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ポストネオジム磁石開発の最新動向《Sm-Fe-N磁石などの注目技術を解説》(セミナー)
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本コラムは磁性材料に関するお話です。磁性材料は、外部磁場の印加により強く磁化され、外部磁場を除いても自発磁化が残る「強磁性」の性質を示します。
今回は、電磁ステンレス鋼の基礎知識を解説します。
目次
ステンレス鋼は、耐食性や強度を向上させるために、主成分である鉄(Fe)に、クロム(Cr)やニッケル(Ni)などを混ぜて作られます。
ステンレス鋼は発明されてから100年ほど経過した比較的新しい合金で、stainless(よごれのない)ということで命名されました。
ステンレス鋼は金属組織の違いによって、オーステナイト系、オーステナイト・フェライト系、フェライト系、マルテンサイト系および析出硬化系に分類できます。
[※関連記事:ステンレス鋼とは?種類・特徴・用途等を解説 はこちら]
ここでは「電磁ステンレス鋼」として利用されるフェライト系と、オーステナイト系を紹介します。
α鉄に他元素が固溶したものを、「フェライト」と呼びます。
鉄は、常温から911℃ではα鉄の状態をとります。
フェライト系ステンレス鋼は、金属組織がフェライトであるステンレス鋼です。
酸化鉄を主成分とするセラミックスの総称であるフェライトとは異なります。
鉄にクロム(Cr)18%を混ぜたステンレス鋼で、クロムが主要成分でニッケルをほとんど含有しません。
磁気に対する応答性が高く耐食性が良好なので、電磁ステンレス鋼は各種産業機器の電磁弁やセンサーなどに利用されています。
液体燃料を噴射する電磁弁の概略構成を図1に示します。
本体(固定鉄心)、コイル、弁座はハウジングにより固定されます。
本体は筒状で、軸方向に貫通孔が形成され、液体燃料は図1の右から左方向に流れます。
弁(可動鉄心)および本体は、液体燃料と直接接触するので高い耐食性と、弁を高速で多数回開閉する磁気特性が必要なため、電磁ステンレス鋼が使用されます。
コイルに電力が供給されない状態では押しバネが弁を弁座の方向(図1の左方向)に付勢し、燃料は噴射されません(弁の閉位置)。
コイルに電力を供給すると、コイルから磁束が発生し、弁が本体の方向(図1の右方向)に吸引され、弁が移動して弁座から離れ、燃料は噴射されます(弁の開位置)。
【図1 電磁弁】
電磁ステンレス鋼は、 以下の工程で製造されます。
γ鉄に他元素が固溶したものを、「オーステナイト」と呼びます。
鉄は、常温ではα鉄(フェライト)の状態をとり、高温でγ鉄(オーステナイト)の状態をとります。
しかし、鋼にクロム(Cr)とニッケル(Ni)を含んだオーステナイト系ステンレス鋼は、常温でもγ鉄の状態をとることができます。
鉄にクロム18%とニッケル8%を混ぜたステンレス鋼です。
フェライト系ステンレス鋼は磁性があり、オーステナイト系ステンレス鋼は磁性がないことについて考えてみます。
純鉄(純度が99.90~99.95%の鉄)の磁性と状態の変化を、図2に示します。
純鉄は変態点の温度910℃で、結晶構造が「面心立方格子」のγ鉄から「体心立方格子」のα鉄に変態し、常温における純鉄はα鉄になっています。
キュリー点の温度、770℃の以上になると磁性がなくなります。
原子の熱振動によりキュリー点で磁性がなくなる温度と、変態点の温度が一致していませんので、γ鉄の磁性がない原因は変態によるものとは言い切れません。
【図2 純鉄の磁性と状態の変化】
鉄に「面心立方格子」であるニッケル(Ni)を溶かして温度を下げていくと、鋼材が「面心立方格子」になりやすい状態になり、「体心立方格子」になる変態点の温度が下がります。
そのため、ニッケルを含んだオーステナイト系ステンレス鋼の結晶構造は、常温でも「面心立方格子」となります(図3)。
【図3 ステンレス鋼の結晶構造】
「体心立方格子」と「面心立方格子」は以下により磁性に差があると考えられています。
つまり、オーステナイト系ステンレス鋼の磁性がない理由は、「面心立方格子」の原子を構成する電子のスピンがバランスして打ち消し合うためと考えられます。
電磁ステンレス鋼は、耐食性に優れた軟磁性材料として、燃料等の流体と直接接触する厳しい環境状態での使用に適しています。
今後も、オーステナイト系(SUS304)に匹敵する耐食性、加工性、靭性の向上、また高応答性を達成するための磁気特性の改善により需要の増加が期待されています。
(日本アイアール株式会社 特許調査部 Y・O)