ヒューマンエラーの種類と発生要因がわかる!人間の認知特性から解説

ものづくりの現場では様々な不具合が発生することがあります。
不具合の発生には、ヒューマンエラーが関係しているケースも少なくありません。
本コラムでは、全3回にわたり、ヒューマンエラーの分類や発生要因、分析方法、防止対策などについて解説します。
第1回となる今回は、ヒューマンエラーの基本的な考え方や人間の認知特性について紹介します。
1.ヒューマンエラーとは
「ヒューマンエラー」とは、人が本来行うべき行動と、実際に行った行動(または行わなかった行動)との間に生じるずれや誤りのことをいいます。
例えば、次のような事例が挙げられます。
- メータ指示値の読み違え
- 使用すべき部品の取り違え
- 操作ボタン・スイッチの押し間違え
人は自分では十分注意しているつもりでも、作業環境や人間関係を含む様々な要因によってミスを起こす可能性があります。
JIS Z 8115:2019「ディペンダビリティ(総合信頼性)用語」では、ヒューマンエラーを次のように定義しています。
「人間が実施する又は省略する行為と,意図される又は要求される行為との相違。」
2.ヒューマンエラーがもたらす影響
ヒューマンエラーは、製造業に下記のような様々な影響をもたらします。
- 労働災害
- 品質不良
- 設備故障
- 納期遅延
安全でかつ品質の安定した操業を行うためには、ヒューマンエラーの発生メカニズムを理解し、予防対策を実施することが大切です。
品質マネジメントシステムに関する国際規格 ISO 9001:2015 においてもヒューマンエラーの防止は重要視されており、8.5.1「製造及びサービス提供の管理」では次のような要求事項があります。
g) ヒューマンエラーを防止するための処置を実施する
なお、ISO 9001は2026年9月に改訂されましたが、ヒューマンエラーの防止に関する要求事項は引き続き維持されています。
機械や設備の技術進歩や自動化によって、機械そのものの信頼性が向上する一方、人と設備との関わりの中で発生するヒューマンエラーへの対策が重要になっています。
モノづくりの現場では、こういった実情を念頭に置き、ヒューマンエラーを防止するための対策を構築することが必要です。
3.人間の認知特性
人間の活動は、下記のような3つの段階に分けて考えることができます。
① 知覚・認知の段階
周囲の状況や、各種の情報を、五感(視覚・聴覚・触覚・嗅覚・味覚)を通じて知覚し、その内容を認知する
② 記憶・判断の段階
認知結果を、自分の引き出しにある記憶と照合し、判断する
③ 行動の段階
判断に基づいて行動する。
人間には認知や判断、行動に関するさまざまな特性があり、次のようなことがヒューマンエラーにつながる場合があります。
- 思い込みをする
- 慣れると確認を省略しがちになる
- 注意力には限界がある
- 同時に処理できる情報量には限界がある
- 疲労やストレスの影響で判断力が低下する
ヒューマンエラーを分析し、原因と対策を探るために、認知特性に基づいて人間の活動の限界や、エラーを起こしやすい要因を考えることが有効です。
4.ヒューマンエラーの類型
人の行動に起因する問題は、代表的には次のように整理できます。
(1)意図しないうヒューマンエラー
① スリップ ・・・意図した行動を正しく実行できないミス、うっかりミス(操作の取り違えなど)
② ラプス ・・・記憶に関するミス、うっかり忘れ(作業のし忘れなど)
③ ミステーク・・・判断や計画の誤り(勘違い、思い込み)
(2)意図的なルール違反
① バイオレーション・・・決められた手順やルールから意図的に逸脱する行為
バイオレーションは、厳密には意図しないヒューマンエラーとは区別されますが、事故や不具合の防止を考えるうえでは、併せて理解しておくことが重要です。
人間の認知・判断・行動の各段階と、これらのエラーやルール違反の類型との関係を整理すると、下表のようになります。
【表1 認知・判断・行動の各段階とエラー類型の関係】
|
|
スリップ |
ラプス |
ミステーク |
バイオレーション |
| 知覚・認知 | 〇 | 〇 | ||
| 記憶・判断 | 〇 | 〇 | 〇 | |
| 行動 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
※○は各類型に関係する段階を示しており、必ずしもその段階でエラーが発生することを意味するものではありません。
本表の「行動」には、本来行うべき行動を行わない場合も含みます。
なお、バイオレーションは意図的なルール違反であり、他の3類型とは区別されます。
知覚・認知の段階においては、見間違い、聞き違いなどのミスが生じることがあります。また、状況を誤って認識することが、その後の判断ミスにつながる場合もあります。
記憶・判断の段階においては、作業手順を忘れるラプスや、「大丈夫だろう」といった思い込みによるミステークが生じることがあります。また、ルールを認識していながら、意図的に守らないと判断する場合もあります。
行動の段階においては、操作の取り違えなどのスリップに加え、必要な作業をし忘れるラプス、誤った判断に基づいて行動するミステーク、意図的にルールから逸脱するバイオレーションなどが、実際の行動や行動の省略として表れます。
5.ヒューマンエラーの「起因」と「誘因」
人間が作業を行う際には、認知や記憶、判断などの特性によって、ヒューマンエラーが発生する可能性があります。
ここでは、ヒューマンエラーのもととなる人間の認知特性を「起因」と呼びます。
例えば、メータの読み取り作業でも、人間の認知特性によって読み取りミスが発生することがあります。
また、また、作業者の状態や作業環境、組織の状況など、ヒューマンエラーを発生しやすくする条件や要因を「誘因」といいます。
ヒューマンエラーの発生要因を分析する際には、こうした人間の特性と、それに影響を及ぼすさまざまな条件の両面から考えることが重要です。
- 本人に関する誘因:
身体的・生理的状態、心理状態、意識状態 - 作業環境に関する誘因:
照明、騒音
操作性、わかりやすさ など - 組織、人間関係に関する誘因:
プレッシャーのかかり具合
コミュニケーションの状況
指示命令系統の適切度、わかりやすさ など
ヒューマンエラーの発生を防止するためには、人間の認知特性を理解するだけでなく、エラーを誘発する作業環境や組織的な要因についても検討し、改善を図ることが重要です。
以上、今回はヒューマンエラーの概要についてご説明しました。
次回は続きとして、人間の認知・判断・行動の各段階におけるヒューマンエラーの特性と、発生要因について考えてみたいと思います。
(日本アイアール株式会社 特許調査部 S・Y)

































