3分でわかる技術の超キホン シランカップリング剤とは?反応・機能・添加方法など要点解説
1.シランカップリング剤とは?
「シランカップリング剤」は、Si(ケイ素、シラン)を含む化合物のうち、有機化合物と反応する部位、無機化合物と反応する部位の双方を有する化合物の総称です。
ガラス繊維強化プラスチックなどの複合材料の研究発展に伴い、異なる材質同士の接着剤・接合剤としての役割が重宝され、有機材料と無機材料両方の利点を生かす材料開発には不可欠な存在となっています。
ガラス繊維強化樹脂など様々な製品によく用いられており、日本では信越化学工業や旭化成などで販売されています。
構造的特徴としては、無機反応部位としてトリアルコキシシラン、有機反応部位としてアルキル基、アミノ基、オレフィン、芳香環などを持つ点が挙げられ(図1)、それぞれの官能基に応じた物性、反応性を示します。これら2つの反応部位は、一般的に相反する性質を持つので、離れている方が望ましいとされているため、n = 3 のものが多くなっています。
例外としては、炭素鎖が短い n = 1 のαシランカップリングも開発されており、特異な性質を示す反応剤としてドイツのWacker社が発売しています。
【図1 シランカップリング剤の基本構造】
2.シランカップリング剤の反応
(1)有機部位の反応
有機部の基本的な反応として、他の有機分子と同様、加水分解反応(図2)や脱水縮合反応等が挙げられます。
これらの反応が繰り返されることで多量化し、高分子化合物となります。反応は、酸素とケイ素の共有結合は強い結合エネルギーを有するため、炭素酸素結合を形成するエーテルの合成(アルコールの脱水縮合)よりも温和な条件で進行することが多いです。
その他には、対象のシランカップリング剤が有する置換基(R2)に応じた反応性を示します。
無機部位がほとんどメトキシ基かエトキシ基であるのに対し、この置換基 R2は炭素の数を始めとして様々な構造を導入することができるので、これに所望の物性を発揮する分子の設計が可能になります。
また、ケイ素中心もグリニャール試薬などの炭素アニオン等価体と反応させることができ、修飾・設計することが可能です。
【図2 脱水縮合反応】
(2)無機部位の反応
無機部 (アルコキシシラン)の反応は、加水分解からスタートします。
ケイ素化合物の加水分解反応は、炭素等とは異なり、酸性・塩基性条件で異なる反応機構で進行します。
すなわち、酸性条件の場合は、アルコキシドの酸素がプロトンにより活性化されたのち、水分子がケイ素中心に求核攻撃することによりSN2型の置換反応を起こします。
一方、塩基性条件下では、ヒドロキシドの求核攻撃が先行し、5配位中間体(シリケート)を経由することが知られています。
全体的にみると、アルコキシドとヒドロキシドが入れ替わり、シラノールが生じているという反応です。(図3)
図を見てもわかるように加水分解が進行する割合に応じて、分子中のOHの割合が変わります。
アルコキシドが1つ加水分解されれば、その分子は1つの縮合部位を持つことになりますし、2つ加水分解されれば縮合部位は2つになります。加水分解の程度を調整することで、反応部位の数を調整するわけです。
言い換えれば、反応温度、溶媒や濃度などを検討し、望みの物性を発揮する縮合度にするのが、シランカップリング剤を用いる反応の研究内容になります。通常の有機反応に比べ、有機/無機双方の性質を持つ分子を扱うわけですので、親水性と疎水性のバランスが重要となる例が多いと考えられます。
【図3 加水分解反応】
3.シランカップリング剤の機能
ここまで各置換基の反応について述べましたが、適切な置換基を導入することで、材料全体の新規物性の発現を期待できます。
例えば、吸光や蛍光を持つ置換基を導入すれば、材料全体に色を付けることができます。
それぞれの材料に色を付ける技術はもちろん確立されていますが、接合剤となるカップリング剤そのものに色特性を持たせることができれば、使用する原料の削減にもつながりますし、不純物が混ざる確率も減りますので、耐久性など新たな高物性を示すことも期待できます。
また、最近では有機材料の耐熱性を向上させる目的に添加されるシランカップリング剤もあります。
一般的なシランカップリング剤では、有機部位と無機部位が熱によるレトロヒドロシル化反応で分解する懸念がありますが、耐熱性を向上させるために強固なシリカ骨格を導入する技術も開発されつつあります。
4.シランカップリング剤の添加方法(直接導入、シリル化)
シランカップリング剤の添加方法は、直接導入法やポリマーへのシリル化による導入法などがあります。
直接導入法は、直接シランカップリング剤で処理した無機フィラーを樹脂に混合する方法であり、カップリング剤の効果の再現性に優れているため、シランカップリング剤の効果を確かめるためによい方法と考えられます。
具体的には、乾燥したままのフィラーに噴霧することにより混合する方法やあらかじめスラリー状にしておいたフィラーにシランカップリング剤溶液を混合する方法などがあります。
また、ポリマーへのシリル化法は既存のポリマーに対する導入方法であり、シランカップリング剤を化学的に反応させて導入します。これにより、ポリマーの末端や側鎖をシリル化することができます。
いずれの方法でも、シランカップリング剤が少なすぎると十分な効果を発揮できないことが考えられますし、逆に多すぎても物性に悪い影響を与える場合があります。すなわち、添加量も重要なパラメータであり、最適な量を検討する必要があります。
(アイアール技術者教育研究所 Y・F)
《参考文献》
[1] Tacke, Reinhold et al., Organometallics 2014, 33, 2721.
[2] Unno, M. et al., J. Jpn. Soc. Colour Mater., 2015, 88, 143.