3分でわかる技術の超キホン バイヤー・ビリガー酸化反応とその利用例(医薬品/天然物)

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Baeyer-Villiger酸化の解説
バイヤー・ビリガー(Baeyer-Villiger)酸化反応は、「バイヤー・ビリガー転移反応」とも呼ばれます。
これは、炭素-炭素結合が切断され、炭素置換基が転移することによってエステルが生成する反応で、炭素-炭素結合が炭素-酸素結合に置き換わる反応といえます。
医薬品や天然物の合成にもよく用いられる合成反応ですが、意外にも発表当時はあまり注目されていなかったようです。

今回のコラムでは、バイヤー・ビリガー酸化反応に関連する化学合成反応をご紹介いたします。

1.バイヤー・ビリガー酸化反応とは?

バイヤー・ビリガー(Baeyer-Villiger)酸化反応は、鎖状・環状ケトンのカルボニル基が酸化されてエステルやラクトンになる反応です。

環状ケトンのカルボニル

反応機構としては、ケトンのカルボニル基がプロトン化され、そこに酸化剤が付加した中間体で片方の炭素置換基が転位反応を起こし、最終的にエステル(ラクトン)が生成します。

炭素置換基

転移する炭素置換基は電子豊富なものの方が転位しやすく、[ 3級アルキル>2級アルキル>芳香環(ビニル)>1級アルキル>メチル ]の順番で、転位能が下がるとされています。

酸化剤としては、過酢酸、過トリフルオロ酢酸、メタクロロ過安息香酸(m-CPBA)、過酸化水素水などがありますが、安全性や入手しやすさからmCPBA(メタクロロ過安息香酸)がよく用いられるようです。

 

2.バイヤー・ビリガー酸化反応の発見まで

Baeyerは、ストラスブルク大学教授・科学研究所所長を経て、ミュンヘン大学・教授となりましたが、その間多くの研究で成果を挙げています。
例えば、インディゴの合成・構造解明、アセチレンのオリゴマー合成、アルデヒドとケトンの縮合反応、フタレイン色素の合成などがあります。

Villigerは、Baeyerの研究室に入り、そこで学位を取り、助手になりました。二人は師弟関係なのです。
Baeyerは、Villigerの学位研究をテルペン類の構造研究に利用することを考え、Villigerは環状物テルペンケトンのカロ酸による酸化反応を行いました。
ここで、多くのケトンが酸化を受けることが分かり、論文を発表するに至りました。

しかし、バイヤー・ビリガー酸化反応に関する論文は、1989年と翌年に発表された2報のみで、当時はあまり注目されなかったようです。20世紀後半にこの反応がさかんに研究がされるようになり、2人に敬意を表して”Baeyer-Villiger oxidation”と呼ばれるようになりました。

なお、Baeyerは、このBaeyer-Villiger酸化反応ではなく、有機染料とヒドロ芳香族化合物の研究によってノーベル賞を1905年に受賞しています。

 

3.バイヤー・ビリガー酸化反応の利用例

次に、バイヤー・ビリガー酸化反応が用いられた報告をいくつかご紹介いたします。

(1)医薬品

① モルヒネ

モルヒネは、ケシの実に含まれるアルカロイドであって、がん患者の疼痛治療に用いられる鎮痛剤として知られているものです。
モルヒネの全合成の報告の中で、中間体であるフェナントレン骨格を持つ四環性化合物をバイヤー・ビリガー反応によって酸化、選択的にラクトンを得たと報告されています。

モルヒネ
 

② エリスロマイシン

エリスロマイシンは、マクロライド系の抗生物質で、各種感染症に用いられる抗菌剤として知られているものです。
エリスロマイシンの全合成の検討が行われており、その報告の中で、中間体の合成にバイヤー・ビリガー酸化反応が用いられいます。

エリスロマイシン
 

(2)天然物

① マリンゴリド

海洋性抗生物質として知られるマリンゴリドの合成にバイヤー・ビリガー酸化反応が検討された報告があります。

マリンゴリド
 

② ブラシノライド

植物ホルモンの一種で、ステロイド骨格をもつ化合物です。
その作用としては、植物体全身の伸長成長、細胞分裂と増殖、種子の発芽などを促進するとされています。
ブラシノライドの合成法として、バイヤー・ビリガー酸化反応を用いた報告があります。

ブラシノライド

 

4.バイヤー・ビリガーモノオキシゲナーゼ

微生物などに、バイヤー・ビリガー酸化を触媒する酵素(バイヤー・ビリガーモノオキシゲナーゼ)があることが知られています。
環状ケトンからラクトンを、脂肪族・芳香族ケトンからエステルを合成する反応などが報告されております。

具体的には、カビ毒と知られているアフラトキシンは、その生合成の過程で、バイヤー・ビリガーモノオキシゲナーゼの働きによってエステルが生成され、バイヤー・ビリガー酸化反応が起きているものと考えられています。
アフラトキシン

また、ダニの一種であるコナダニ類ではモノテルペンのギ酸エステル(ギ酸ネリル)が警報フェロモンとして広く分布していますが、このギ酸エステルは、バイヤー・ビリガー酸化反応によって生成されているとの報告があります。
ギ酸ネリル

 

5.バイヤー・ビリガー酸化に関する特許/文献の検索

(※いずれも2020年10月における検索結果です)

(1)バイヤー・ビリガー酸化反応に関する特許検索

J-PlatPatを用いて、バイヤー・ビリガー酸化反応を検索してみました。

  • 全文: [バイヤー,5C,ビリガー/TX+Baeyer,5C,Villiger/TX] ⇒ 837件
  • 全文: [バイヤー,5C,ビリガー/TX+Baeyer,5C,Villiger/TX] *A61K/FI ⇒ 200件
  • 請求範囲: [バイヤー,5C,ビリガー/CL+Baeyer,5C,Villiger/CL] ⇒ 80件
  • 請求範囲: [バイヤー,5C,ビリガー/CL+Baeyer,5C,Villiger/CL]*A61K/FI ⇒ 4件

以下、検索結果中の特許公報に記載されていたバイヤー・ビリガー酸化反応の例をご紹介いたします。

① 特開平11-506443「リポ酸の製造法」

リポ酸の製造法
 

② 特表2017-520529「ベラプロスト及びその誘導体の製造方法」

ベラプロスト及びその誘導体の製造方法
 

(2)バイヤー・ビリガー酸化反応に関する文献検索

JSTが運営する文献データベース「J-STAGE」を用いて、バイヤー・ビリガー酸化反応について簡単に検索してみました。

  • 全文: バイヤー-ビリガー+ Baeyer-Villiger ⇒ 737件
  • 抄録: バイヤー-ビリガー+ Baeyer-Villiger ⇒ 128件

ざっと内容を見てみると、ブラシノライド生合成、不斉Baeyer-Villiger酸化などの文献が見受けられました。

ご興味のある方は、ぜひご自身で検索して内容を確認してみましょう!
 

(日本アイアール株式会社 特許調査部 S・T)
 

医薬品関連の特許調査なら日本アイアール

 

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