものであり解消は困難です。MOF実用化時の障害にもなります。この点を石油精製分野でのゼオライト利用の例で検証してみましょう。

現在の石油精製で大きな役割を果たしているものとして、図1に示す水素化分解装置があります。この装置は、燃料としては不適な重質油(重質かつ硫黄等の不純物を含む)を分解して高品質の軽質油を製造するものです。この装置には無機酸性担体上に金属を担持した触媒が充填されており、重質油はこの触媒を通過する過程で軽質油に転換されます。

この触媒にゼオライトが含まれており、触媒の性能を左右する重要な役割を担っています。
ご留意いただきたいのは運転条件と運転期間です。この装置は数十気圧の水素圧力下で350℃以上の高温で運転されます。しかも長期間にわたり連続運転され、その期間は半年から1年程度に及びます。
ゼオライトはタフな材料であり、こういう使用法に耐えることができます。

 

石油精製での水素化分解装置
【図1 石油精製での水素化分解装置】

 

触媒中のゼオライトをもしMOFに置き換えたら、MOFは瞬時に消失してしまうでしょう。MOFは高温等の過酷な条件では使用できません

 

3.MOF利用の今後の見通し

ゼオライトを単純にMOFに置き換えるのは、上記例のように、多くの場合は困難でしょう。
ゼオライトでは満足されない分野を見出して、そこに適用出来るかどうかが、今後のMOF利用の鍵を握るとみられます。

その点では下記のような利用例が参考になると思われます。

  • 1) 表面積が非常に大きいことを活かし、ボンベ中に吸着・脱着剤として充填して、有毒ガスの常温・常圧での保管に利用するケース
  • 2)水に弱いことを逆に利用し、吸着させた機能性ガスを、周囲の空気中に徐々に放出させるケース

今後のMOF利用法の進展が期待されます。

 

(日本アイアール株式会社 特許調査部 N・A)

 


《引用文献、参考文献》


 

 

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