3分でわかる技術の超キホン ゾルとゲルの違い|ゾル-ゲル転移の仕組み
前回の当連載コラム「「コロイド」とは?」では、コロイドの基礎知識を解説しました。
今回は、続きとして「ゾル」と「ゲル」について簡単にご説明したいと思います。
1.ゾル(sol)とは?
「ゾル」(sol)とは、液体中に微粒子が分散質として分散し、かつ流動性を保つものです。
前回のコラムでとり上げた「コロイド溶液」は、「ゾル」とも言えます。
ちなみに、気体を分散媒とするコロイドを「エアロゾル」、固体分散媒のコロイドを「ソリッドゾル」ということもあります。
また、分散媒自体の物性は液体であっても、分散質のネットワークにより流動性を失い、固体のように振舞うコロイドもあって、それらは「ゾル」ではなく、「ゲル」(gel)と呼ばれます。
(※ソリッドゾルをゲルに含めることもあります)
2.ゲル(gel)とは?
上述のように、ゲル(gel)は分散系の一種であり、ゾルと同じく液体分散媒のコロイドに分類されますが、そのうち流動性を失い固体状となったものを「ゲル」(gel)と呼びます。
ゾル状態からゲル状態へ転移する場合を「ゲル化」(gelation)と、その転移点を「ゲル点」と呼びます。
ゲルの種類と架橋
ゾルがゲルになるときに、分散質が繋がってネットワークを作る現象を「架橋」といいます。
ゲルは架橋の方法により、「化学架橋ゲル」と「物理架橋ゲル」があります。
- 化学架橋ゲル:共有結合で架橋されているゲルです。
- 物理架橋ゲル:分子間力などの弱い結合で架橋されているゲルです。
物理架橋ゲルの結合は弱くて可逆的なので、温度変化や応力などでゾルに戻ります。
一方、化学架橋ゲルの共有結合は安定しており、熱運動では構成要素の結合が切れません。
3.ゾル-ゲル転移
「ゾル-ゲル転移」は、粘性流体であるゾルが弾性体であるゲルへと転移する現象です。
この現象は、従来から幅広く活用されています。
よく見られるゲル化するものは、多糖類を使った食品でしょう。特に寒天、ゼリーなどが挙げられます。
ゾル-ゲル転移の仕組み(多糖類の例)
多糖類溶液を例として、ゾルーゲル転移を見てみましょう。
多糖類の濃度の増大に伴って粘度が上昇していくと、多糖類分子同士が自由に動けなくなります。
このとき、多糖類分子が絡まりあい、分子同士がくっつくことで網目のネットワーク構造が作られ、ミクロな空間が多くできます。構造ができることで、液体は流動性を失い、網目構造の空間内には水が包まれるので、多量の水を保持することができるのです。
つまり、溶液中にバラバラに存在していた多糖類が、部分的に結合(架橋)することで、その部分を基点として網目状ネットワークを構築し、溶液全体がゲルになると言われています。
澱粉、寒天、ペクチンなどのゲルは、上記のように均一に分散した流動性のある液体を冷却して作られます。
高温の液体状態では、多糖類分子がランダムな状態で分散していますが、温度の低下と共に、分子間の相互作用が著しく上昇し、架橋点ができることでネットワーク構造を形成します。
一方で、メチルセルロース等は、加熱することでゲルとなり、冷却すると再び液状になります。
メチルセルロースは水溶液中では水と結合することで溶解していますが、高温度になると熱運動のために水和状態が減り、疎水基の結合が起きることでゲル化するといわれています。
図1は、ネットワークを構築する際の分子の挙動を示したものです。
ネットワークを構築中に、激しく攪拌したり揺らしてしたりするとネットワークが上手に構築できず不均一になってしまいます。
【図1 ゲル化する際の分子挙動模式図】
また、ゲル化する速度も多糖類によって異なります。冷やす速度についても、多糖類の種類によってはゲルの出来上がりに影響を与えます。耐熱性のない多糖類を用いた場合には、加熱が終了し容器に入れた後、直ちに冷却しないと強度が低下する可能性がありますし、逆にゆっくりと冷やさないと十分にゲル化できないものもあります。
こういった特性も、ゲル化させる多糖類を選択する際のポイントとなりますので、十分に注意する必要があります。
(日本アイアール株式会社 特許調査部 H・L)