ペロブスカイト太陽電池の発電コストがすごい!設置場所を選ばないなどメリット多数
ペロブスカイト太陽電池についての前回のコラム「ペロブスカイト太陽電池が注目される理由とは?」では、大きなメリットである「高効率」という点をご説明しました。
今回は、ペロブスカイト太陽電池のメリット紹介の続きとして「低コスト」と「場所を選ばない」という点を中心に解説します。
1.ペロブスカイト太陽電池は低コスト発電
図1は各発電法によるコストを比較したものです。
結晶シリコン系太陽電池は、これまでに達成された性能向上と製造コスト低減により、その発電コストが既に化石燃料を用いた発電コストと同等の水準にまで低下していることが分かります。
【図1 発電コストの比較(2020年新規立地ケース)1)】
ペロブスカイト系太陽電池の製造コストを結晶シリコン系と比較すると、表1に示すように、原料・プロセス面および必要量の点で優位です。
また、ペロブスカイト系は結晶シリコン系に迫る高い変換効率を示す可能性が示されています。このため、ペロブスカイト系の正確な製造コスト試算及び発電コスト予測は現時点では困難なものの、他の方法では達し得ない水準にまで発電コストを下げ得る技術として期待されています。
【表1 太陽電池コストの製造コストに影響する要素】
ペロブスカイト系 | 結晶シリコン系 | |
原料・プロセス |
|
|
必要な厚さ | 1μm未満 | 150-200μm |
なお、現在のペロブスカイト太陽電池の開発ブームの先駆けとなった桐蔭横浜大の宮坂教授は、結晶シリコン系の半額程度で電力生産可能と見積もっています2)。
2.ペロブスカイト太陽電池は場所を選ばない
軽量で曲げられる「フィルム型」
ペロブスカイト系のメリットである「場所を選ばない」は、第一に、薄膜フィルム型であるために軽量で曲げられるという特性に基づくものです。結晶シリコン系では重すぎて設置困難な場所でも構いませんし、曲面状の基材にも設置可能です。このメリットはよく知られています。
ペロブスカイト太陽電池は室内設置もOK?
場所を選ばないという点では、これに加えて、ペロブスカイト太陽電池は、結晶シリコンではほとんど発電できない室内にも設置可能です。
これはどういうことでしょうか?図2をご覧ください。
【図2 変換効率の光強度依存性の比較】
図2は、変換効率の光強度依存性をペロブスカイト系と結晶シリコン系で比較したものです3)。
結晶シリコン系では晴天の太陽光強度に相当する100mWh/cm2の強度で20%以上の変換効率ですが、室内に相当する0.1mWh/cm2の強度では1%程度にまで低下してしまいます。
これに対してペロブスカイト系では、室内でも太陽光強度照射時に近い変換効率を維持します。
両者のこの差については、以下のように説明されています2)。
- a)結晶シリコン系:バンドギャップ内に深い欠陥があるので、光強度が大きく減って光電流密度も大幅に減った状況では、この欠陥が電子をトラップすることによって電流の減少が加速される。
- b)ペロブスカイト系:深い欠陥の影響が少ない結晶膜の形成が可能。
上記a)の挙動を宮坂教授は「小さな穴の開いた桶に水を貯めるとき、大量に注げば水は溜まるが、チョロチョロ入れれば溜まらないのと同じ」と例えています2)。
3.原料調達面でも有利?日本はヨウ素の生産大国だった
太陽電池用ペロブスカイト膜の主成分であるヨウ素に関して、日本が世界2位の生産国であるという事実に驚かれる方もいるかもしれません。どうしてこの好都合な状況が生まれているのでしょうか?
千葉県や新潟県は日本有数の天然ガス生産地です。この天然ガスは地下水に溶解しており、この地下水は「かん水」と呼ばれています。日本がヨウ素の生産大国なのは、この「かん水」の存在によるものです。
表2はかん水と海水の成分を比較したものです。
【表2 かん水と海水の成分比較:濃度mg/L4)】
Cl | Br | I | Li | Na | K | |
かん水(千葉県) | 18700 | 153 | 131 | 2 | 12200 | 350 |
海水 | 18800 | 67 | 0.1 | 0.2 | 10770 | 380 |
かん水の成分は海水に非常に近いのですが、ヨウ素については海水の1000倍以上となっています。
かん水中のヨウ素を精製濃縮することにより、常温で固形のI2が生産され、海外にも輸出されています。
次回はペロブスカイト太陽電池の実用化に向けた課題等について解説します。
(日本アイアール株式会社 特許調査部 N・A)
《引用文献、参考文献》
- 1) 資源エネルギー庁website, 電気をつくるには、どんなコストがかかる?
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/denki_cost.html - 2) 宮坂力, ペロブスカイト太陽電池, 共立出版(2024)
- 3) 下記資料を参考に作成
(一)沖縄CO2削減推進協議会「次世代太陽電池 ペロブスカイト太陽電池について」
http://www.nonrisk.co.jp/Perovskite Solar Cell_2023.pdf - 4) 下記文献から作成
・野口喜三雄他, 油田およびガス田かん水のリチウムおよびヒ素含量とその地球化学的意義, 日本化学雑誌92(2), 145-149(1971)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/nikkashi1948/92/2/92_2_145/_pdf
・桑本融, 海水の無機成分 溶存化学種を中心に, 化学と生物22(7), 439-445(1984)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/kagakutoseibutsu1962/22/7/22_7_439/_article/-char/ja/