実験計画法の考え方:因子の種類、要因効果の検討
当連載の1回目「なぜ実験計画法が必要なのか?《実験計画法の目的》」では、鰹節のだしを取る際の温度、時間の最適条件を見つけるための実験を例に、計画的に実験を行わないと、正しい結論に結びつかなかったり、無駄に実験回数が増える可能性があることを説明しました。
今回は、同じ、鰹節のだしを取る条件の最適化の実験を事例に、では実験計画法ではどのように考え、どのように実験を行うのかを解説します。
適切な実験を行えば、下表(コラム1回目の表4を再掲載)のような結果が得られるものとして説明します。
【前回の表4】
(※表中の数字は、味のバランスの良さの指標、大きいほど良い。)
1.実験計画法の必須基本用語を押さえよう
まず実験計画法で使用する用語を、第1回で紹介した鰹節の実験を例にして説明します。
鰹節の実験でだしを取った時の旨味と雑味のバランスは、実験の対象となる現象や結果にあたり、「特性」といいます。また、特性に影響を与えると想定される、だしを取る温度や時間、鰹節の製法などの原因にあたるものを「因子」といい、温度や時間など量的に変化させたり、製法など質的に変化させるよう設定した条件を「水準」といいます。
鰹節の例では、温度は3水準、時間と製法は2水準設定しています。
温度・時間・製法のそれぞれの水準を変えたことで起こる効果を「主効果」、温度の取る水準により、時間や製法などの組み合わせによって味のバランスが変わるなど、一方の因子の取る水準により他方の因子の効果が影響を受ける場合を「交互作用」といいます。
そして、主効果と交互作用をあわせたものを「要因効果」、取り上げなかった効果や測定誤差などを「誤差」といいます。
【図1 実験計画法に関する基本用語の整理】
2.因子の種類・性格を理解する
実験計画を行う際には、様々な条件を設定していきますが、取り上げる因子がどのような性格の因子であるかを理解することは大切です。
実験に取り上げる因子には同じ条件で水準を再現できる「母数因子」、再現性がない「変量因子」があります。
母数因子には、実験によってその最適条件を見出すことを目的として取り上げられる「制御因子」と、最適な水準を設定するのに意味がない「標示因子」があります。
鰹節実験の例ですと、温度・時間は制御因子となり、この効果を調べることが目的となります。煮だす際に使用する水の硬度などは、消費者に決まった硬度の水を使うことを推奨するのは難しく、このような制御できない因子が標示因子の例となります。
変量因子の例は実験日や原料ロットなどで、水準を指定したり再現することができません。
3.要因効果をグラフで考えてみる
要因効果には、因子単独の効果である主効果と複数の因子の組み合わせによる効果である交互作用があると説明しましたが、それぞれのイメージをグラフを用いて説明します。
主効果
「主効果」とは、各因子の水準が変わることで生じる効果であり、データのばらつきから要因効果の大きさを調べることができます。
単独の因子Aについて2水準(A1,A2)を設定した場合、水準A1における平均は全体平均に水準の効果a1を加えた値になります。各水準の効果の合計は0になるため、効果 a1+a2=0 です。
【図2 主効果の有無】
実際には得られるデータには誤差が加わりますので、[全体の平均+主効果+誤差]が実際のデータの値になります。
交互作用
2つ以上の因子を取り上げる場合には、因子の組み合わせの効果である「交互作用」を考える必要があります。
互いに2水準の因子AとBの水準組みあわせのデータの平均値をグラフにして交互作用について考えてみます。
以下では、説明文の番号と同じ番号のグラフを見ながら読み進めてください。グラフ中、黄色の矢印は因子Aの効果を、緑色の矢印は因子Bの効果を示しています。
【図3 交互作用(1)】
- ① 因子A、Bの水準が変わっても特性値に変化がないため、因子AとBの主効果も交互作用もありません。
- ② 因子Aの水準が変わっても特性値に変化はなく、因子Aには主効果がありません。因子Bの水準が変わると特性値が変化するため、因子Bには主効果があります。因子Bは因子Aの水準に関わらず同じ効果を発揮し、交互作用はありません。
- ③ 因子Bが変わっても特性値に変化はなく、因子Bには主効果がありません。因子Aが変わると特性値が変化するため、因子Aには主効果があります。因子Aは因子Bの水準に関わらず同じ効果を発揮し、交互作用はありません。
【図4 交互作用(2)】
- ④ 因子AもBも主効果がありますが、因子AもBも相手の水準に関わらず同じ効果を発揮しているため、交互作用はありません。
- ⑤ 因子AもBも単独で主効果がありますが、相手の水準により効果が変わるので、交互作用があるといえます。
- ⑥ 水準A1ではB2が高く、水準A2ではB1が高くなっており、Aの水準によりBの効果が変わるため、交互作用があるといえます。因子AとBともに、主効果があるかはこのデータだけからは明言できません。
上で見てきたように、交互作用がない場合は、グラフは平行になります。
グラフで見ると因子単独の効果だけでなく、交互作用の有無も検証することができます。
鰹節の実験例での主効果と交互作用は?
鰹節の実験で、温度・時間の2因子を考えた場合の、温度・時間の単独効果、温度と時間の組み合わせの効果をグラフ化して見てみましょう。
【図5 鰹節の実験例における要因効果】
鰹節の実験で温度と時間について見た場合、長時間だと味のバランスが高くなるので、時間の主効果がありそうです。また、5分では95℃、10分では75℃と時間により温度の最適な水準が変わるので、時間と温度の交互作用がありそうです。
長時間煮ると旨味はでてきますが、高温で長時間煮ると雑味もでてくるため、低温でじっくり煮る方が旨味が増え雑味が少ない良いバランスになることなどが原因として考えらえます。
次回のコラム(実験の原則「無作為化」と「繰り返し」)でも、引き続き実験計画法で用いる概念、言葉の説明をしていきます。
(日本アイアール株式会社 H・N)