3分でわかる技術の超キホン 抗ウイルス剤・抗菌剤のプロドラッグ
今回の連載コラムでは、「抗ウイルス剤・抗菌剤のプロドラッグ」の例をご紹介いたします。
目次
- 1.テノホビル (Tenofovir)
- 2.バラシクロビル (Valaciclovir ・バルトレックス)
- 3.バルガンシクロビル (Valganciclovir ・バリキサ)
- 4.バカンピシリン (Bacampicillin ・ペングッド)
- 5.プルリフロキサシン (Prulifloxacin ・スオード)
- 6.ソホスブビル (Sofosbuvir ・ソバルディ)
- 7.テジゾリド (Tedizolid ・シベクトロ)
- 8.セフカペンピボキシル (Cefcapene Pivoxil ・フロモックス)
- 9.セフポドキシム プロキセチル (Cefpodoxime Proxetil ・バナン)
- 10.オセルタミビル (Oseltamivir ・タミフル)
- 11.ホスラブコナゾール (Fosravuconazole ・ネイリン)
- 12.ファムシクロビル (Famciclovir ・ファムビル)
- 13.ホスアンプレナビルカルシウム (Fosamprenavir Calcium ・レクシヴァ)
- 14.セフテラム ピボキシル (Cefteram Pivoxil ・トミロン)
1.テノホビル (Tenofovir)
テノホビルは、肝細胞あるいはリンパ球系細胞に取り込まれると速やかに加水分解を受け、活性代謝物であるテノホビル二リン酸(Tenofovir diphosphate)へとリン酸化されますが、テノホビル自体は腸管から吸収されないという欠点があることからプロドラッグが開発されました。
(1)テノホビル ジソプロキシル (Tenofovir Disoproxil・ビリアード)
テノホビル ジソプロキシルは、腸管から吸収され、体内でジエステルの加水分解によりテノホビルになり、さらに細胞内でテノホビル二リン酸に代謝されるものの、血漿中での半減期が短いとされています。
(2)テノホビル アラフェナミド (Tenofovir Alafenamide・ベムリディ)
テノホビル アラフェナミドは、テノホビル ジソプロキシルよりも血漿中において安定しており、テノホビルの血漿中での暴露は極めて少なく、そのまま肝細胞内へ取り込まれることにより、尿細管障害の発現が極めて少なくなり、安全性の向上が図られています。
さらに、標的細胞内により高い濃度で送達することが可能で、その結果、治療用量ではテノホビルの循環濃度はテノホビル ジソプロキシルと比較して約90%低く抑えられるとされています。
2.バラシクロビル (Valaciclovir ・バルトレックス)
バラシクロビルは、アシクロビル(Aciclovir)をバリンエステル体にしたプロドラッグです。
アシクロビルの吸収率は20%程度ですが、バラシクロビルでは70%程度と高くなっています。このような吸収率の増大はペプチドトランスポーター(PEPT1)による膜透過の上昇によって説明されています。
PEPT1は、本来、ジペプチドやトリペプチドを吸収する役割がありますが、ペプチドと類似構造を有した薬物も輸送することが知られており、バラシクロビル以外にもβラクタム抗生物質等があります。
3.バルガンシクロビル (Valganciclovir ・バリキサ)
活性体であるガンシクロビル(Ganciclovir)は、ヘルペスウイルス科のウイルスに対し抗ウイルス活性を有しますが、経口投与した場合の生物学的利用率は6~9%と低いため、サイトメガロウイルス感染症の初期治療には使用できないという問題がありました。
バルガンシクロビルは、ガンシクロビルとバリンエステルを結合したプロドラッグで、ガンシクロビルの経口吸収性が改善され、生物学的利用率は約60%にも及ぶとされています。
4.バカンピシリン (Bacampicillin ・ペングッド)
活性体は、アンピシリン(Ampicillin)です。
アンピシリンは、感染症の治療に用いられているβ-ラクタム系抗生物質ですが、酸に不安定で経口投与による吸収が悪く、吸収は食事の影響を受け易いという欠点を持っています。
そこで、吸収の良好な薬剤を開発することを目的として、アンピシリンの持つカルボキシル基をエステル化する化学修飾が試みられ、最終的にバカンピシリン塩酸塩が見出されました。
5.プルリフロキサシン (Prulifloxacin ・スオード)
プルリフロキサシンは、キノロン系合成抗菌薬です。
プルリフロキサシンは、内服後小腸上部より吸収され、腸管組織中、門脈血中及び肝臓通過時に加水分解されて、活性本体であるulifloxacinとして全身に分布するプロドラッグ型の薬剤です。
ulifloxacin は親水性を有することから、脳内への移行が低く、中枢神経系への影響も少ないことが期待されましたが、動物において経口投与での吸収性が低かったことから、これを改善する為にプロドラッグ型誘導体が検討されました。
6.ソホスブビル (Sofosbuvir ・ソバルディ)
ソホスブビルは、肝細胞内で加水分解及びヌクレオチドリン酸化反応の連続的な細胞内活性化経路で活性化されて、ヌクレオシド誘導体三リン酸である活性代謝物GS-461203へ代謝されると考えられています。
活性代謝物は、C型肝炎ウイルス(HCV)の複製に必須であるHCV非構造タンパク質5B(NS5B)RNA依存性RNAポリメラーゼを阻害するとされています。
7.テジゾリド (Tedizolid ・シベクトロ)
テジゾリドリン酸エステル(Tedizolid Phosphate)は、生体内において活性体テジゾリドに変換され、抗菌作用を示すプロドラッグです。
8.セフカペンピボキシル (Cefcapene Pivoxil ・フロモックス)
セフカペンピボキシルは、経口用セフェム系抗生物質製剤です。
エステル型のプロドラッグであり、経口投与後、吸収時に腸管に存在するエステラーゼにより加水分解され、活性体セフカペンとなるとされています。
9.セフポドキシム プロキセチル
(Cefpodoxime Proxetil ・バナン)
本剤は内服後、腸管から吸収されますが、その際腸管壁のエステラーゼにより速やかに加水分解されて、抗菌活性体セフポドキシムに変換されます。
セフポドキシムの1-[(1-Methylethyl)carbonyloxy] ethyl ester 誘導体として経口投与を可能にしたプロドラッグとなっています。
10.オセルタミビル (Oseltamivir ・タミフル)
オセルタミビルリン酸塩は経口投与後、消化管から吸収され、肝エステラーゼにより活性体(Ro64-0802)へと変換され、呼吸気道内に速やかに移行するとされています。
インフルエンザウイルスの増殖サイクルに必須の酵素であるノイラミニダーゼに結合し、その機能を抑制することによりウイルス増殖を阻止します。
エチルエステル型プロドラッグとすることにより経口吸収が可能となりました。
11.ホスラブコナゾール (Fosravuconazole ・ネイリン)
ホスラブコナゾールは、経口爪白癬治療剤として使用されています。
ホスラブコナゾールは、ラブコナゾールのプロドラッグであり、動物及びヒトに投与すると速やかにラブコナゾールに代謝されます。ラブコナゾールは、真菌細胞の膜成分であるエルゴステロール生合成を阻害することにより、抗真菌作用を示します。ラブコナゾールの水溶性及び生物学的利用率を高めたプロドラッグとなっています。
12.ファムシクロビル (Famciclovir ・ファムビル)
ファムシクロビルは、吸収後、肝臓でペンシクロビル(Penciclovir)に代謝され、抗ウイルス活性を示すプロドラッグです
ペンシクロビルは、単純ヘルペスウイルス(HSV)及び水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)に対して増殖抑制作用を有することが認められていますが(in vitro)、腸管からの吸収率が低いことから、その改善を目的としてジアセチル-6-デオキシ誘導体であるファムシクロビルが合成され、経口の抗ヘルペスウイルス薬として開発されました。
作用機序はアシクロビルと類似しており、ペンシクロビルはHSV 及びVZV 感染細胞内で活性型となり、ウイルスのDNA合成を阻害し、増殖を抑制するとされています(in vitro)。
ホスアンプレナビルは、抗ウイルス化学療法剤です。
ホスアンプレナビルは、アンプレナビル(amprenavir)のプロドラッグであり、消化管上皮から吸収される過程でアンプレナビルに変換されます。
アンプレナビルは、前駆体ポリ蛋白質の解裂に関与するHIVプロテアーゼを阻害することで感染性を持つウイルスの産生を抑制するとされています。
14.セフテラム ピボキシル (Cefteram Pivoxil ・トミロン)
セフテラム ピボキシルは腸管から吸収された後、腸管壁のエステラーゼにより代謝されて、抗菌活性を有するセフテラム(Cefteram)となります。吸収改善がされたプロドラッグとされています。
(日本アイアール株式会社 特許調査部 S・T)
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