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鉄(Fe)は、生体内で種々の酵素や機能蛋白質の重要な働きをしており、生物にとって必須な元素の一つです。
鉄分はからだの中に約2~4gあるといわれていますので、「微量」元素のなかで最も多い元素といえます。
今回は、必須微量元素としての「鉄」について取り上げてみたいと思います。
目次
鉄は、酸素貯蔵、酸素運搬、電子伝達、生体エネルギー生成などの生命機能の維持にかかわっています。
また、細胞内代謝や細胞応答に関与する種々の酵素、サイトカイン、ホルモンなどの活性中心として活性化機構やシグナル伝達機構に重要であり、スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)、カタラーゼなどの抗酸化酵素の構成成分としての働きがあります。
鉄を持つ蛋白質や酵素は、1) 酸素運搬体であるヘモグロビンやミオグロビンのようなポルフィリンやヘム化合物をつくって存在するヘム蛋白質、2) フェリチンやトランスフェリンのように鉄そのものが蛋白質と結合している非ヘム蛋白質に分けれます。
鉄分は日本人が不足しやすい栄養素の一つとなっており、1日に必要な鉄分の推奨量は、6~7㎎とされています。
また、食事摂取基準の上限量(過剰摂取による健康障害をおこすことのない最大限の量)は、女性では18歳以上で40㎎、男性では18~29歳で50㎎、30~49歳で55㎎、50歳以上で45㎎と設定されています。
なお、ヒトの血清鉄の正常値は、次のようになっています。
鉄分は、肉類、魚介類、藻類、野菜類、豆類に多く含まれています。
鉄分には、ヘム鉄(鉄とポルフィリン環との錯体)と非ヘム鉄があります。
ヘム鉄は、非ヘム鉄よりも、5~6倍も吸収が良いとされています。ヘム鉄は、レバー、魚介類などに多く含まれており、一方、非ヘム鉄は、のりなどの海藻類などに多く含まれます。
食事として摂取する鉄の90%以上が非ヘム鉄です。
非ヘム鉄の場合、食物中の鉄は大部分が三価(Fe3+)の化合物となっていますが、胃酸により易溶性となり、小腸上部で吸収され、いくつかの段階を経たのち、酵素によって二価鉄(Fe2+)に還元されます。ヘム鉄の場合は直接吸収されますが、酵素によってポルフィリン環が取られ、同様に二価鉄になります。吸収された二価鉄は、トランスフェリンと結合し、血流に乗り全身に運ばれていきます。
腸管からの鉄の吸収は、1mg/日程度(難吸収性)といわれており、以下のような特徴があります。
吸収された鉄は、種々の代謝経路を経て体内へ分布していきます。
体内分布はおおよそ下記のようになっています。
分布 | 割合 | 機能/分布 |
ヘモグロビン鉄 | 60~70% | 血液中のヘモグロビンの構成成分 酸素運搬 |
貯蔵鉄 | 20~30% | フェリチン、ヘモシデリンとして肝臓等に存在(女性の貯蔵鉄が占める割合は12%との報告もある) |
組織鉄 | 3~5% | ミオグロビンとして筋肉中に存在および細胞内の含鉄酵素 |
その他 | 血清鉄など |
鉄は骨髄における赤血球造血でヘモグロビンの構成要素として使用されますが、赤血球の寿命は約120日で、古くなった赤血球は網内系マクロファージに捕捉・破壊されます。
マクロファージは、この破壊の際にヘモグロビンから鉄を取り出し、再び血管内へ戻します。血管内に戻された鉄は、再びトランスフェリンと結合して全身を循環し再利用されます。
この鉄を再利用する鉄代謝制御には、ヘプシジン(ペプチドホルモン)が重要な役割を担っています。
鉄は、生体外への積極的な排泄経路をもたないため、尿や糞中として排泄される量は極めて少なく、1〜2mg/日程度といわれています(難排泄性)。
糞中に排泄される鉄は、剥離した細胞および胆汁によるものであり、他に汗や毛、爪、皮膚からもわずかに鉄が失われています。
ヒトの成長期では、成長に伴う造血および組織細胞の発育増殖に鉄を多く必要とします。
また、閉経前の女性も鉄分を多く摂取する必要があります。
鉄分が不足すると鉄欠乏性貧血になります。貧血予防のためには、鉄分だけでなく、たんぱく質や赤血球の合成に必要な、ビタミンB12や葉酸も十分に摂取するとよいとされています。
また、鉄欠乏は、ミネラルバランスに影響を与えることが知られています。さらに、鉄欠乏による高脂血症発症の可能性が示唆されています。
なお、ビタミンA が欠乏すると鉄欠乏性貧血を助長させるなど、鉄とビタミンの代謝には相互関係があるとの報告がされています。
過剰の鉄は、その高い反応性ゆえにフリーラジカルの産生を促進し、細胞に対する傷害性をもたらす可能性があります。
アテローム性動脈硬化や冠動脈疾患、がんの発病率が増加する可能性が指摘されています。
また、鉄の過剰摂取は亜鉛および銅など他のミネラルの吸収を阻害するとの報告もあります。
鉄は難吸収性であるため、通常は過剰症になることはありませんが、輸血を繰り返し行う必要のある患者やサプリメントなどの過剰摂取によって鉄過剰になることがあります。
鉄代謝制御の中心的役割を担っているのは、ヘプシジンという肝臓で産生されるペプチドホルモンとされています。
ヘプシジンは、血清鉄濃度の恒常性を保つとともに、体が鉄過剰に陥らないように作用しています。
鉄が過剰に吸収され、貯蔵鉄が増加すると、ヘプシジンの産生が亢進し、鉄の取り込みが抑制されます。
肝機能障害を患うと、ヘプシジン産生の低下によって鉄吸収が過剰になり、生体内に鉄が蓄積することにより、過剰症の原因となります。
血清中の鉄は、3~4㎎と少なく、骨髄でヘモグロビン合成に0.8~1㎎/時間消費されるため、常に貯蔵鉄から血清中に鉄を供給する必要があります。
腸上皮細胞、肝細胞等にある貯蔵鉄は、生体では唯一の鉄輸送膜蛋白であるフェロポルチンにより血中に放出されます。
フェロポルチンの機能はヘプシジン-25 により制御されています。
その他、塩化第二鉄を含む配合剤があります。
日本特許庁の「J-Platpat」を用いて、簡易的に特許検索をしてみました。(調査日:2021.7.28)
[※FIの「A61K」は医薬品に関する主要な分類(サブクラス)です。]
この特許文献の母集団中には、「中心静脈投与用輸液製剤」「血圧降下剤」「海洋ミネラル成分からなるインターフェロンγ産生増強剤」などの特許が見られました。
JSTが運営する文献データベース「J-STAGE」を用いて文献調査を行ってみました。(調査日:2021.7.28)
この中には、「微量元素の代謝異常」「微量元素の健康への影響」「金属の中枢神経毒性」などタイトルの文献が見られました。
ということで今回は、必須微量元素としての「鉄」に関する基礎知識をご紹介しました。
(日本アイアール株式会社 特許調査部 S・T)