開環重合とは?反応機構や特徴などをわかりやすく解説
今回は「開環重合」について解説します。
開環重合は、重合法の中でも研究が活発な分野であると同時にその範囲も多岐に渡りますので、本稿ではそのエッセンスを解説します。詳細は成書でご確認下さい1)。
1.開環重合とは
「開環重合」とは、式1の形式によって環状モノマーの開環により線状のポリマーを生成する反応と定義されます。よく知られたエポキシモノマーの開環をはじめとして、これまでに多種多様なものが報告されています。
具体的に見てみましょう。
表1は、1)環状モノマー中の官能基の種類と、2)重合の機構(カチオン重合、アニオン重合、ラジカル重合)に基づいて開環重合を分類し、全体像をまとめたものです。
【表1 開環重合の分類:モノマーと重合機構1)2)】
(重合機構の○はその機構での開環重合の報告があることを示す。)
表1最上部の環状エーテルでは、モノマーの開環重合により直鎖状のポリエーテルが得られます。
エチレンオキシドからポリエチレンオキシドが得られる反応が代表的です。
重合機構としてはカチオン重合とアニオン重合が報告されていますが、ラジカル重合の報告はありません。
一方、環状アミンの開環重合の機構として報告されているのはカチオン重合のみです。
表1でユニークなのは最下部のビニルシクロプロパンです。カチオン重合でもアニオン重合でもなくラジカル重合で進みます。また、開環反応は起こるものの、モノマーの二重結合はポリマー中に残ります。
2.開環重合が起こる駆動力
そもそも開環重合はなぜ起こるのでしょうか?
この点については、環状モノマーが保有する歪みが開環により解放されるのが開環重合の駆動力になると理解されています。
図1は、シクロパラフィンの持つ歪みエネルギーとシクロ環のサイズとの関係を示したものです。
3員環や4員環の歪みが非常に大きいこと、6員環は歪みがほぼゼロであること、7員環以上では一定の歪みを持つことが分かります。
実際に、開環重合では3、4員環と7員環のモノマーがよく重合し、6員環モノマーはその安定性ゆえにほとんど重合しません。
【図1 シクロパラフィンの歪みエネルギー3)】
3.開環重合の特徴(実用的特性)
開環重合には低収縮率という実用的に有用な特徴があります。
同一分子量のモノマーでは収縮率が付加重合の場合のほぼ半分になります1)。
実際の例で確認してみましょう。
【表2 エステルモノマー間での重合収縮率の比較】
表2は、付加重合性の二重結合を有するエチルメタクリレートと、環状化合物であるε-カプロラクトンの重合収縮率を比較したものです。両者はC6H10O2という化学式とエステル結合を有するモノマーという点は共通していますが、重合収縮率はエチルメタクリレートの18%に対してε-カプロラクトンは10%です。
これは、ポリマーの密度はほぼ同等ですが、モノマーの密度はε-カプロラクトンの方が有意に高いことに起因するのが表2から分かります。
4.開環メタセシスとは
以上紹介した以外に、環状オレフィンの「開環メタセシス」という重合が知られています。
「メタセシス」とは、図2に示すオレフィン間の組み換え反応のことです。
この反応はMoCl5やWCl6等の遷移金属化合物を触媒にして起こります。
【図2 メタセシス】
このメタセシスを環状オレフィンに適用したらどんなことが起きるでしょうか?
図2のように、開環メタセシスによりポリマーが得られます。
この重合はノルボルネンの開環重合等に利用されています。
【図3 環状オレフィンの開環メタセシス】
(日本アイアール株式会社 特許調査部 N・A)
《引用文献、参考文献》
- 1) 遠藤剛ら, 高分子の合成(下), 講談社(2010)
- 2) 中浜精一ら, エッセンシャル高分子科学, 講談社(1988)
- 3) Eric V. Anslyn etc., Modern Physical Organic Chemistry, University Science Books (2006)