【機械設計マスターへの道】そもそも「設計」とは
産業革命以来、実に様々な種類の機械が発明・実用化されてきました。今や私たちが日常生活を営む上で欠かすことのできない存在である機械を設計することは、とても魅力的な仕事です。
しかし学校で機械工学について学んできた人であっても、企業に入っていざ実際に機械を設計するとなると最初はなかなかうまくいかないこともあります。
本コラムでは機械設計を志す皆様が設計実務を行う上で役に立つ基礎知識を、何回かに分けてお伝えしていきたいと思います。初回は、「そもそも設計とは」的なことについて書くことにします。
1.機械設計とは
機械が、その目的=「要求される機能を効率よく(高性能)発揮して、故障せず(安定性)、使いやすいこと(操作性、安全性)」を実現するために具体的な構造、機構を決め、材料を選定し、設計計算により各部品の詳細形状、寸法など諸元を定めて「製作図面」に表すこと、と定義することができます。
設計へのインプット
機械に要求される機能、性能の詳細を記載した仕様書(Specification・・・スペック)
仕様には、コスト、耐久性、安全性、信頼性などの要素も含まれます。
仕様書は、機械の使用者(発注者)から発行されますが、製品を設計するために必要となる情報が不完全なこともあります。不明点は発注者へ質問して仕様確認を行います。必要に応じて仕様確認のための会議(キックオフミーテイング)を開催し発注者と設計者の間で仕様の相互確認と共有を図ることが望ましいでしょう。
後顧の憂いをなくすために設計仕様の明確化、不明点の解消は重要な第一歩です。
2.設計者とは
顧客(発注者)仕様に応じて機械を設計するとき、これまで世の中に無かったようなものを新たに開発することは意外に少なく、仕様に合せて既存製品の諸元を変更する場合が大半です。
しかし、実績のある製品であっても改良すべき点は多々あるはずです。
設計者は、既存製品に関するトラブルや苦情情報を広く収集して、常に改善の工夫を行う必要があります。
また製造に関しても、新しい生産技術の導入により、コストや納期の面で合理化を実現できる可能性があります。
設計者は日々勉強を怠らずに、製品改良に努めていかなければいけません。
設計は英語では“Design”=サインをする、すなわち自分が設計する製品の責任を明確にするということです。
機械の機能・性能のみならず、安全性、信頼性、取扱性などにも万全に気を配って設計する必要があります。
ここで既存製品の図面を基にした設計を進めていく上で、必ずと言っていいほど出会う場面と、その際に心がけて頂きたいことがあります。
既存の設計図面には明確な根拠は文書化されていないが昔から踏襲されてきた形状や寸法に従っている箇所が多少なりとも存在します。文書化されていないが、そこには必ずそのように設計する理由があるはずです。理由・根拠を調べずに安易に設計変更することは危険です。
これまで根拠が明確でなかった設計諸元は、自分で理由を調べて文書化する・・・デザインルールの構築を行うことも、立派な業務改善です。
理由・根拠が明確になれば、さらなる改善のための設計変更の検討を行うことも可能になります。
3.設計者の心構え
設計室に閉じこもって設計計算を行う、あるいは製図を行うだけでは、一流の設計者にはなれません。
- 担当製品の実際の使用状況、運転状況を自分の目で確認する
- 使用者にヒアリングして、要望事項や困りごとを収集する
- 製造現場へ足を運び、素材・加工・組立・検査・試験・物流など関係各部門の人々の意見に耳を傾ける
- 担当製品以外にも、世の中のあらゆる機械に目を向けて、その機構や構造、材料、などを設計的思考で観察して、自分の担当製品にも生かせるところがないか考えてみる
など積極的に動いて、視野を広げ設計に活かす努力が重要です
ということで初回は定義あるいは精神論的な記述のみになりましたが、これから実際の機械設計に携わるうえで、常に心に留めて頂ければ幸いです。
次回は、「加工のしやすさを考えた設計」について解説いたします。
(アイアール技術者教育研究所 S・Y)