3分でわかる技術の超キホン クロスカップリング反応とは①(反応の種類と反応機構)
1.クロスカップリング反応とは?
クロスカップリング反応とは、化合物をつなぐことをカップリングといい、異なる2種類の化合物をカップリングすることをクロスカップリングと言います。
クロスカップリングにより、望みの有機化合物を自在に作ることができます。
液晶技術や医薬品等に用いられている有機化合物の多くがクロスカップリング反応を用いて生産されています。
鈴木先生、根岸先生が、クロスカップリング反応で2010年ノーベル化学賞を受賞されておりますが、過去のクロスカップリング反応は日本人が大きく貢献している分野でもあります。
2.主なクロスカップリング反応とその特徴
発表された年は前後しますが、各反応の特徴を中心に取り上げてみます。
① 鈴木・宮浦反応
1979年に開発された反応で、最も産業利用が進んでいるカップリング反応です。
パラジウム触媒と塩基の存在下に、有機ハロゲン化合物と有機ホウ素化合物を用いて行うクロスカップリング反応です。
鈴木・宮浦反応には、以下のような特徴があります。
- 有機ホウ素化合物は、空気や水分に安定なため、特殊な反応装置や操作を必要としない。グリニャール試薬などの有機金属化合物は不安定なため取り扱いが困難でした。
- 有機ホウ素化合物は、毒性が少ない。有機スズ化合物もカップリング反応を行いますが、猛毒であり、医薬品の合成には使用できないと思われます。実際、医薬品の合成では有機ホウ素化合物が用いられています。
- 反応は穏やかな反応条件で、また高収率で進行します。
- ビニル型ホウ素化合物とハロゲン化ビニルとのクロスカップリング反応により共役ジエンの合成は、シストランス異性を保持したまま進行します。
すなわちラジカル中間体を伴わない反応となっている。これにより、目的の異性体を自在に合成することが可能となったことから、鈴木・宮浦反応はクロスカップリングの最終形ともいわれています。
欠点としては、パラジウムが高価であることが挙げられます。
上記の化合物の安定性や温和な反応条件、高収率などは、工業化には有利な特徴であり、後述する液晶材料、半導体技術、医薬品等々に利用されています。また、特許出願がされていないため、世界中の研究者が利用できることも特徴になっています。
② 村橋反応
村橋先生は、当初、有機リチウム化合物と州化ビニルのクロスカップリング反応を研究していましたが、パラジウム触媒を使うと目的のクロスカップリング化合部が得られることを発見しました。具体的には、β-ブロモスチレンとアルキルリチウム、フェニルリチウムを、パラジウム触媒を用いてクロスカップリングを行いました。
③ 根岸反応
根岸先生は、クロスカップリング試薬として種々の元素を網羅的に調べました。最終的に有機亜鉛化合物が、最も広範囲なクロスカップリング反応に使用できることを1977年に報告しました。有機亜鉛化合物は、反応性が低く、グリニャール試薬やリチウム試薬が反応するような官能基とは反応しない、使いやすい反応として利用されました。
④ 薗頭・萩原反応
銅アセチリドとハロゲン化合物との反応は、1963年に報告されていたものの、反応が高温で、ハロゲン化合物に限りがあり、また銅アセチリドは反応しやすく、不安定で爆発性があるなどの欠点がありました。薗頭・萩原は、触媒量のパラジウムとヨウ化銅と塩基を使いクロスカップリング反応を行いました。これにより、少量ずつの銅アセチリドを発生させ、安全に、また室温程度でエイイン化合物を得ることができるようになりました。
他にも日本人の名前が付けられたクロスカップリング反応が多く報告されています。
3.クロスカップリング反応機構
鈴木・宮浦反応を例として、クロスカップリング反応の反応機構としては下記のように説明されます。
- 第一段階 酸化的付加反応
パラジウムが有機ハロゲン化合物に付加して、複合体を作る。
A-X + Pd ⇒ A-Pd-X
- 第二段階 トランスメタル反応(金属交換反応)
第一段階で生成された複合体と、有機ホウ素化合物の組み換えが起こり、炭素A-パラジウム-炭素Rの複合体を作る。
A-Pd-X + (HO)3B-R ⇒ A-Pd-R + XB(OH)3
- 第三段階 還元的脱離
第二段階で生成された複合体A-Pd-Rの炭素Aと炭素Rが結合して、目的とする化合物A-Rが生成する。
A-Pd-R ⇒ A-R
(日本アイアール株式会社 特許調査部 S・T)
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