医療/農林水産分野におけるゲノム編集応用技術[新型コロナ対策、再生医療、品種改良など]

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ゲノム編集(医療分野、農業・水産分野)

前回の【基礎からわかるゲノム編集】ではゲノム編集のしくみや改良技術を中心にご紹介しました。
今回は実際にゲノム編集をした医療・産業分野での応用技術について解説します。

1.医療分野

ゲノム編集は医療分野においても利用され、遺伝性疾患のモデル動物やモデル細胞の開発、ゲノム編集によるin vivoやex vivoでの疾患治療、疾患診断方法開発などのための研究が進んでいます。
 

(1)感染症対策における利用

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大に伴い、迅速なウイルスの検出・診断方法が必要とされています。

東京大学ではゲノム編集ツールであるCRISPR/Cas3システムを用いて、ウイルスの核酸を短時間で正確に検出できる技術としてCONAN(Cas3-Operated Nucleic Acid detectioN)法が開発されています。
臨床検体からウイルスRNAを抽出し、等温PCR法(RT-LAMP法)によるDNAの増幅後に、ウイルス特異的CRISPR-Cas3を用いることで、最短40分で数十コピーのウイルスRNAの有無を試験紙で検出することに成功しています。

CONAN
[※出典:https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2020.06.02.20119875v1
 

(2)再生医療分野における利用

京都大学iPS研究所では、CRISPR-Cas9を用いて、キラーT細胞とNK細胞両方からの拒絶反応リスクが少ないiPS細胞の作製法を開発が進んでいます。

細胞移植の際に、レシピエント(移植希望者)とドナー(臓器提供者)のヒト白血球抗原であるHLA型が一致しないと移植したドナー細胞はレシピエントのキラーT細胞からの攻撃を受け、またドナー細胞のHLAが消失していると、ドナー細胞はレシピエントのNK細胞からの攻撃を受けます。
そこで、HLAヘテロ接合体(異なるHLA 分子をもつ個体)のドナー由来iPS細胞において、染色体の片側のHLA遺伝子部分を選択的に除去してHLA擬似ホモ接合体を作製する方法が研究されています。

また、HLAクラスⅠのHLA-CはNK細胞の抑制に関わることが知られているため、NK細胞の反応を抑制するために染色体片側のHLA-Cを残し、HLA-AとHLA-B遺伝子を壊すという方法で拒絶反応リスクを減らし、ゲノム編集による次世代iPS細胞を用いた新たな医療が期待されています。

 

(3)希少疾病用医薬品(オーファンドラッグ)開発での利用

CRISPR/Cas9を用いて、遺伝子疾患治療薬やウイルス感染治療薬の開発が進められています。
実用化には至っていませんが、日本国内でもAIDSやHIV感染症の治療薬や筋ジストロフィーの治療薬などの開発が進められています。
 

(4)in vivo遺伝子治療での利用

in vivo遺伝子治療は、体内に治療用の人工ヌクレアーゼを注入して、標的細胞のゲノムを直接書き換える治療法です。
現時点では、様々なリスクがあり実用化には至っていませんが、日々研究が進められており、近い将来実用化されることが見込まれます。
 

(5)疾患モデル動物作製での利用

現在主流となっているCRISPR-Cas9はゲノム編集が非常に行いやすいことから、マウスやゼブラフィッシュをはじめとする実験動物にも広く活用されています。
 
 

2.農林水産分野

(1)ゲノム編集による植物の品種改良

従来の植物の品種改良では、紫外線や環境ストレスにより生じた自然突然変異の中から有用な変異が選ばれたり、またEMS(エチルメタンスルホン酸)などの化学薬剤処理や放射線照射処理など人為的な突然変異の効率的な誘導や遺伝子組換えによる品種改良が発展してきました。

一方、ゲノム編集は、狙った遺伝子にピンポイントで変異を導入する技術であるため、ゲノム編集技術を用いて効率的な品種改良が可能になるとから関心が高まっています。
ゲノム編集とトマト
厚労省にゲノム編集技術応用商品として届出を行い受理された国内一例目として、筑波大発ベンチャーでは機能性成分(γ-アミノ酪酸:GABA)蓄積量を高めたトマトが開発されています。
グルタミン酸からGABAを合成する酵素GADに注目し、CRISPR/Cas9を用いてGADに存在する自己阻害ドメインの直前に変異を導入し停止コドンを挿入することにより自己阻害ドメインを欠損させることでGADの活性が向上し、GABAの生合成が促進される技術です。
 

(2)ゲノム編集による養殖魚の品質改良

マダイとゲノム編集京都大学では、マダイにおいて骨格筋の分化と成長を抑制制御する遺伝子のミオスタチン遺伝子をCRISPR/Cas9によって破壊し、筋肉量が増加した肉厚のマダイを作製しています。
 

3. ゲノム編集に関わる分野別特許検索

J-PlatPatを用いて、C12N15/09,100(ゲノム編集技術)のFIが付与された公報1097件において、医療分野や産業分野の技術に関わる公報を検索し、大まかな分野別件数を調べてみました(2021年3月時点)。

ゲノム編集に関する特許調査_植物(品種改良等):A01K、動物:A01K67/00、細胞:C12N5/00、微生物:C12N1/00、有用物生産:C12P、遺伝子治療:A61K48/00

重複して付与されているFIもありますので参考件数になりますが、細胞工学技術や遺伝子治療を含めた医療分野での技術開発が目立ち、今後も新たなゲノム編集ツールの開発や改良とともに医療・産業分野での応用が期待されます。
 

(日本アイアール株式会社 特許調査部 N・Y、S・N)
 

 

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