経営戦略の切り札?「IPランドスケープ」って何!?(食品分野の例で考える)

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●●はタダで手に入る産業界のビッグデータ!

ビッグデータがあらゆる分野で取得されるようになりました。しかし、よく言われるように、ビッグデータの取得は始まりにすぎません。それらのデータの使い道をどのように考えるかが肝心です。

さて、普段皆さんが使っているインターネットにも、産業界の技術情報が無料で使えるビッグデータとして蓄積されているのをご存知でしょうか。――実はそれは「特許情報」です。

日本で2016年に出願された特許(国際特許出願件数含む)は約32万件、世界の特許出願件数は約312万件(※1)でした。このような数の特許が毎年増えていき、しかも多くは公開情報として取り扱われているわけですから、利用しない手はありません。

でも、どのようにこのビッグデータを活用すればいいのでしょうか?

 

各社の技術開発の軌跡を記した地図=「特許マップ」

特許文献には、各社がしのぎを削って開発した虎の子の技術情報が書かれています。
これら特許情報を集め、ある目的にそって分類・分析・整理して分かりやすくグラフや図に整理したものは、「特許マップ」(パテントマップ)と呼ばれています。

特許マップを作ることで、自分の会社が興味のある技術分野について、たとえば主要なプレーヤーはどの企業か、それらの企業はこれまでどのような方向性で技術開発を行ってきたか、などの戦略が見えてくるといわれています。

このような特許マップを中心とした特許情報分析は、以前から大企業を中心に盛んにおこなわれてきました。

 

「IPランドスケープ」は特許マップのさらに賢い使い方?

これまで多くの特許マップは知的財産部や技術畑の人々が目にするもので、目下の技術課題をどう解決すればよいか、新しい技術的アイデアのヒントを得るために利用されていたようです。

しかし、近年欧米先進企業において、特許マップの考えをさらに一歩進めた「IPランドスケープ」という概念が急速に広がっています。

IPとは”intellectual property”、すなわち特許を含む知的財産のことです。また、ランドスケープとは、もとはその土地の特徴をよく表した風景画のことをさし、これが転じて「その分野の情勢」を意味する言葉になりました。

ですからIPランドスケープに取り組むということは、特許マップなどを使ってその業界、分野の情勢をしっかり調べた「地勢図」を手に、この分野を渡っていくことなのです。日本では2017年に日本経済新聞でも大きく取り上げられ反響を呼びました。

先述のように特許情報の分析は知財部門や技術部門では従来行われていました。
しかしここにきてIPランドスケープが一躍脚光を浴びるようになったのは、それ以外の部門の人々が、経営のための知的財産情報という有用な武器をいわば「再発見」し、事業競争力の強化と経営上のリスク低減ができると気づいたからなのです。

これまで一生懸命特許マップを作ってきた人々が本当にやりたかったことに対して、時代が追いついてきたともいえるかもしれませんね。

 

「IPランドスケープ」って具体的にどんなことをするの?

では、IPランドスケープにはどう取り組めばよいのでしょうか。

まずは必要とする分野の特許の公報を集め、内容を分析しなければなりません。特許分析ツールなどのソフトウェアを使って、表1や図1、図2のような種類の特許マップにより「可視化」することで、技術動向(トレンド)や特定出願人の開発技術の方向性などが分析できるようになります。

(表1. 特許情報で用いられる特許マップ種類例と分析内容)

特許マップの種類

それだけでなく、さらに市場情報や論文情報(非特許文献)などの周辺情報を加えて整理することで、特許マップの情報にさらに深みを増すことができるのです。

 

食品分野における分析のイメージ

例として、「日持ち向上」の効果のある薬を食品に含ませ、賞味期限などを延ばす特許の分析について簡単に説明します。

食品の日持ち技術に関する分析例

(図1. 日持ち向上技術に関する特許分類Fターム出現数推移マップ)

日本国内の特許文献には、公報に書かれている技術を分類するのに使う「Fターム」という記号が振られています。図1は、「日持ち向上技術」に関するFタームをもつ特許が、何年にいくつ出願されたのかという推移を示した特許マップです。
特に「カルボキシル基」を含む薬の出願が2014年ごろから増えていることが分かります。

そこで、さらにどんな企業がそのような技術開発をしていたのかを調べるため、同じ特許を「出願人」別に並べ替えた結果が図2です。

食品技術の出願人別分析例

(図2. 日持ち向上技術に関する特許分類Fタームと製剤メーカーのシェアマップ[2007-2016年] )

図2で、この薬の出願人はほぼ製剤メーカーBに収束するため、どうやら2014年ごろから始まったこの薬の出願トレンドはB社が作ったようなものです。

さらに、B社の特許を読むと、単にその薬そのものの特許出願だけでなく、生麺用、米飯用や揚げ物用などへの使い道(用途)に関する出願もしていたことが分かりました。
そもそも特許の数も多く、使い道のバラエティも豊かということは、この分野のビジネスを育てようとB社が考えているということに他なりません。同業者の製剤メーカーはもちろんのこと、「使い道」として名指しされている生麺や米飯、揚げ物などに日持ち向上剤の利用を考えている食品メーカーのビジネスにもB社の特許が影響する可能性があります。
つまり、B社の特許出願戦略、事業戦略が見えてきたことで、食品業界の中で多くの企業とB社の関係性までもが見えてきたのです。これに加えて、市場情報や論文等まで併せて調査・検討をすれば、特許情報の分析結果に裏付けを与えることができたり、特許とは異なる視点からの事業戦略情報を得られたりする可能性が高まります。

このような情報をもとに、経営の次の一手をどう打つかを考える取り組みこそが、IPランドスケープといえるでしょう。

彼の特許を知り、己の特許を知れば、百戦危うからず

食品特許分析の例を挙げたここまでの説明で、特許情報を活用し、進むべき方向性や戦略を立案することがビジネスのために重要であることはお分かりいただけたかと思います。

特許は出願するだけでよいものではありません。他社の特許情報をきちんと分析し、自社の強みを見直して意義ある方向に育てていく取り組みをぜひ皆さんも始めてみてください。

【参考文献】(※1):特許庁ステータスレポート2018 特許庁

(※本稿は中谷技術士事務所中谷明浩講師からのご寄稿を、日本アイアールが再構成したものです)

中谷先生による ”食品業界の特許” に関するセミナー情報はこちら

特許分析・パテントマップ作成については日本アイアールのサイトも併せてご参照ください。

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