メタルバイオテクノロジーの基礎知識|バイオリーチング、バイオマイニングとは?

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メタルバイオテクノロジーの基礎

バイオリーチング」や「バイオマイニング」という用語をどこかで耳にした方は多いと思います。
しかし、一般の方は馴染みのない技術と思います。

本稿は一般の方向けにバイオリーチング(生物冶金)、バイオマイニング、その他のメタルバイオテクノロジーについての基礎事項をまとめてみました。

 

1.メタルバイオテクノロジーとは?

芝浦工業大学の山下光雄教授は、メタルバイオテクノロジーを「微生物,植物等による多様な金属代謝や、生体材料による金属の結合など多様な生物作用を探求して駆使し、人類と金属類の関わりを広範にサポートする技術」と定義されています。

微生物や植物などの金属に対する多様な代謝作用(吸収・備蓄、酸化・還元、メチル化などの有機化、抽出、不溶化、揮発化、吸着・結合など)を環境浄化、資源回収、金属加工、材料劣化防止、新金属材料開発など幅広い分野で活用する技術と、同教授は述べています。

 

2.バイオリーチング/バイオマイニング

先ず用語の定義を確認しましょう。

バイオリーチング」(bioleaching)とは「溶剤で溶けにくい鉱石から金属を製錬する際に、バクテリア(細菌)などの微生物の活性を利用して鉱石を溶解させる技術。」(新語時事用語辞典 2013年)、「微生物の生化学的な作用を利用して、鉱物や鉱石から有用な金属を溶出して精錬する手法。」(デジタル大辞泉)と定義されています。

また、類似する用語である「バクテリアリーチング」(bacterial leaching)の定義としてと「微生物を利用して、鉱物、鉱石中の有用金属を溶出して精錬する方法」(化学辞典 第2版)、「湿式製錬法における鉱石から金属成分を溶出する工程(リーチング工程)に、特殊な微生物がもつ金属溶出に効果的な能力を活用して、金属成分を有利に回収しようとする技術。」(世界大百科事典 第2版)、「硫黄細菌のイオウ酸化力を利用し、鉱物から無機硫黄を除去する方法」(生物学用語辞典)などと記載されています。

また、「バイオマイニング」(biomining)とは「微生物の生化学的な作用を利用し、鉱物や鉱石から有用な金属資源を抽出する技術の総称」(デジタル大辞泉)とされており、バイオリーチングより、やや広義の用語のようです。

なお、”leaching”とは「洗脱」、「溶脱」や「浸出」と訳され、「鉱石や焙焼鉱の中に含有される金属や金属鉱物などの特定の成分を酸、アルカリなどの溶媒に溶かし出し、残りの固体から分離する」(世界大百科事典 第2版)湿式冶金を意味し、酸化鉱からの金属回収技術として確立されました。
一次硫化鉱である黄銅鉱(CuFeS2)から銅を浸出させるためには、Fe3+イオン(硫酸第二鉄[Fe2(SO4)3])が必要であり、Fe3+が黄銅鉱に作用すると、以下のような反応により、銅が硫酸銅として浸出されます。
この際、Fe3+は還元されてFe2+になります。

 CuFeS2 + 2 Fe2(SO4)3 + 2H2O + 3O2→ CuSO4 + 5FeSO4 + 2H2SO4

この方法で鉱石からの銅の浸出を連続的に進行させるためには、Fe2+をFe3+に再酸化する必要がありますが、浸出液はpH 2.0付近の硫酸酸性であるためFe2+は自然酸化されません。

 

3.黄銅鉱のバイオリーチング

Fe2+の酸化によってエネルギーを獲得して独立栄養的に生育する好酸性の鉄酸化細菌は、硫酸酸性のpH環境でFe2+をFe3+に変換することが可能であり、この細菌の作用を使うことによって連続的に銅の浸出が可能となります。

具体的には、イオウ酸化細菌 は(1)式により硫酸を、鉄酸化細菌**は(2)式により硫酸第二鉄を生成し、これらの酸化剤が鉱石に作用して金属を溶出します。

 S+11/2O2+H2O→H2SO4 ・・・(1)
 4FeSO4+2H2SO4+O2→2Fe2(SO4)3+2 H2O ・・・(2)


Thiobacillus thiooxidans, T.concretivorus, T.ferrooxidans(イオウ酸化細菌)
**
Ferrobacillus ferrooxidans, F.sulfooxidans(鉄酸化細菌)

 
銅イオンを含んだ鉱水の生成に微生物が関与しているということは知られていましたが、最初に好酸性鉄硫黄酸化細菌”Thiobacillus ferrooxidans“(Acidithiobacillus ferrooxidansに再分類)が単離されたのは1951年、米国のコネチカット銅会社が、「鉄酸化細菌を利用するサイクリックな金属溶出法」という米国特許を取得したのは1958年となります(Zimmerley, S. R. et al.: US Patent 2,829,964)。

鉱工業においてバイオリーチングが商業的に利用されるようになったのは、この特許技術以降のことであり、鉱石から金属を浸出させる新しい鉱業技術として認識されるようになりました。
この方法は、設備費、操業費、人件費などが少なくて済み、低品位鉱石、鉱石採掘跡や露天堀跡なども対象とすることができます。

 

4.微生物を利用するレアメタル回収

レアメタル(希少金属)とはレアアース(REE)を含む31鉱種で、分離・精錬が困難であるという特徴を有しています。また、燃料電池などにも使われ、ハイテク産業に必須の存在として脚光を浴びています。
しかし、埋蔵国は中国、オーストラリア、南北アメリカ、ロシア、アフリカ諸国に偏在しており、埋蔵国による輸出禁止や制限が行われることもあります。

レアメタルを低濃度・低含量で含む環境中や、排水・廃棄物中から除去・処理する際、自然界からの濃縮や資源回収・再資源化、レアメタルの変換・加工の生産プロセスに応用する際に、レアメタルの代謝能力を有する微生物を活用する、バイオリーチングなどのメタルバイオテクノロジーは、物理・化学的プロセスに比べ明確な利点を有しています。
排水や廃棄物からのレアメタルの回収・資源化は、環境保全と資源回収の両立を可能とする一石二鳥の技術といえます。

ある種の微生物は金属類を電子供与体として利用しエネルギーを得、その過程で金属類は酸化されます。
一方、金属類を酸素の代わりに電子受容体として用いて呼吸した場合には、還元されます。

 

5.セレン酸還元細菌によるセレン回収

レアメタルの例として、微生物によるセレンの回収技術(山下光雄教授ら)を簡単にご紹介します。

セレンは電子材料、鋼材の添加剤、ガラスの着色・脱色、化学触媒などの幅広い用途に利用されているレアメタルですが、触媒還元、凝集剤による凝集沈殿を行う化学的方法ではエネルギー、薬剤等資源の消費が大きく、経済的ではありませんでした。
また、セレンは凝集沈殿により鉄等の化学泥中に吸着されますが、その含有量が低いため資源としてリサイクルすることが困難でした。

山下教授らは、セレン精錬工場の排水溝に形成された生物膜よりSe(+VI) 還元細菌 Pseudomonas stutzeri NT-I 株を分離し、好気条件下でNT-I 株を培養することで Se(+VI) を Se(0) にまでスムースに還元できること、さらに培養を継続すると、Se(0) をさらに還元し、セレンをメチル化することで気化させる能力も併せ持つことを見出しました。

 
ここでは、セレンの回収技術を紹介しましたが、セレン以外にも様々な金属の回収に微生物を利用する技術が開発されているようです。以下、項目のみご紹介します。

  • 大腸菌を利用した希土類金属及び貴金属の環境調和型高効率分離技術(九州大学)
  • パン酵母を分離剤として活用する貴金属・レアメタル(金、パラジウム、白金)のバイオ回収(大阪府立大学)
  • 微生物カプセルで廃棄物が宝の山に変わる…かも(大阪府立大学、森下仁丹)
     ※出典:日経バイオテク https://bio.nikkeibp.co.jp/article/bc/0010/0159/
  • 特許7130278 「金属の回収方法」(株式会社ガルデリア)
     金(Au)及びパラジウム(Pd)の回収
     シアニディウム目(Cyanidiales)に属する微生物

 

ということで今回は、メタルバイオテクノロジーの基礎知識についてご紹介しました。
 

(日本アイアール株式会社 特許調査部 A・A)
 


《参考文献・サイト》

  • 1) 上村一雄, 金尾忠芳「微生物を用いる湿式冶金―バイオリーチング」生物工学 第95巻,第11号,662-666(2017)
    https://www.sbj.or.jp/wp-content/uploads/file/sbj/9511/9511_yomoyama.pdf
  • 2) 栗原一男「バクテリア・リーチングについて」No.36,11-14 (1968)
  • 3) 池道彦,山下光雄,黒田真史「メタルバイオ技術による排水からのレアメタル回収の可能性」環境バイオテクノロジー学会誌 Vol. 12, No. 1, 3–8, 2012
    https://www.jseb.jp/wordpress/wp-content/uploads/12-01-003.pdf
  • 4) [ScienceNews2016]微生物で資源を回収 メタルバイオテクノロジー(YouTube動画)
     https://youtu.be/AZ0bZZ08DgM

 

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