プラスチックのマイナス面について課題と対応を速習解説|バイオプラスチック生産の実情とは
プラスチックが現在の私たちの生活に必要不可欠な便利な素材であることは言うまでもありません。
しかし、プラスチックの持つマイナス面が地球を、そして私たちの環境を蝕んでいるのも事実です。
目次
1.プラスチックのマイナス面をどの視点からとらえるか
プラスチックの代表として身近なポリエチレンを取り上げてみましょう。
ポリエチレンの利用により環境に生じている問題は多岐に渡りますが、考慮すべき課題は下記の二側面に集約されると思われます。
- 課題A:地球温暖化を加速(燃焼時にCO2排出)
- 課題B:生態系破壊(マイクロプラスチック化して残存)
課題Aは化石原料である石油を原料とすることに起因しており、石油系燃料と共通の課題です。
一方で課題Bは製品としてプラスチックが使用後にもたらす課題です。
Aはプラスチックの言わば入り口の、そしてBは出口の問題とみることができます。
2.マイナス面にどう対応しているのか?
私たちは上記課題にどう対応しているのでしょうか?
ポリエチレンへの対応のイメージを図1に示します。
【図1 課題への対応:ポリエチレン】
エチレンは石油中の成分であるナフサからエチレンを原料にして、これを重合することにより製造されます。
課題Aに対しては、原料のエチレンをバイオマス由来のエチレンに置き換える試みが進行中です。バイオマスであるサトウキビ等から生産されるバイオエタノールを用い、これをエチレンに転換しているのです。製品はあくまでも石油系と同一のポリエチレンとなります。このような対応を「A対応」と呼ぶことにします。
一方、課題Bに対しては生分解性プラスチックへの代替が行われています。なお、代替と言っても生分解性付与に伴ってプラスチックの使用時の物性も変化しますので、従来のポリエチレンの用途でそのまま使えるということではありません。生分解性プラスチックは原料がバイオマスのものと石油のものの両者があります。原料がバイオマス(A対応でもある)での対応を「AB対応」、原料が石油(A対応にはならない)での対応を「B対応」と呼ぶことにします。
3.日本発の環境対応型プラスチックの実例
課題Aや課題Bに対応した環境対応型プラスチックの開発は日本でも進められており、例えば、株式会社カネカは図2のPHBHというプラスチックを市場に投入しています1)。
【図2 株式会社カネカの環境対応型プラスチックPHBH 】
同社は2019年にPHBHの生産能力5000t/年のプラントを立ち上げました。
生産能力の増強計画も発表しています2)。
ところで、このPHBHでの環境対応は上記のどの対応に区分されるでしょうか?
まず原料が植物油ですからA対応を満足します。またPHBHは生分解性ですからB対応でもあります。即ちAB対応ということになります。環境への貢献という点で高い可能性を持つプラスチックと言えます。
4.環境対応型プラスチックの名称は分かりにくい?
この分野では名称が混乱や誤解を招くことがあります。ここで整理しておきましょう。
図3をご覧ください。A対応が「バイオマスプラスチック」、B対応が「生分解性ブラスチック」、A対応,AB対応,B対応を総称して「バイオプラスチック」と呼ばれています。課題Aと課題Bの側面を区別しつつも総合的にとらえることが重要です。
【図3 環境対応型プラスチックの区分と名称3)】
5.バイオプラスチックの生産はどこまで進んでいるのか?
バイオプラスチック=環境対応型プラスチックの研究開発が進む中で、その生産量はどこまで増えたのでしょうか?
まず世界の動きを確認しましょう。世界のプラスチック生産量の推移を図4-1に、バイオプラスチックの生産能力の推移と今後の予測を図4-2に示します。
バイオプラスチックの生産能力は拡大する傾向にありますが、それでも、2020年時点で全プラスチック生産量の1%にも達していません。これが実情です。
【図4-1 世界のプラスチック生産量4)2020年:3億6700万t】
【図4-2 世界のバイオプラスチック生産能力5)2020年:209万t】
日本においては、少し前の2018年のデータですが、プラスチック国内投入量は992万tであり、そのうち
- バイオマスプラスチック(非生分解性)=A対応 4.1万t
- 生分解性プラスチック=AB対応+B対応 0.4万t
と報告されています3)。
バイオプラスチック合計で全プラスチックの1%に満たないという点では世界と同様です。
日本政府はこの状況を打開すべく、バイオプラスチック導入ロードマップを作成し、2030年に国内導入量200万tという野心的な高い目標を掲げて動き出しています3)。
6.バイオプラスチック増産の障害は何か?
端的に言って、高コストがバイオプラスチック増産を阻んでいると言われています。
コストの具体的な数値は表に出にくいのですが、現状では、バイオマスプラスチック(上記A対応)であるバイオPE(ポリエチレン)が石油系の約3倍、バイオ PETで約 1.5 倍とされています。
生分解性プラスチックでは、汎用プラスチックと比較した際に、PLA(ポリ乳酸、上記AB対応)が2~3倍、PBAT(ポリブチレンアジペートテレフタレート)に関しては石油由来品(上記B対応)で2~2.5 倍、バイオマス由来品(上記AB対応)で4~5倍とされています3)。
バイオブラスチックの大幅なコストダウンは容易ではないと考えられますが、地球の環境を守るために人類の英知を結集して取り組むことが求められています。
(日本アイアール株式会社 特許調査部 N・A)
《参考文献・引用》
1) 松本 圭司「Candida maltosaによる生分解性プラスチック(PHBH)の生産」生物工学会誌,9(5),242(2016)
2) 「カネカ生分解性ポリマーGreen Planet®の大型能力増強を決定」株式会社カネカ(ニュースリリース)
3) 「バイオプラスチック導入ロードマップ」環境省,経済産業省,農林水産省,文部科学省
4) Plastics Europe Plastics – the Facts 2021
5) European Bioplastics Bioplastics market data