3分でわかる技術の超キホン 材料による太陽電池の分類と特徴(シリコン系/無機化合物系/有機系)
化石資源を大量に消費することで発展し続けてきた現代社会ですが、資源の枯渇、CO2濃度の増加による地球温暖化などの問題から、再生可能エネルギー技術の開発が進められています。
その中でも注目されているのが太陽光エネルギーの開発です。
太陽電池は、太陽光発電システムの中心で、太陽の光エネルギーを吸収して電気に変えるエネルギー変換素子です。「電池」という名前がついていますが、電気をためる機能はありません。
ちなみに、太陽光発電は英語では”Photovoltaic(PV)power generation”と呼ばれています。
今回は、材料による太陽電池の分類と特徴について解説します。
目次
光吸収層の材料による太陽電池の分類は?
太陽電池は分け方によって色々な種類がありますが、光吸収層の材料によって、シリコン系、無機化合物系(シリコン以外の無機化合物)と有機系(有機金属錯体系も含む)に分けられます。
1.シリコン系太陽電池
現在最も広く使われている太陽電池は、シリコン系太陽電池です。
結晶シリコン太陽電池に関しては日本が世界最大の生産量を誇っています。
この太陽電池では、電気的な性質の異なる2種類(p型、n型)の半導体を重ね合わせた構造をしています。
シリコン半導体の中に、不純物を混ぜること(ドーピング)によって、抵抗値が大きく下がって、不純物半導体となります。混ぜるものによって、p型とn型に分けられます。
pn型太陽電池に太陽の光が当たると、電子(-)と正孔(+)が発生して、正孔はp型半導体へ、電子はn型半導体側へ引き寄せられます。
このため、表面と裏面につけた電極に電球やモータのような負荷を繋ぐと電流が流れ出します。
[図1.pn型シリコン太陽電池の仕組み]
シリコン系太陽電池は材質によって概ね「結晶シリコン」と「アモルファスシリコン」に分けられます。
(1)結晶シリコン
「結晶シリコン」は、単結晶、多結晶と微結晶シリコン型があります。
そのうち「単結晶型」で、高純度シリコン単結晶ウエハを半導体基板として利用するものが、最も古くから使われています。
変換効率に優れますが、生産に必要なエネルギーやコストが高くなるため、近年は多結晶シリコンや薄膜シリコン太陽電池に移行が進んでいます。
「多結晶型」は、結晶の粒径が数mm程度の多結晶シリコンを利用した太陽電池です。シリコン半導体素子の製造過程で生じた端材やオフグレード品のシリコン原料を利用して製造できます。
単結晶シリコンに比べると変換効率は落ちますが、コストと性能のバランスに優れています。
「微結晶型」は微細な結晶で構成された薄膜です。
多結晶型の一つでもありますが、製膜条件によってはアモルファス的な性質も併せ持つ結晶型シリコンです。
(2)アモルファスシリコン
アモルファスシリコンは、シランガスから化学気相成長 (CVD) 法によりできる薄膜状シリコンで、a-Si などと略記されます。使用するシリコン原料が少なく、エネルギーやコスト的に有利です。
また、低照度下での効率が高いことや、蛍光灯の短波長光に感度があることから、電卓など室内用途に使われてきました。
太陽光で劣化しやすい点とエネルギー変換効率が低い点が短所でしたが、技術進歩により近年では屋外用も市販されています。
2.無機化合物系太陽電池
(1)InGaAs系太陽電池
InGaAs(インジウムガリウムヒ素)中の2・3種を用いて、3層の結晶構造を有する太陽電池が作られています。効率はとても良好ですが、毒性があり、コストも高いので、用途としては宇宙用などに限られます。
(2)CIS系太陽電池
薄膜多結晶タイプの太陽電池です。
光吸収層の材料として、シリコンの代わりに、Cu、In、Ga、Al、Se、Sなどから成る「カルコパイライト系」と呼ばれるI-III-VI族化合物を使われます。
製造法や材料のバリエーションが豊富で、低コスト品から高性能品まで対応できるのが特長です。
(3)その他の無機化合物系
他にもCIGS(Cu、In、Ga、Se)、CZTS(Cu2ZnSnS4)など様々な無機化合物からなる太陽電池があります。光電変換効率やコスト等を総合的に考え、色々な用途に対応する太陽電池が作られています。
3.有機系太陽電池
(1)色素増感太陽電池
シリコン系やほかの無機化合物太陽電池は、極めて順調に技術発展しているように見えますが、原料であるシリコンの高いコストと生産量が普及を妨げる大きな要因となっています。
そこで、新しい再生可能エネルギー源として、有機物(有機金属錯体)を使った新しいタイプの太陽電池が注目されています。
よく知られているのは、多孔質二酸化チタン(TiO2)電極を色素で修飾したものを使った太陽電池です。
紫外光を吸収する酸化チタンは色素の修飾により可視光の吸収もできるようになり、光電変換を起こる太陽光電池として作動します。
その作動原理について、ルテニウム(Ru)色素を例として簡単に説明します。
[図2.色素増感太陽電池の仕組み]
- ① 光で色素のルテニウム錯体が励起され、励起電子は二酸化チタン電極の伝導帯に注入。
- ② 注入された電子は、導電膜を通って外部回路へ流れる。
- ③ 酸化されたルテニウム錯体は、電解質中の還元剤から電子を受け取り、元の還元型へと回復。
- ④ 電子を失った電解質中の還元剤は、対電極から再び電子を受け取ることにより、元の酸化状態に戻る。
[図3.二酸化チタンの光増感に使われるルテニウム(Ⅱ)錯体の例]
色素増感太陽電池に使用されている二酸化チタンは顔料、化粧品等の様々な分野で使われており、安定性が高く環境負荷も小さいといったメリットがあり、広く受け入れられている材料です。
特にシリコンに比べて、製造しやすい点は有利です。しかも、色素も選ぶ範囲が広く、製品化しやすいという特徴があります。
色素増感太陽電池の開発の歴史はまだ浅く、実用化には至ってない段階ですが、シリコン電池より光電変換の効率よく、トータルコストの低減が求められます。
増感色素は効率に最も大きな影響を及ぼす電池の元素です。
錯体をデザインする際に考慮すべき性質としては、
- 太陽光領域に大きな吸光係数を持つ
- 基底状態、励起状態のエネルギーレベルが、半導体電極、酸化還元系のエネルギーレベルとマッチングする
- 半導体電極表面に吸着することができるような構造を有する
- 光、熱に十分の安定性を持つ
- 製造コストが低い
などが挙げられます。
(2)有機薄膜太陽電池
導電性高分子やフラーレン等の芳香性有機化合物は、有機ELなどの研究により電子伝達特性が明らかになりました。それらの組み合わせによる作られたデバイスは「有機薄膜太陽電池」となります。
有機物のため、溶解性と柔軟性を持ち合わせており、そのメリットは製造が簡単で、大面積化が比較的容易であることです。その一方、変換効率や寿命が技術課題となっています。
(日本アイアール株式会社 特許調査部 H・L)