3分でわかる技術の超キホン 化粧品と界面活性剤
当連載の「界面活性剤とは?」「食品と界面活性剤」の回では、洗剤や食品を例として界面活性剤の基礎知識をご説明しました。
今回は、化粧品と界面活性剤についてご紹介します。
これを説明する前に、まず、皮膚の構造をみてみましょう(Figure1)。
1.皮膚の構造
人間の皮膚は、表皮(ひょうひ)、真皮(しんぴ)、皮下組織(ひかそしき)の3層から構成されています。
表皮は皮膚の最表面の層で、さらに4層に分かれています。
それぞれ「角質層」(Stratum corneum)、「顆粒層」(stratum granulosum)、「有棘層」(ゆうきょくそう、stratum spinosum)と「基底層」(basal layer)です。
表皮の一番深い「基底層」では、日々新しい細胞がつくられ、分化を繰り返し、徐々に表面に押し上げられて、やがて角質層となり、最後は垢となって剥離・脱落するというサイクルを、約40~50日周期で繰り返しています。「角質層」は表皮の最も外側にある皮膚の層で、バリア機能を持っている重要な役割を果たす組織です。
さらに、皮膚表面には「皮脂膜(Sebum membrane)」の働きによってうるおいが保たれています。皮脂膜は、皮脂腺から分泌された皮脂と、汗腺から分泌された汗などが混じりあってできたもので、皮脂膜が適度にある肌はしっとりとうるおい、なめらかな肌触りになります。
しかし、皮脂が多すぎると、脂っぽくベタついた感じとなって、汚れがつきやすくなったり、ニキビができやすくなったりします。逆に、少なすぎると、カサついたりして、肌を保護する力も弱まってしまいます。
角質層は角化細胞(Keratin)がレンガ状に積み重なり、その間を細胞間脂質(Interceller Lipid)によって埋められる構造になっています。整った細胞間脂質をもつ角層は、過剰な水分の蒸散を防ぐことができ、うるおいを保つ働きが高くなります。
【Figure1.Structure of normal skin and loses barrier function.】
2.角質層のバリア機能の基本は「ラメラ構造」によるもの
角質層をさらに拡大してみると、ラメラ構造の存在がわかります。
角質層の細胞間脂質は細胞同士をくっつける働きがあるため、肌に必要なうるおいを持たせます。水に馴染む部分と油に馴染む部分の両方を兼ね備えており、このバランスが規則正しく並んでいることを「ラメラ構造」と呼びます(Figure 2)。
ラメラ構造がしっかりしていると、肌のバリア機能と水分保持機能が正しく働き、外的刺激(乾燥・紫外線など)や内的刺激(ホルモンバランスなど)から肌を守り、うるおいを保つことができます。
ラメラ構造が崩れると細胞間脂質も乱れて、紫外線のダメージをダイレクトに受けてしまいます。
【Figure 2.Lamellar structure of stratum corneum】
a) Normal lamellar structure b)Disrupted lamellar structure
3.スキンケア化粧品中の界面活性剤
スキンケア化粧品の多くは、主に「水」「油」「界面活性剤」の3つの成分から作られます。
化粧品中の界面活性剤は、主に乳化、洗浄、起泡と浸透といった機能・目的で使われます。
(1)乳化
化粧品は上述の通り、水、油と界面活性剤の三つの部分から作られますが、界面活性剤の乳化作用があるからこそ、水と油が混ざって、長期間安定して保存できます。
(2)洗浄
クレンジング、洗顔料等は界面活性剤の洗浄作用を用いられています。
脂っぽくベタついた肌は石鹸で洗うとすっきりになります。また、水やお湯ではなかなか落ちないメイクも、メイク落としであっという間にきれいにできます。これはすべて界面活性剤の効果です。
(3)起泡
界面活性剤の起泡作用により、洗顔料の泡立ちが良くなり、使用感がアップします。
(4)浸透
美白などの美容成分を肌内部への浸透させる際、浸透剤として界面活性剤が使われています。
界面活性剤によって美容成分の油部分が水との相性が良くなり、肌内部に通すようになるため、美容成分を肌内部に届けることが可能となります。
各種化粧品中の成分の目安を一覧表にしてみました。
水% | 水性成分% | 油性成分% | 界面活性剤% | |
化粧水 | 80~95 | 5~20 | 0~0.5 | 0~1 |
乳液 | 70~90 | 5~20 | 1~10 | 1~5 |
クリーム | 50~85 | 5~20 | 5~40 | 2~8 |
固形石鹸 | 0~10 | 0~30 | 0~1 | 60~95 |
クリーム洗顔料 | 50~70 | 10~30 | 0~2 | 10~30 |
液状洗顔料 | 60~80 | 5~20 | 0~1 | 10~20 |
【表1 各種化粧品中の成分(目安)】
界面活性が一番多く含まれるのは洗顔料です。特に石鹸そのものが界面活性剤(陰イオン界面活性剤)です。クリーム洗顔料は保湿性を強調して、水性成分を多く含めて、界面活性剤で泡立ち効果をしています。液状洗顔料は界面活性剤が少なめですので、洗浄力を抑え肌にはマイルドに作用します。
乳液とクリームは肌表面に油分を補うので、油と水を混ぜ合わせる目的で界面活性剤を使用しています。
次回は続きとして、界面活性剤の種類と化粧品での使われ方をご紹介します。
(日本アイアール株式会社 特許調査部 H・L)