実験の原則「無作為化」と「繰り返し」
当連載の2回目「実験計画法の考え方:因子の種類、要因効果の検討」では、実験計画法で用いる概念、言葉の説明をしました。
今回もキーワードの説明を通じて、実験計画法ではどのように考え、どのように実験を行うのかを示します。
1.測定実験における「誤差」
測定実験を行う場合、実際に収集された測定値と真の値との間にある差を「誤差」といいます。
気温、気圧、湿度などの変動が測定対象や測定装置に影響を及ぼす場合、測定装置に何らかの狂いがある場合、測定者の知覚の限界や測定者のくせなどによる誤差もあります。
誤差には、理想的な状況でも測定者がコントロールできない偶然によって生じる偶然誤差と、データの収集方法が適切でないため系統的におこるような一定の方向性をもつ系統誤差があります。偶然誤差は測定ごとにランダムにばらつくのに対して、系統誤差は測定の繰り返しに対して一定です。
当連載の第1回・第2回で例として説明した鰹節の実験では、味の評価者の味覚、時間計測時の測定者のくせなどは系統誤差にあたります。
【図1 偶然誤差と系統誤差】
2.フィッシャーの3原則とは
誤差を減らし実験の精度を高めるために、フィッシャーは実験計画法を行う上で3つの原則を提案しています。
- 反復:1 回の実験では水準による違いか誤差の違いか判別できないため、同一条件のもとで実験を繰り返すことによって偶然誤差のばらつきが求められ、推定の精度が高まります。
- 無作為化(ランダム化): 処理を実験単位に無作為に割り当てることで、一方的な偏りを生じさせる系統誤差を偶然誤差に転化できます。
- 局所管理(ブロッキング): 系統誤差を生じる可能性のある要因によってブロックに分け、各々のブロック内で比較したい条件をすべて入れる方法です。実験全体を複数のブロックに分割することで系統誤差を取り除くことができます。
3つの原則の役割をまとめると、下の図のようになります。
【図2 フィッシャーの3原則】
反復により誤差の推定と誤差の減少ができます。
無作為化によって系統誤差を偶然誤差に転化するため、誤差の推定ができます。誤差を推定することは、統計的推定や検定に必要となります。
局所管理は系統誤差を取り除くため、誤差が減少でき、精度が向上します。
基本的に実験では反復と無作為化は必須です。
3つの原則を満たす乱塊法については、この連載コラムの後の回で紹介します。
3.実験の原則「無作為化」
実験の背景となる状態は、一定の傾向や周期性をもって変化することも多いため、実験条件の変更を規則的に行なうと、実験の背景となる状態の変化を、調べたい要因効果と見誤ってしまうおそれがあります。
そこで様々な実験条件の組合わせで実験を行なう場合、フィッシャーの「無作為化」の原則に従い、実験の順序はランダムに決める必要があります。
例えば鰹節の実験の場合、味覚試験の評価者の感覚が時間が経つにつれ鈍ってしまう可能性があります。ですので、実験順序をランダムに設定しないと結果に偏りがでて、要因の効果か評価者の生理変化によるものなのか区別できなくなる可能性があります。
その他にも、難しい実験で実験者が後半になるに従ってなれていったり、気温・湿度などの環境条件が測定機器に影響を与える場合なども考えられます。
無作為化の方法としては、乱数表などを使って実験に番号を振り乱数を与えることで、例えば、乱数の値の小さい順に実験を行うように決めます。
例えば鰹節の実験で、温度のみの1因子3水準の条件で4回繰り返し実験を行う場合、下表のNo.の順に従って75℃→85℃→95℃の順序で実験・評価を行うのではなく、計12回の実験に乱数を振り、ランダムな順序で実施することで、評価者の味覚の変化による系統誤差を無作為化によって偶然誤差に転化します。
【図3 実験の原則~無作為化】
4.実験の原則「繰り返し」
実験計画法では分散分析という手法を使って、データを解析しますが、分散分析で用いる言葉に「繰り返し」があります。
ここで言う「繰り返し」とは、「実験の繰り返し」であり、「測定の繰り返し」とは意味合いが異なることに注意して下さい。
「実験の繰り返し」とは、因子の水準設定からデータを取るまでの一連の流れを繰り返すことで、表のように各水準の全組み合わせ(6通り)を同じ実験の中で2回繰り返し、全部で12回の実験を順序をランダムにして行うことです。
6通りの全組み合わせの実験を各1回だけ行い、測定を2回繰り返すのは「測定の繰り返し」です。
偶然誤差を正しく把握するためには、測定の繰り返しでなく、実験の繰り返しが必要です。
【図4 「繰り返し」について】
繰り返しの実験における水準の設定
繰り返しのある実験では、実験のたびに水準の設定を行い、実験を1回行うごとに初期状態に戻してから実験を行うことが原則です。
例えば、機器を用いた加工実験で、温度3水準、圧力2水準とした実験を行う場合、下表のように、順序の列の2番目、3番目は、乱数によってランダムに決めたにもかかわらず、たまたまいずれも80℃・30Paの組み合わせになりましたが、2番目から3番目の実験に移る際には、温度・圧力ともに初期状態に戻した上で、実験を行わなくてはいけません。
ただし、この原則通りに実験を行うと時間もコストもかかりますので、実験を効率的に行うために「分割法」という方法を用いることもできます。
分割法については、当連載コラムの第5回で説明します。
【図5 水準の設定】
この後の連載では、実験計画法を用いてどのような手順で実験を行うのか、「実験の計画」と「データの分析」を中心に説明していきます。
次回は、実験の計画・実施と要因配置実験の基礎知識を解説します。
(日本アイアール株式会社 H・N)