【米国特許分析】自然言語生成に関する特許出願の状況は?《ChatGPT要素技術》
2023年5月に開かれたG7広島サミットで議題にもなる程、生成AIが注目されています。
生成AIの中で、ChatGPTやPerplexity Askを始めとする対話型AIが連日のようにニュースで取り上げられ、様々な活用事例なども報告されてきています。
ChatGPTは、特に人間のような自然な文章の生成に優れていると言われてます。
自然言語処理は、「自然言語理解」と「自然言語生成」とに大別されますが、今回は自然言語生成に焦点を当てて、海外特許検索システムOrbit Intelligenceを用い、米国の特許出願状況を大まかに調べてみました。
なお、データは2023年5月29時点のものです。
1.自然言語生成技術に関するIPCの付与状況
まず、予備検索を行い、72件の公報に付与されているIPC(国際特許分類)の割合を見ました。
ここでは、全体的な傾向を把握するために、細分化されたCPCではなく、IPCを採用しています。
IPCのメイングループの付与状況を図1-1に示します。
関連性が高いと思われるG06F40/00[自然言語データの取扱い]が最も多く付与されています。
次いで、G06F17/00[特定の機能に特に適合したデジタル計算またはデータ処理の装置または方法]となっています。G06F17/00はG06F40/00の旧分類であるG06F17/20を含んでいます。
72件中61件(約85%)に、G06F40/00またはG06F17/00が付与されていました。
【図1-1 IPCメイングループの付与状況(延べ数:305)】
次にG06F40/00とG06F17/00のサブグループを見ていきます。
G06F40/00とG06F17/00のサブグループの付与状況を図1-2に示します。
一見するとG06F40/30[・セマンティック解析]の割合が大きいようにも見えますが、実際はG06F40/30とG06F40/56[・自然言語の処理または翻訳 ・・規則に基づく翻訳 ・・・自然言語の生成]の双方が付与されている件数が、それぞれ単独で付与されている件数よりも多いです。
旧G06F17/27と旧G06F17/28は、それぞれG06F40/30とG06F40/56の上位階層に相当します。
サブグループ61件中46件(約75%)に4つのIPCのいずれかが付与されています。
今回はこれらの分類とキーワードを組み合わせて母集合を作成しました。母集合は2737件となります。
【図1-2 G06F40/00とG06F17/00のサブグループの付与状況(延べ数:173)】
2.自然言語生成技術に関する米国特許出願状況(過去20年間)
(1)出願件数の推移
2003年以降の出願件数の推移を図2に示します。
第3次AIブームが始まったとされる2000年代では、目立った動きはなく、ディープラーニングが普及する2010年以降、件数は急激に増えているようです。
2019年の件数は2011年に比べ10倍近くになっており、技術が飛躍的に向上したことを裏づけているものと考えられます。直近の2021年と2022年の件数は出揃っていませんが、2019年をピークに減少に転じたかのようにも見えます。単なるブームは去ったとする見方もあります。
【図2 2003年以降の出願件数の推移】
(2)出願人(譲渡人)ランキング
米国特許の出願人(譲渡人)ランキングの上位10社を図3-1に示します。
また、各社の出願件数の推移を図3-2に示します。
上位10社中8社を米国企業が占めています。
中でも出願件数1位のIBMが群を抜いています。続く2位のMicrosoftはOpenAIに巨額の投資を行い、対する3位のGoogleは先ごろ同社のチャットAIである”Bard“の日本語対応を発表しました。両社の開発競争が激化しています。なお、日本企業の最高はNTTの13位でした。
【図3-1 譲渡人ランキング上位10社】
【図3-2 譲渡人別の特許出願件数の推移】
上位10社のうち、日本国内での知名度が極めて高いと考えられるお馴染みの企業以外について、簡単にご紹介します。
4位のNuance Communicationsはマサチューセッツ州バーリントンに本社を置き、音声と対話ソリューションを提供する企業です。設立は1992年と古いです。かつては、Apple(ランキング17位)とSiriを共同開発していました。2022年3月にマイクロソフトに買収されています。
5位のNarrative Scienceは、2010年設立されたイリノイ州シカゴに本部を置くテック企業でしたが、2021年12月Salesforce(ランキング12位)に買収されました。自然言語生成のリーダー的な存在で、主力製品である自然言語生成プラットフォームQuillを開発しました。
7位のCapital One Servicesは1994年に設立された金融サービスを提供する企業です。2022年に金融会社の中で最も多くの特許を取得しました。取得した特許は銀行関連に限らず、人工知能、機械学習などの分野にも及びます。
10位のArria Data2Textは、当初Data2Textとして2009年2月にスコットランドのアバディーン大学の教授らによって設立されました。2013年にArria NLG が Data2Text の全株式を取得し子会社化しました。Arria のNLGは構造化データを自然言語に変換するAIです。
3.おわりに
以上、自然言語生成に関連する米国特許の出願状況を簡単に見てきました。
今、第4次産業革命が進行しつつあります。AIはさらなる進化を遂げ、日々の生活に浸透していくでしょう。
しかし、どんな道具も使い方によっては、善にも悪にもなりうるのです。
技術の進歩に社会的なルールが追いつかないのは常であります。
人類はAIとどう向き合っていくのか今後の動きに目が離せません。
参考:簡易的な検索式
(日本アイアール株式会社 特許調査部 S・M)