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ポリビニルアルコール(PVA, polyvinyl alcohol)は2022年の国内生産量が18.3万トンであり1)、「ポバール」という別名でも知られる汎用ポリマーです。
生産量ではポリエチレンやポリプロピレンには及ばないものの、その機能性により幅広い分野で利用されています。
本稿ではこのポリビニルアルコールの機能を、基本物性と関係づけて解説します。
ポリビニルアルコールは、図1に示すように、モノマーである酢酸ビニルを重合して得たポリ酢酸ビニルを鹸化することにより製造されています。
【図1 ポリビニルアルコールの製法】
ほぼ100%鹸化した完全鹸化品だけではなく、一部の酢酸エステル結合を残した部分鹸化品も存在します。
一般的なポリビニルアルコールの鹸化度n/(m+n)は70-100%の間にあります。
ポリビニルアルコールには下記2点の特徴があります。
ご留意いただきたいのは、結晶性は鹸化度と共に高まり鹸化度100%で最大になるのに対して、水溶性が最大になるのは鹸化度100%ではないことです。
図2は重合度1750のポリビニルアルコールで、水への溶解度と鹸化度の関係を、温度ごとに示したものです2)。水溶性は水酸基に起因するものですが、鹸化度が90%以上になると結晶性が高過ぎて水溶性が逆に低下することが分かります。
【図2 水へのポリビニルアルコールの溶解度2)】
ポリビニルアルコールには前述の特徴a)とb)を活かした多くの機能があります。
よく知られた水溶性バインダーとして機能以外の中から、代表的な3機能を以下に紹介します。
図3は各種ポリマー膜の酸素と水蒸気の透過係数を対数表示で比較したものです。
酸素透過率に関してはポリマー間で大きな差があり、ポリビニルアルコールが著しく低い値を示しています。
ポリエチレンやポリプロピレンの10-5のオーダーです。
一方で水蒸気については、ポリマー間の差は酸素の場合ほど大きくはなく、ポリビニルアルコールの透過性も決して低くはありません。
これは、ポリビニルアルコールは極性の水蒸気の透過性には特徴はないものの、非極性の酸素ガスの遮断性が高いこと、即ち酸素バリア性が高いポリマーであることを表しています。この機能は多数の水酸基の存在と結晶性に由来するものです。
【図3 ポリマー膜の酸素と水蒸気の透過係数@25℃(一部30℃の値を含む)】
Polymer Handbook 4th のデータを用いて作成
液晶パネルに使用されている部材の一つに、特定方向に偏光した光のみを透過する偏光板があります。
この偏光板として、ポリビニルアルコールとヨウ素と組み合わせた複合材が使用されています。
図4はその作製手順を示したものです3)。
【図4 ポリビニルアルコールを用いた偏光板の作製手順】
ポリビニルアルコールが使用されるのは、多数の水酸基を有するためにヨウ素との親和性が高く、また結晶性が高いために延伸時にヨウ素が配向しやすいためです。
ポリビニルアルコールは、同じく生分解性ポリマーとして知られるポリ乳酸等のポリエステル系ポリマーよりも高い生分解性を有しています。表1は両者の生分解機構を対比したものです。
【表1 生分解機構の対比】
ポリエステル | ポリビニルアルコール | |
1段目:ポリマーの低分子化 | 微生物が関与しない加水分解 | 微生物の酵素で進行 |
2段目:完全な生分解 | 微生物体内 | 微生物体内 |
ポリエステルが完全に生分解されるには、微生物が関与しない加水分解が1段目で必要であり、この加水分解は自然界では容易には起きない場合が多いことが知られています。
これに対して、ポリビニルアルコールでは1段目のポリマーの低分子化も自然界で微生物の酵素の働きで進行します。
これは図5に示すように、ポリビニルアルコール(PVA)中の1,3-ジオールが、PVA-デヒドロゲナーゼ又は第2級アルコールオキシダーゼにより1,3-ジケトンに変換され、ついでジケトンヒドロラーゼにより開裂されることにより、ポリマー鎖がランダムに切断されて低分子化するためとされています4)。
【図5 酵素反応によるポリビニルアルコールの低分子化4)】
以上のように、ポリビニルアルコールは他のポリマーでは代替が困難な高い機能を有していますので、今後も重要な役割を果たすと考えられます。
(日本アイアール株式会社 特許調査部 N・A)
《引用文献、参考文献》