【中国特許分析】注目のEVメーカー 蔚来汽車(NIO)を分析!「中国のテスラ」の特許出願動向は?

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中国のEVメーカ・NIO

中国のテスラ”とも言われるEVメーカー・NIO社(蔚来汽車)が注目されています。
日本では「ニーオ」または「ニオ」と呼ばれているようです。

今回は世界的に注目を集めているNIO社の概要と、同社の特許出願動向についてまとめてみました。

1.NIO(蔚来汽車)ってどんな会社?

NIO(蔚来汽車)は、スマート電気自動車/EVメーカーであり、2014年11月に元易車公司の創設者兼CEOの李斌、元汽車の家ネットの創設者兼CEOの李想、京東集団の創設者兼CEOの劉強東、テンセント、シャオミなどトップIT企業や起業家から設立されました。

さらに百度(バイドゥ)、聯想集団(Lenovo)、テマセク、セコイア・キャピタル、TPGなど数十社の投資をも得ています。2018年9月、NIOはニューヨーク証券取引所に上場しました。まだ歴史の浅い会社ですが、その発展スピードは驚異的です。

NIOは、高性能のスマート電気自動車と究極のユーザー体験を提供することに取り組んでおり、ユーザーに快適なライフスタイルを提供することを目指しています。
ハイエンドのスマート電気自動車を研究開発・販売しており、主な製品には、“NIO ES6”、 “NIO ES8”、 “NIO EC6”、 “NIO ET7”、 “NIO EVE”、 “NIO EP9”などがあります。

NIO社のEVには、クラウドコンピューティングと音声対話システム付きの人工知能システム“NOMI”、Mobileye EyeQ4チップと車両ソフトウェアリモートアップグレード機能(FOTA)付きの自動運転アシストシステム“NIO Pilot”が搭載されています。

 

フォーミュラEにも参戦!グローバルに広がる研究開発

中国での本部は安徽省合肥市にあり、車の製造基地となっています。
グローバル的な本部は上海に置いており、ここは車の研究開発と営業運営の役割も担当しています。
北京にはNIOソフトウェア研究開発センターがあり、車載エンターテインメントシステム、カーネットワーキング(IoV、Internet of Vehicles)、バッテリー管理などのソフトウェア開発作業を行っています。

中国の国外では、アメリカのサンノゼに北米本社でもあるグローバル自動運転R&Dセンターがあります。シリコンバレーのコアエリアに位置し、187,000平方フィート以上を占めています。また、カーデザインシティーとして有名なドイツのミュンヘンに、NIO造型デザインセンターがあります。そして、英国のオックスフォードに、エクストリームと先進コンセプト研究開発センター拠点を置き、主にFEプロジェクトの運用管理・戦略、EP9スーパーカープロジェクトを担当しています。

なお、NIO社は「電気自動車のF1」とも言われるFIAフォーミュラEチャンピオンシップに2014年から参加し、年間ドライバーチャンピオンを獲得しています。
 

2.NIO(蔚来汽車)の出願件数

NIO社は研究開発費として膨大な資金を投入しており、独自の知的財産権を保有しています。
中国国内だけでなく世界各国に出願をしており、グローバルな知財戦略を積極的にとっているようです。
しかしながら、日本への出願件数は僅かです。したがって、NIO社の特許については、いわゆる「パテントファミリー」が日本に存在しないことが多く、日本国内の特許調査だけをしていても、その技術動向を確認することは難しいと言えます。グローバルな特許調査をすることが不可欠と言えるでしょう。

NIOは2021年3月時点で中国特許2279件、世界範囲で3500件以上の特許件数を保有していますが、設立が2014年であることを考えれば、なかなかのボリュームかと思います(表1を参照)。
特許・実用新案以外に、意匠も多数出願しています。

特許・実用新案(意匠を含まない) 特許・実用新案・意匠
中国CN(2279)
世界知的所有権機関WO(463)
アメリカUS(376)
台湾TW(207)
欧州特許庁EP(203)
香港HK(31)
インドIN(4)
日本JP(3)
韓国KR(3)
中国CN(2913)
アメリカUS(464)
世界知的所有権機関WO(463)
欧州連合EU(379)
台湾TW(224)
欧州特許庁EP(203)
香港HK(73)
マカオMO(10)
日本JP(9)
インドIN(4)
韓国KR(3)

【表1.NIO社の世界範囲内の出願状況】

 
 
NIO社の中国特許・実案出願状況を詳しく見ると、2016年に初めて特許公開情報が確認でき、その後、年間300~400件の公開件数があります。いまのところ2019年が一番多く、1000件近くの出願が公開されました。

NIO社の中国特許・実用新案公開件数の推移
【図1 NIO社の中国特許・実用新案公開件数の推移】

 

中国特許の公開件数と実用新案の公開件数は、現時点で、それぞれ1087件と1192件であり、ほぼ半半で出願されています(表2を参照)。

中国特許・実案の総公開件数2279件のうち、権利化された有効特許(登録特許)は1264件であり、さらに審査中の案件を含むと特許生存率は94%という高い数値となっています。

総公開件数 出願種類 法律状態
2279 特許 実用新案 有効 審査中 失効 生存率
1087 1192 1264 881 134 94%

※2021年分の3月現在までの公開データを含む。

【表2. NIO社の中国特許・実用新案出願種類ごとの件数及び法律状態】

 

3.NIO(蔚来汽車)の中国特許出願のIPC分類

NIO社の中国特許出願の2279件のうち、よく使われているIPC分類を表3にまとめました。
特許出願の発明分野は、主に電気車両の推進装置B60L、及びその付属部品やサービスB60R、B60Sに集中しています。
具体的には、バッテリー・電池・エネルギー蓄積部品及びその車両への取り付けB60L11/18、B60S5/06、B60L53/80のIPC付与が多いです(表3を参照)。
H02J、H01Mの電池・電気供給・エネルギー蓄積及びその制御に関する分類も多く使われています。同社が電気自動車のバッテリーに関する開発に注力しているのが分かります。

NIO社の特許出願に付与されている主なIPC分類
【表3.NIO社の特許出願に付与されている主なIPC分類】

 
 

さらに年ごとのIPC分類付与状況を図2に示しました。
全体的に2019年に、集中的に特許公開されています。2020年では前年と比べて、各IPC分類(発明分野)の公開件数は少なくなっています。

なお、B60L11/18(乗物の内部に一次/二次/燃料電池から動力を供給されるもの)だけは、2018年が公開のピークであり、2019以後は特許公開が検出されませんでした。

NIO社の特許出願に付与されている主なIPC分類(年ごとの公開件数)
【図2.NIO社の特許出願に付与されている主なIPC分類(年ごとの公開件数)】

 
 

NIO社の中国特許出願によく使われているIPC分類及びその定義をまとめたところ、一部の分類が改定されたことに気づきます。調べてみると、IPCの改定により、B60L11/18は2019年1月にB60L 50/50 – 58/40に移行し、H01M2/10は2021年1月にH01M 50/20 – 50/298に移行したようです。

中国特許を調査する際には、日本特許のように改定前の分類を遡及して再付与するような対応がされていないデータが含まれるため、IPCを選定する場合は改定前の分類を入れることも必要です。
IPCを用いた検索で漏れが生じないように、特に注意が必要です。(※商用データベースの仕様については、皆さんが使用されているDBのベンダーさんに確認されることをおススメします)

IPC分類 定義
B60 車両一般
B60L 電気的推進車両の推進装置;電気的推進車両の補助装置への電力供給;車両用電気的制動方式一般;車両用磁気的懸架または浮揚装置;電気的推進車両の変化の監視操作;電気的推進車両のための電気安全装置
B60L11/00(旧) 車両内で動力供給する電気的推進
※B60L11/00は、IPC改定によりで2019年1月にB60L 50/00へ移行している
B60L11/18(旧) ・一次電池,二次電池,または燃料電池から供給される動力を用いる
※B60L11/18は、IPC改定により2019年1月にB60L 50/50 – 58/40へ移行している
B60L53/00 電気車両に特に適したバッテリー充電手段;そのための充電ステーションまたは車内搭載充電装置;電気車両におけるエネルギー蓄積要素の交換
B60L53/10 ・充電ステーションと車両との間のエネルギー転送に特徴のあるもの
B60L53/14 ・・伝導性のエネルギーの転送
B60L53/16 ・・・コネクタ,例.電気車両の充電に特に適したプラグまたはソケット
B60L53/80 ・エネルギー蓄積要素,例.取り外し可能な電池,の交換
B60S 車両の補給、清掃、修理、支持、持ち上げ、又は、変位若しくは転向であって他に分類されないもの
B60S5/00 車両の補給、メンテナンス、修理、改装
B60S5/06 ・バッテリーの車両への取り付け,又は車両からのバッテリーの取り外し
B60R  他に分類されない車両,車両付属具,または車両部品
B60R16/00 電気回路または流体回路で,特に車両に適用されるものであって,他に分類されないもの;電気回路または流体回路の要素の配置で,特に車両に適用されるものであって,他に分類されないもの
B62D 自動車;付随車
B60K 車両の推進装置または動力伝達装置の配置または取付け;複数の異なった原動力の車両への配置または取付け;車両用の補助駆動装置;車両用計装または計器板;車両の推進装置の冷却,吸気,排気または燃料供給に関する配置
B60K1/00 電気的推進装置の配置または取付け
B60K1/04 ・推進用の蓄電装置をもつもの
B60K6/00 相互または共通の推進のための複数の異なった原動機の配置または取付け,例.電気モータおよび内燃機関からなる混成型推進方式
B60K6/20 ・電気モータおよび内燃機関からなる原動機,例.ハイブリッド電気自動車(HEV)
B60K6/42 ・・ハイブリッド電気自動車(HEV)の型式に特徴のあるもの
B60H 特に車両の座席または荷物用スペースに適した暖房,冷房,換気装置または他の空気処理装置
B60H1/00 暖房,冷房または換気装置
B60H1/02 ・推進設備から熱の出るもの
B60H1/04 ・・ 設備の冷却液から出るもの
H02J 電力給電または電力配電のための回路装置または方式;電気エネルギーを蓄積するための方式
H02J7/00 電池の充電または減極または電池から負荷への電力給電のための回路装置
H01M 化学的エネルギーを電気的エネルギーに直接変換するための方法または手段,例.電池
H01M2/00(旧)  発電要素以外の部分の構造の細部またはその製造方法
※H01M2/00は、IPC改定により2021年1月にH01M50/00へ移行している
H01M2/10(旧) ・装着;懸架装置;緩衝装置;輸送または運搬装置;保持装置
※H01M2/10は、IPC改定により2021年1月にH01M 50/20 – 50/298へ移行している
H01M10/00 二次電池;その製造
H01M10/60 ・加熱または冷却;温度制御
H01M10/61 ・・温度制御の種類
H01M10/613 ・・・冷却または低温状態の維持
H01M10/62 ・・特定の用途に特に適したもの
H01M10/625 ・・・乗物
H01R 導電接続;互いに絶縁された多数の電気接続要素の構造的な集合体;嵌合装置;集電装置
G06F 電気的デジタルデータ処理

 

4.NIO(蔚来汽車)の中国特許出願に関する技術効果又は課題

NIO社の中国特許出願は、どのような技術効果や課題を記載したものが多いのでしょうか?
incoPatで機械的に抽出したキーワードに基づく統計結果を図3に示します。

複雑さ、利便性、コスト、効率、セキュリティ(安全性)、ユーザー体験、信頼性などに関する技術効果や課題解決に集中しているのが分かります。
但し、機械スクリーニングしたものであるため、汎用的課題・効果しか列挙されていません。
もう少し深く、具体的な技術分類ごとの結果を知りたい時は、手作業を含めた工夫が必要になります。

NIO(蔚来汽車)の中国特許出願に関すると法律事件
【図3.技術効果ごとの中国特許公開件数】

 

5.NIO(蔚来汽車)の中国特許出願に関する法律事件

NIO社の中国特許・実用新案に関する法律事件は、訴訟1件、再審4件、譲渡/移転1323件となっています。

譲渡/移転の1323件は、NIO(蔚来汽車)の各関連会社「蔚来汽车有限公司」「蔚来(安徽)控股有限公司」「上海蔚来科技有限公司」などの間における譲渡/移転がメインのようです。
それ以外、他社(ex. 博众精工科技股份有限公司、苏州德迈科电气有限公司、江苏都万电子科技有限公司等)からNIO(蔚来汽車)への権利譲渡/移転も一部あります。

訴訟状況 : 1件
譲渡/権利者変更 : 1323件
再審決定 : 4件
 

6.NIO(蔚来汽車)の他の分野業務

NIO社は、電気自動車以外に、充電施設インフラ及びそのネットワーク「NIO Power」、NIOユーザーのオフラインコミュニティ「NIO HOUSE」、オンラインコミュニティ「NIO Radio」、生活用品・食品「NIO LIFE」など、ブランド化されたサービス・商品も提供しています。
NIO社のコアとなる電気自動車にとどまらず、次々と事業領域を拡げているようです。
 

7.企業名による検索時の注意点

「蔚来汽車」はもともと「上海赛睿迪新能源汽車有限公司」という名称だったようです。
英語名はもともと「NEXTEV」でしたが、今は「NIO」に改名されています。

中国各地及び世界中に複数の拠点/関連会社があり、会社名(表記)が複数存在しています。
出願人又は譲受者ベースで検索する際は、出願人等の表記ゆれによる漏れが生じように、注意深く名寄せをしていく必要がありそうです。

本レポートでは、NIO社公式サイトに記載されている子会社情報、工商登記情報、取締役/株主関係、データベースの出願人ツール、特許出願分野などを参照しながら、出願人名称を慎重に厳選して検索しました。
 

参考:今回の分析対象とした母集団と検索式

《使用DB》

incoPat

《検索式》

((AP=(“蔚来(安徽)控股有限公司” OR 上海蔚来汽车 OR 上海蔚来新能源汽车 OR 上海蔚来科技有限公司 OR 广汽蔚来 OR 长安蔚来 OR 蔚来(广州)汽车 OR 蔚来汽车 OR 蔚来能源 OR 蔚来控股有限公司OR上海赛睿迪新能源汽车有限公司 OR NEXTEV OR “NIO CO LTD” OR “NIO CO., LTD.” OR “NIO NEXTEV LIMITED” OR “NIO HOLDING” OR “NIO (ANHUI) HOLDING” OR “NIO USA INC”)) OR (AEE=(“蔚来(安徽)控股有限公司” OR 上海蔚来汽车 OR 上海蔚来新能源汽车 OR 上海蔚来科技有限公司 OR 广汽蔚来 OR 长安蔚来 OR 蔚来(广州)汽车 OR 蔚来汽车 OR 蔚来能源 OR 蔚来控股有限公司 OR上海赛睿迪新能源汽车有限公司 OR NEXTEV OR “NIO CO LTD” OR “NIO CO., LTD.” OR “NIO NEXTEV LIMITED” OR “NIO HOLDING” OR “NIO (ANHUI) HOLDING” OR “NIO USA INC”)))
AP/AEE:出願人/譲受者
 

《出願人名等の確認》

なお、「蔚来」を含む出願人名称において、他にも数多く存在していますが、会社紹介・工商登記情報・株主関係・出願分野などから確認したところ、別会社と判断され、今回の検索から除外することにしました。
例として、以下のような企業名が挙げられます。

  • 深圳市蔚来科技有限公司
  • 广东蔚来实业有限公司
  • 成都蔚来空间科技有限公司
  • 苏州正力蔚来新能源科技有限公司
  • 天津蔚来科技有限公司
  • 徐州蔚来矿业设备有限公司
  • 江西蔚来照明有限公司
  • 福州市晋安区蔚来工业设计有限公司
  • 莱西市蔚来设计中心
  • 蔚来水控科技(宁波)有限公司
  • 温州蔚来电器有限公司 など

今回の調査は、中国の新興EVメーカであるNIO社の大まかな特許出願状況を俯瞰することを目的としているため、出願人/譲受者を中心とした簡易的な検索による分析結果に過ぎません。
より精度の高い特許情報を確認するには、対象分類(改定前のものを含む)と中国語キーワード(技術用語の網羅とシソーラス[類義語]の確認)をしっかりと選定したうえでの、本格的な検索が必要となります。

気になっている現地企業を調査したい方や、具体的な技術テーマについて中国特許の分析をしてみたい方は、お気軽に日本アイアールの特許調査部までお問い合わせ下さい。

 

(日本アイアール株式会社 特許調査部 X・W)


中国の技術情報調査、特許調査・分析サービスのページはこちら(日本アイアール・メインサイトへ)


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