バイポーラトランジスタの原理と構造がわかる [要点解説]
「トランジスタ」とは、電子回路で信号を増幅したり、スイッチの役割を果たしたりする半導体素子で、”transfer”(移す)と”resistor”(抵抗)から”transistor”と名付けられました。
トランジスタは大きく分けると、バイポーラトランジスタと電界効果トランジスタの2種類があります。
今回はバイポーラトランジスタの基礎知識を解説します。
1.バイポーラトランジスタとは
バイポーラトランジスタは、三つの端子、エミッタ(E)、ベース(B) 、コレクタ(C)を持ち、n型半導体、p型半導体、n型半導体の並び(npn型)あるいはp型半導体、n型半導体、p型半導体の並び(pnp型)の2種類があります。デバイスの機能に電子、正孔の両方が関わっていますので、「バイポーラ」と呼ばれます。
バイポーラトランジスタの回路記号は図1のようなものが一般的で、矢印はp型層からn型層に向かっています。
【図1 バイポーラトランジスタの回路記号】
2.バイポーラトランジスタの原理と構造
バイポーラトランジスタのバンド図
図2は、 端子間に電圧をかけない状態でのnpn型バイポーラトランジスタのバンド構造を示したものです。
エミッタは、高濃度にドナーがドープされています。
ベースは、非常に低濃度にアクセプタがドープされています。ベース層の厚さが非常に薄いのが特徴です。
【図2 npn型バイポーラトランジスタのバンド構造】
図3は、npn型バイポーラトランジスタをダイオードの組み合わせで模式的に示したもので、それぞれのダイオードが外部から与えられた電圧のもとでどのように動作するかを思い浮かべると、理解しやすくなります。
【図3 npn型バイポーラトランジスタをダイオードの組み合わせで表示】
図2に示したトランジスタで、ベースに対してエミッタに負の電圧(VEB)をかけ、ベースに対してコレクタに正の大きな電圧(VCB)をかけると図4のようになります。
【図4 電圧印加時の、npn型バイポーラトランジスタのバンド構造】
エミッタ、ベース間は順方向のバイアスになるので、エミッタからベースに向かって電子が流れます。
ベースからは、エミッタに向かって正孔が流れますが、ベースのドープ量が少ないため、電子の流れに比べて圧倒的に少ない量です。
ベースに入った電子の一部はベースの中で正孔と再結合しますが、ベースの厚さが薄くかつベースの正孔濃度が低いので、ほとんどの電子は再結合する前に拡散してコレクタ側の境に達し、逆バイアスになっている空乏層をコレクタに向かって落ちて行きます。
VEBを大きくすれば、エミッタからベースに注入される電子が増え、ベースで再結合する電子も増えますが、コレクタに向かう電子もさらに増えます。
バイポーラトランジスタの回路図
これを回路図で見てみましょう。
各端子を通過する電流に注目すると、IE=IB+ICですが、IB<< ICなので、図5のような回路では、ベース電流の小さな変化をコレクタ電流の大きな変化に替えることができる、すなわち増幅をしていることになり、この時の増幅の程度は電流増幅率β、
β=IC/IB
で表されます。
【図5 npn型バイポーラトランジスタに電圧をかけた時に端子を流れる電流】
この回路で、エミッタ、コレクタ間電圧(VCE)とコレクタ電流(IC)の関係を、ベース電流(IB)をパラメータに示すと図6のようになります。
エミッタからベースに注入され、ベースを突き抜けた電子はすべてコレクタ電流になりますので、 VCEがある程度大きければ、コレクタ電流はVCEに余りよらなくなると解釈できます。
【図6 IBをパラメータにした、IC–VCE特性】
バイポーラトランジスタ断面構造
図7はバイポーラトランジスタの断面構造のイメージです。
青の点線に沿って見ると、n+のエミッタ層とnのコレクタ層に挟まれて厚さが薄いベース層のp–があります。
【図7 バイポーラトランジスタの断面構造】
以上、今回はバイポーラトランジスタについて動作原理や構造を中心にご説明しました。
次回は、電界効果トランジスタ(FET)について解説します。
(アイアール技術者教育研究所 H・N)