ラジカル重合の重合プロセスを種類別に解説|塊状重合/溶液重合/懸濁重合/乳化重合の概要
ラジカル重合を工業的に実施するには、重合熱の効率的除去が必要であり、重合プロセスの検討が課題となります。今回はこのラジカル重合の重合プロセスに焦点をあてて解説します。
1.重合プロセスと重合熱
代表的なラジカル重合モノマーの重合熱(重合に伴う発熱)を表1に示します。
どのモノマーでも重合時に大きな発熱があるため、効率的に熱除去できるプロセスの選択が必要になります。もし発熱を除去出来なければ反応の暴走を招き、危険な事態も想定されるからです。
【表1 代表的なラジカル重合モノマーの重合熱】
モノマー | 重合熱, kJmol-1 | |
エチレン | CH2=CH2 | 101.6 |
スチレン | CH2=CHC6H5 | 70.1 |
塩化ビニル | CH2=CHCl | 71.4 |
メチルメタクリレート | CH2=C(CH3)COOCH3 | 57.1 |
メチルアクリレート | CH2=CHCOOCH3 | 78.1 |
酢酸ビニル | CH2=CHOCOCH3 | 89.5 |
ラジカル重合性のモノマーは、ラジカル開始剤を加えて所定温度まで加熱すれば重合が開始されます。
モノマーと開始剤だけの組成で行う重合プロセスは「塊状重合」と呼ばれ、このプロセスで工業的に実施されている重合もあります。
しかし、このプロセスでは重合の進行により粘度が非常に高くなるので、重合熱の除去が難しいという問題があります。この問題を解決するために、表2中のb)溶液重合・c)懸濁重合・d)乳化重合というプロセスが開発されてきました。
【表2 ラジカル重合のプロセスの比較】
2.ラジカル重合プロセスの種類と特徴(メリット・デメリット)
(a)塊状重合
「塊状重合」は、上述のように熱除去が困難という弱点の一方で、下記の長所(メリット)を有しています。
- 1) 溶媒等を用いないので高純度のポリマーが得られる。
- 2) 重合中の粘度上昇に伴って二分子停止反応が起こりにくくなるため、比較的高分子量のポリマーが得られる。
この特徴は、例えば、水族館の水槽等で使用されているアクリルガラスの製造に活かされています。鋳型中にメチルメタクリレートモノマーと開始剤を仕込んで塊状重合すれば、そのままで高純度かつ高分子量のアクリル成型体を得ることが出来ます。
(b)溶液重合
「溶液重合」とは、原料を溶媒で希釈した状態で重合することにより、前記塊状重合の欠点を緩和するものです。
しかし粘度上昇に伴う問題が依然残ることに加えて、下記のデメリットも有するため、工業的にはあまり利用されていないのが実情です2)3)。
- 1) 溶媒への連鎖移動が起こるため、高分子量体を得にくい。
- 2)重合後に溶媒除去が必要になりポリマー回収工程が煩雑化する。
(c)懸濁重合
「懸濁重合」では、後述の乳化重合と共に、水を分散体として用いて効率的に熱除去を行います。
カチオン重合やアニオン重合とは異なり、水中でも実施できるラジカル重合ならではのプロセスと言えます。
懸濁重合は、水に不溶なモノマーと開始剤を水中で攪拌して形成した懸濁状態(液滴状態)で重合します。
これにより直径が数十μmから数mmの球状のポリマー粒子が得られるため、別名「パール重合」とも呼ばれています。
液滴内では塊状重合と同じ機構で重合が進行しますので、高純度で高分子量のポリマーが得られます。
(d)乳化重合
「乳化重合」では、水に不溶なモノマーを界面活性剤により水中で乳化状態において重合します。開始剤は水溶性のものを使用します。
モノマー微粒子(ミセル)中では重合が進行しませんので、懸濁重合とは機構が異なります。
得られるポリマー微粒子の直径は懸濁重合よりもはるかに小さく、50nm-数百nm程度になります。
3.ポリエチレンのラジカル重合プロセスは?
ポリエチレンの中でも低密度ポリエチレンは古くから知られている代表的ポリマーであり、ラジカル重合で生産されています。
原料のエチレンはもちろん気体です。原料が気体の場合には表2の4プロセスのどれも適用できないのではないかと疑問をお持ちなるかもしれません。では、一体どんなプロセスで生産されているのでしょうか?
その答えは(a)塊状重合となります。
圧力がカギを握っています。エチレンを100-300MPaという超高圧下におくことにより塊状重合が可能になります。
以上、今回はラジカル重合の重合プロセスについてご説明しました。
今回でラジカル重合に関する解説は終了とし、次回からカチオン重合の基礎知識を解説します。
(日本アイアール株式会社 特許調査部 N・A)
《引用文献、参考文献》
- 1) 高分子工学講座〈第3〉高分子生成反応, 地人書館(1968年)
- 2) 佐伯康治, ラジカル重合によるポリマー製造プロセスの現状と将来, 高分子22(2), 109-113(1973)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/kobunshi1952/22/2/22_2_109/_article/-char/ja/ - 3) 遠藤剛ら, 高分子の合成(上), 講談社(2010)