ローパスフィルタでのノイズ対策と周波数特性|カットオフ周波数とは?コモンモードノイズって何?
EMC対策に関する当連載コラムの第2回「電磁ノイズの伝達経路を整理!」では、電磁ノイズが伝わってくる経路として、導体伝導と空間伝導があるという説明をしました。
今回は、導体伝導にどのように対応するのかを説明します。
基本的には、第2回の終わりに説明したノイズ対策の4要素のうち、反射、吸収、バイパスに対応するフィルタを使います。
目次
1.ノイズ対策とローパスフィルタ
当連載コラムの第2回でも説明しましたが、ノイズ対策での「フィルタ」とは、必要な電気信号は通し、不必要な電気信号(ノイズ)は通さない(減衰させる)装置です。
有用な信号はノイズより周波数が低いのが一般的なので、ノイズ対策には「ローパスフィルタ」(周波数が低い信号を選択的に通す)を用います。典型的なローパスフィルタは図1のようにコイル(インダクタンス)とコンデンサ(キャパシタンス)から構成されています。
【図1 コイルとコンデンサからなるローパスフィルタ】
このローパスフィルタを図2のような回路にいれ、左側から周波数の高いノイズ(赤線)を含んだ信号(青線)を供給すると、ノイズはコイルで反射され、さらにコンデンサでバイパスされます。そのため、負荷抵抗に流れる電流は、ノイズ成分が軽減され、青い線の信号が残ります。
【図2 ローパスフィルタの仕組み(原理)】
ここでは、ノイズ対策の基本4要素のうち、反射、バイパスに対応しています。
2.ローパスフィルタの周波数特性
(1)RCフィルタの周波数特性
ローパスフィルタは、コイルとコンデンサで構成されるもの以外に、抵抗(R)とコンデンサ(C)で構成することもできます。
ここではまず、より単純なRCフィルタの周波数特性(周波数による通りやすさの違い)を見てみましょう。
図3のRCフィルタの周波数特性は図4のようになります。
【図3 RCフィルタ】
【図4 RCフィルタの周波数特性】
図の横軸は、カットオフ周波数を1と置いた時の周波数を対数表示したもので、縦軸は、フィルタ回路に入って来る信号の電圧で出て行く信号の電圧を割ったもの(Vout/Vin)をデシベル表示しています。
「カットオフ周波数」とは、出力電圧が入力電圧の半分になる周波数(デシベル表示では-3dB)と定義されます。カットオフ周波数より十分低い周波数では、Cは大きな抵抗なので、入ってきた信号はそのままの電圧で出て行きます。周波数が上がって来るとCの抵抗が小さくなってくるので、出て行く電圧VoutはRとCで分圧されて、周波数が上がるほど小さくなります。
RCフィルタでは、カットオフ周波数以上の周波数では、周波数が10倍になるごとに、減衰量が20dB増えます(出力電圧と入力電圧の比が10分の1になる)。
(2)LCフィルタの周波数特性
次に、コイル(L)とコンデンサ(C)で構成されるLCフィルタの周波数特性を見てみましょう。
図5のLCフィルタの周波数特性は図6のようになります。
【図5 LCフィルタ】
【図6 LCフィルタの周波数特性】
RCフィルタの場合と同様、図の横軸は、周波数を対数表示したもので、縦軸はフィルタ回路に入って来る信号の電圧で、出て行く信号の電圧を割ったもの(デシベル表示)です。
カットオフ周波数より十分低い周波数では、Lは小さな抵抗、Cは大きな抵抗なので、入ってきた信号はそのままの電圧で出て行きます。周波数が上がって来るとLの抵抗は大きく、Cの抵抗は小さくなってくるので、出て行く電圧VoutはLとCで分圧されて、周波数が上がるほど小さくなります。
LCフィルタでは、カットオフ周波数以上の周波数では、周波数が10倍になるごとに、減衰量は40dB増えます(出力電圧と入力電圧の比が100分の1になる)。これは、 RCフィルタに、コイルが高周波をブロックする働きが付け加わったと理解することができます。
なお、図中の青点線は、この回路に直流抵抗が全くないとして計算した時の周波数特性で、コイルとコンデンサのLC共振周波数がカットオフ周波数と一致しているために起こります。実際の回路ではVin側の回路の出力インピーダンス、 Vout側の回路の入力インピーダンスの影響で、点線のような鋭いピークにはなりませんが、カットオフ周波数に近い周波数のノイズは増幅してしまうことになるので注意が必要です。意識的に回路に直流抵抗を挿入する等の対策を取ります。
(※LCフィルタの周波数特性については、次回の連載でも解説します。)
3.コモンモードノイズとノーマルモードノイズ
図2のローパスフィルタの回路は、信号源、ノイズ源を明示すれば、図7のように描くこともできます。
【図7 ローパスフィルタの働き】
(ノーマルモードノイズの場合)
青色で示した信号源に、赤色で示したノイズ源が重畳していますが、周波数の高いノイズ電流(赤線)はLCローパスフィルタの働きで負荷抵抗には流れません。このようなノイズを「ノーマルモードノイズ」、あるいは信号線を逆方向に流れることから「ディファレンシャルモードノイズ」と言います。
【図8 コモンモードノイズがある場合の電流】
これに対して、ノイズ源が信号回路とグランドの間に入り、信号線を同方向に流れ、浮遊容量等によってグランドを通って信号源に戻って来るモードがあり、「コモンモードノイズ」と言います。
図8はコモンモードノイズ源がある場合に流れる電流を示しています。このままだと、負荷抵抗に流れる電流には影響しないように見えますが、2本の信号線のインピーダンスの若干の違い等によって負荷抵抗にノイズ電流が流れます。
コモンモードチョークコイルによる対策
コモンモードノイズ対策としては、コモンモードチョークコイルが一般的に用いられます。これは、フェライトコア等に図9のように同一巻き数の一対のコイルを巻いたものです。
【図9 コモンモードチョークコイル】
これに、図10のようにノーマルモード電流(青矢印)を流した場合は、磁心に発生する磁束(緑矢印)が打ち消しあうためコイルとしての働きをしません。
一方、コモンモード電流(赤矢印)を流した場合、磁束(紫矢印)が強め合うため、コイルとして作用し、コモンモード電流を減衰させることができます。
【図10 コモンモードチョークコイルに電流を流した場合に発生する磁束】
ですから、図8の回路に図11のようにコモンモードチョークコイルを入れることが、コモンモードノイズの有効な対策になります。
【図11 コモンモードチョークコイルの使い方(使用例)】
以上、今回は導体伝導のノイズ対策として、ローパスフィルタの基礎知識を解説しました。
次回は、LCフィルタの注意点とフィルタ用の回路素子についてご説明します。
(アイアール技術者教育研究所 H・N)