3分でわかる技術の超キホン サリドマイドとは?(薬害事件の過去、そして新たな可能性)
サリドマイドは1950年代末から60年代初めに、世界の40カ国以上で鎮静・催眠薬として販売されていました。
サリドマイドを妊娠初期に服用すると、胎児の手/足/耳/内臓などに奇形を起こします。
世界で数千人~1万人、日本で約千人の胎児が被害にあったと推定されています。
当然、サリドマイドは販売が中止されましたが、その後新たな薬の効果が発見され、再び承認・販売されるようになりました。
目次
サリドマイドとは?
化合物名は3′-(N-フタルイミド)グルタルイミドで、水に溶けにくい針状結晶で、無水フタル酸とアミノグルタルイミドの縮合反応により合成されます。分子の中に1箇所不斉炭素を持ち、R体とS体の鏡像異性体が存在します。
1979年には、R体が催眠作用のみを持ち、S体が催奇性だけを現すという報告がなされましたが、1994年の報告では、R体のみを投与しても比較的速やかに(半減期566分)動物体内でラセミ化するとの報告もあります。
日本の薬事制度を揺るがす薬害事件「サリドマイド事件」
日本では睡眠薬のイソミンとして1958年初頭に発売されました。その後、プロバンMとして神経性胃炎の薬として妊婦にも調剤されました。
ところが、1961年疫学調査(レンツ博士の警告)から先天異常「サリドマイド胎芽症」や胎児死亡といった催奇性と因果関係があるとされ、日本では1962年9月に販売停止と回収が行われました。日本では市販睡眠薬以外に妊婦の「つわり」の症状改善のために、サリドマイドが調剤されたことなどから、大きな社会不安を引き起こしました。
サリドマイドが奇形を引き起こすのは、胎児の手足の末端の血管新生が阻害されて十分に成長しないためであると考えられています。
なお、ヨーロッパでは、レンツ警告からわずか10日で薬の製造・販売が中止され、回収が始まりましたが、厚生省はレンツ警告に「科学的な根拠がない」として対策を講ずることなく、別の一社にも製造承認を与えてしまい、この対応が被害を拡大したとされました。
サリドマイド事件は、わが国の薬事制度の根幹を揺るがした大きな薬害事件で、現在の薬事制度導入のきっかけともなったといわれています。
しかし、販売中止になったあとも、いろいろな研究がされ、別の効果があることがわかりました。
サリドマイドの新たな効果
らい性結節性紅斑
1965年に、サリドマイドが「らい性結節性紅斑」に一時抑制効果が確かめられました。
サリドマイド事件から40年後の1998年、アメリカ食品医薬品局(FDA)は、「らい性結節性紅斑」に対して使用を承認しました。
日本でも、多発性骨髄腫とともに2008年サレドカプセルの商品名で再承認されました。
多発性骨髄腫
1999年には多発性骨髄腫(骨髄がん)への臨床試験が行われ、藤本製薬は2005年8月からサリドマイドを多発性骨髄腫の治療薬として治験を行い、2006年に、厚生労働省に製造販売の承認申請を行いました。
申請を受けて厚生労働省は、安全管理方策について「サリドマイド被害の再発防止のための安全管理に関する検討会」および医薬品等安全対策部会において検討を行い、2008年にサリドマイドの製造販売を再承認する方針を明らかにしました。
日本では使用にあたって「サリドマイド製剤安全管理手順」の遵守が求められています。
【現製品】サレドカプセル100
国際誕生年月 :2008年10月
1カプセル中 サリドマイドを100 mg含有
【効能・効果】
- 再発又は難治性の多発性骨髄腫
- らい性結節性紅斑
また、この薬の添付文書には「警告」が記載されています。
警告:「ヒトにおいて催奇形性(サリドマイド胎芽病:無肢症、海豹肢症、奇肢症等の四肢奇形、心臓疾患、消化器系の閉塞等の内臓障害等)が確認されており、妊娠期間中の投与は重篤な胎児奇形又は流産・死産を起こす可能性があるため、妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には決して投与しないこと。」
さらに、この薬にはいろいろな効果があることがわかってきました。
サリドマイドに関する最近の研究
抗がん剤
単独での抗がん作用は低いものの他の抗がん剤との併用で効果をもたらしたり、がん性の悪液質を改善する効果については臨床試験で示されており、生活の質(QOL)の改善や延命への効果が期待されています。
その他
- エイズウイルスの増殖抑制
- 糖尿病性網膜症と黄斑変性症の予防
- ハンセン病
- 各種のがん悪液質(カヘキシー)への改善効果への期待
- 制吐作用
等々が検討されています。このようにいろいろな可能性が期待されている薬ではあります。
サリドマイドに関する特許・文献を調査してみると?
(※いずれも2018年10月時点における検索結果です)
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(日本アイアール株式会社 特許調査部 S・T)
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