3分でわかる プラスチックレンズの基礎|ガラスとの比較、光学特性、材料・成形法を解説

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プラスチックレンズの基礎知識

プラスチックレンズは、私たちの生活においてメガネ、カメラ、光学機器など、さまざまな分野で利用されています。軽量で加工性に優れる一方、光学性能や耐久性といった側面ではガラスレンズと比較されることも少なくありません。

本記事ではプラスチックレンズの特徴、ガラスレンズとの違い、光学特性、プラスチックレンズ材料、作り方(成形方法)について、基礎的な知識を解説します。

1.プラスチックレンズとは?ガラスレンズとの違いは?

プラスチックレンズ」は、合成樹脂などの高分子材料を使用して製造されたレンズです。
従来はガラスレンズが主流でしたが、軽量かつ割れにくい性質をもつプラスチックレンズの登場により、現在では多くの光学製品においてプラスチックが採用されています。

ガラスレンズとの特徴の違いを表1に示します。いずれのレンズにもメリット、デメリットがあり、用途や使用する環境に合わせて選択する必要があります。プラスチックレンズは、耐摩耗性や耐熱性、光学特性などにおいてガラスレンズに劣ることから、高機能製品には使い難いものでしたが、近年では開発が進みカメラ等にも一部搭載されています。

 

【表1 プラスチックレンズ/ガラスレンズの特徴比較】

プラスチックレンズ

ガラスレンズ

重量 軽い 重い
耐衝撃性 割れにくい 割れやすい
耐摩耗性 摩耗しやすい 摩耗しにくい
耐熱性 低い 高い
屈折率 約1.5~1.7 約1.5~1.9
複屈折率 ガラスに比べ
大きいものが多い
小さい
成形加工性 良好 難しい
価格 安価 高価

 

2.レンズ材料に求められる光学特性とは?

レンズ材料を選定する際には、光をどのように曲げ、通すかといった光学的な性質が重要になります。ここでは、代表的な光学特性について順に解説します。

 

(1)屈折率

材料の中を光が進む速度は、材料によって異なります。屈折率は、真空での光の速度との比として、以下の式で表されます。

 

屈折率

 

光の速度は光の波長ごとに異なるため、屈折率も光の波長によって異なります。
一般的に示される「屈折率 nd」はd線(589nm)の屈折率となります。

光学材料としては、屈折率が高いほどレンズの薄肉化が期待されます
高屈折率のプラスチックに関する研究も行われており、硫黄を含むポリマーの独自設計により、1.8以上の超高屈折率ポリマーも報告されています。1)

 

(2)分散(アッベ数)

一般に、屈折率は短波長の光ほど高く、長波長の光ほど低くなります
屈折率が光の波長によって異なる性質を「分散」と言い、その程度を以下の式で計算される「アッベ数 νd」という指標で示します。
アッベ数は、大きいほど分散が小さく(=波長依存性が小さい)、小さいほど分散が大きく(=波長依存性が大きい)なります。(図1)

 

アッベ数

 

分散について(イメージ)
【図1 分散のイメージ ① 波長‐屈折率の関係、② 分散の大きさと光の屈折について】

 

光学機器では、アッベ数が高い材料、低い材料を組み合わせて設計を行うことがあるため、幅広いアッベ数の材料が選択できることは設計の自由度に繋がります
また、以下の図からもわかるように、d線での屈折率が高い材料は分散が大きくなるという傾向があります。この傾向からはずれたような物性を持つ材料(例えば、高屈折率×低分散)の開発も行われています。

 

屈折率とアッベ数との関係(ガラス、プラスチック)
【図2 屈折率とアッベ数との関係 ※引用2)

 

(3)複屈折

複屈折」とは、光が材料を透過する際に透過光の偏光状態が変化することを言います。
言い換えれば、同じ波長の光でも材料に対する振動方向の違いにより屈折率が異なることを意味します。

複屈折の大きな材料を通して物体を見ると物体が二重に見えてしまいます。レンズ材料としての使用するためには、低複屈折であることが求められます

材料がガラスのようなアモルファス物質では基本的に複屈折は見られませんが、異方性を持つ結晶では複屈折が大きくなります。光学樹脂は、成形時に分子が配向することによって複屈折が大きくなる場合があるため、注意が必要です。

 

3.プラスチックレンズの主な材料

レンズに使用される材料には、光学特性だけでなく、成形性や耐久性といった物理的特性も求められます。
以下に、代表的な光学樹脂の種類と、それぞれの主な特性をまとめます。

 

【表2 主な光学樹脂と物性2)

単位

アクリル樹脂

ポリカーボネート

環状ポリオレフィン

PMMA PC ARTON※2(COC)
屈折率nd 1.492 1.584 1.510
アッベ数νd 58 31 57
全光線透過率 94 92 92
形成品複屈折 ※1 1 8 1
飽和吸湿率 2.0 0.4 0.5
熱変形温度 100 130 160
比重 1.19 1.20 1.08

※1:PMMAを1とした値
※2:JSR株式会社の商品名(登録商標)

 

(1)アクリル樹脂

アクリル樹脂であるポリメチルメタクリレート樹脂(PMMA)は、透明性が高く、分散が小さな材料です。
吸湿性が大きい、耐熱性が低いというデメリットはありますが、硬度も高く様々なレンズ材料に用いられています。

 

(2)ポリカーボネート

ポリカーボネート(PC)は、耐熱性、耐衝撃性に優れ、吸湿性も小さな材料です。
但し、複屈折が大きいため、使用は複屈折が問題とならないレンズ用途に限られます。

 

(3)環状ポリオレフィン

環状ポリオレフィン樹脂、シクロオレフィン系モノマーを重合して得られるポリマーです。
環状ポリオレフィン樹脂は、透明性が高く、複屈折性が低く、吸水率が低いといった特徴から、デジタルカメラ等のレンズとして用いられています。重合方法の違いにより、シクロオレフィンポリマー(COP)とシクロオレフィンコポリマー(COC)の2種類に大別されます。3)

 

4.プラスチックレンズの作り方(成形方法)

(1)射出成形法

射出成形法は、熱可塑性樹脂を対象とした成形技術です。
原料として主に樹脂のペレットを使用します。成形にかかる時間が短く(数十秒程度)、大量生産に向いています。(図3)

 

プラスチックレンズの成形方法(射出成形法)
【図3 プラスチックレンズの成形方法(射出成形法)】

 

(2)注型重合法(キャスト重合法)

注型重合法(キャスト重合法)は、熱硬化性樹脂を対象とした成形技術です。
原料として主に熱硬化性樹脂のモノマーを使用します。
精度は高いですが、モールドの中で重合反応を行うため、成形に時間がかかります。(図4)

 

プラスチックレンズの成形方法(注型重合法)
【図4 プラスチックレンズの成形方法(注型重合法)】

 

以上、プラスチックレンズの基礎についてご説明しました。
まだまだプラスチックレンズは開発途中であり、光学特性や耐環境性など改善が検討されています。
開発が進めば、より複雑な形への成形が可能なプラスチックレンズは、光学設計において重要な選択肢となることが期待されます。

 

(日本アイアール株式会社 特許調査部 M・S)

 


《引用文献、参考文献》

  • 1)Seigo Watanabe et al, “Polarizable H-Bond Concept in Aromatic Poly(thiourea)s: Unprecedented High Refractive Index, Transmittance, and Degradability at Force to Enhance Lighting Efficiency”, Advanced Functional Materials, Vol.34, 2024, 2404433
  • 2)河合宏政「光学用プラスチック材料」,光学, Vol.24, No.2, 1995, pp.69-75
  • 3)芹澤肇「環状ポリオレフィンのプラスチック光学材料への展開」成形加工, Vol.16 , No.11, 2004, pp.707-710

 

 

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