アンテナを理解するために最低限知っておくべき電磁気学の基礎知識

アンテナ技術を学ぼうとすると、必ずと言ってよいほど「電磁気学」という言葉が登場します。
この時点で難しそうだと感じ、学習を止めてしまう方も少なくありません。しかし実際には、アンテナを理解するために必要な電磁気学は、ごく限られた範囲に集約できます。
本稿では、アンテナ動作の背景にある電磁気学の基本概念を、数式を使わずに整理します。目的は、「なぜアンテナが電波を放射・受信できるのか」を理解するための土台を築くことです。
アンテナの基礎知識をテーマとした当連載の第1回「アンテナとは何か?基本原理と役割を初心者向けに解説」で触れた内容を補強しながら、この先で扱う専門用語や設計概念につながる考え方を整理していきます。
目次
1.なぜアンテナに電磁気学が必要なのか
アンテナは、電気信号を電波に変換し、また電波を電気信号に戻す装置です。
この変換は、電気回路の中だけで完結するものではなく、エネルギーが空間へ放射され、また空間から受け取られるという特徴を持っています。
一般的な電気回路理論では、抵抗・コンデンサ・インダクタといった回路素子を用いて、導体内部の電圧や電流の関係を扱います。しかしアンテナでは、エネルギーが導体の外へ広がり、空間を伝搬します。このような振る舞いは、回路内の電圧や電流だけを追いかけても十分に説明することができません。
アンテナを理解するためには、導体の外側、すなわち空間に存在する電界や磁界がどのように発生し、どのように振る舞うのかを考える必要があります。この「空間との相互作用」を扱う学問が電磁気学です。
電磁気学というと、マクスウェル方程式や難解な数式を連想しがちですが、アンテナの基礎を理解する段階では、必ずしも高度な数学を用いる必要はありません。重要なのは、電圧や電流が時間的に変化することで電界や磁界が生まれ、それが電磁波として空間を伝わる、という基本的な考え方を押さえることです。
以下では、アンテナを理解するために最低限必要となる電磁気学的な視点を、できるだけ直感的に整理していきます。
2.電界と磁界という2つの主役
電磁気学では、「電界」と「磁界」という2つの概念が中心になります。
アンテナの動作も、この2つの振る舞いによって説明されます。
(1)電界とは何か
「電界」とは、電荷が存在することで空間に生じる電気的な影響のことです。
電圧がかかっている導体の周囲には電界が形成され、他の電荷に力を及ぼします。アンテナに高周波電圧が印加されると、その周囲の電界も時間とともに変化します。この電界の変化が、電波発生の重要な要素になります。
電界の強さは「電界強度」と呼ばれ、一般に距離が離れるほど弱まります。ただしアンテナ周囲では、周波数や構造、周囲環境によって電界の分布が複雑に変化します。
(2)磁界とは何か
「磁界」は、電流が流れることで生じる空間的な影響です。
たとえば導線に電流を流すと、その周囲には磁界が発生し、磁石のように「磁力が働く空間」が形成されます。
磁界は、目に見えないものですが、説明の際には「磁力線」という線で表されることが多くあります。磁力線は実際に存在する線ではなく、磁界の向きや強さをイメージするための表現です。磁力線が密に描かれるほど、その場所の磁界が強いことを意味します。
アンテナでは高周波電流が流れるため、磁界も時間とともに変化します。このように変化する磁界は、アンテナが電波を放射する仕組みの中で重要な役割を果たします。
(3)電界と磁界は常にセットで考える
ここまで説明してきたように、アンテナの動作を理解するうえでは、電界と磁界を切り離して考えることはできません。アンテナに電圧が加えられると、その周囲には電界が形成されます。一方、アンテナに電流が流れると、その周囲には磁界が発生します。
この関係を模式的に示したものが図1です。

【図1 電界と磁界の発生イメージ】
図1の左側は、アンテナに電圧が印加されたときに、導体の周囲に電界が広がる様子を示しています。
電界は、電圧によって空間に生じる影響であり、導体から放射状に広がるイメージで捉えることができます。
一方、図1の右側は、アンテナに電流が流れたときに磁界が発生する様子を表しています。磁界は電流の流れに伴って生じ、導体の周囲を取り巻くように形成されます。電流が変化すれば、磁界の大きさや分布も時間とともに変化します。
実際のアンテナ動作では、電圧と電流は同時に存在し、高周波回路により時間的に変化しています。
その結果、アンテナの周囲には電界と磁界が同時に、かつ連動して発生します。
電界の変化は磁界を生み、磁界の変化は再び電界を生むという関係が繰り返されることで、エネルギーはアンテナ周囲の空間へと広がっていきます。

【図2 アンテナ周辺の電界と磁界のイメージ】
このように、アンテナ周辺で起きている現象は、「電界だけ」「磁界だけ」で説明できるものではありません。
電圧に対応する電界と、電流に対応する磁界がセットになって振る舞うという点を理解することが、電磁気学的にアンテナを捉える第一歩になります。
3.時間的に変化することの重要性
アンテナ動作を理解するうえで、最も重要なキーワードの一つが「時間的に変化する」という点です。
(1)直流では電波は生まれない
アンテナから電波が放射されるためには、「電界や磁界が時間的に変化すること」が不可欠です。
この点を理解するうえで、図3が重要な手がかりになります。

【図3 時間的に変化する電界と磁界】
まず、アンテナに直流電圧や直流電流を与えた場合を考えてみます。
この場合、アンテナの周囲には電界や磁界は確かに存在しますが、それらは時間的に変化しない「静的な状態」にとどまります。
図3の左側に示すように、電界や磁界が一定のままでは、エネルギーはアンテナの近くにとどまり、遠方へ伝搬する電磁波は生じません。
一方、無線通信で用いられる高周波信号では、電圧と電流が非常に速い周期で変化します。その結果、電界と磁界も時間的に変化し続けます。
図3の中央に示されているように、変化する電界は磁界を生み、変化する磁界は再び電界を生むという関係が連続的に起こります。
この連鎖的な変化が空間へと広がることで、エネルギーはアンテナ周囲を離れ、電磁波として空間を伝搬するようになります。図3の右側は、この状態を模式的に表したものです。
ここで初めて、情報を運ぶことのできる「電波」が成立します。
このように、アンテナにおいて重要なのは、単に電圧や電流が存在することではなく、それらが時間的に変化していることです。
直流では電波が生まれず、高周波信号が必要とされる理由は、図3に示した電磁波生成の仕組みにあります。
(2)周波数が高いほど変化は激しい
「周波数」とは、1秒間に何回変化するかを表す指標です。
周波数が高いほど、電界や磁界の変化は速くなります。
アンテナ設計では、この周波数に対応する波長との関係が重要になります。波長は周波数が高いほど短くなるため、アンテナ寸法も波長との関係を基準にして決められます。
周波数が高くなり、波長が回路の寸法と同程度になると、回路を単純な集中定数(抵抗・インダクタ・コンデンサ)として扱うことが難しくなります。このような場合、回路は「分布定数回路」として扱う必要があります。
分布定数回路とは、インダクタンスやキャパシタンスが特定の部品としてではなく、導体や伝送線路に沿って連続的に分布していると考えるモデルです。
アンテナや高周波回路では、特性インピーダンスや反射といった電磁気学的な性質を考慮する必要があります。この点も、アンテナが通常の低周波回路とは異なる理由の一つです。
またアンテナ設計では、通信で使用する「動作周波数」と、アンテナが最も効率よく働く「共振周波数」が重要になります。
共振周波数はアンテナの寸法(波長との関係)によって決まり、必要に応じてインダクタやコンデンサを用いて調整することもあります。
4.電磁波として空間を伝わる仕組み
電界と磁界が時間的に変化しながら連鎖的に広がることで、電磁波が生じます。これが「電波」です。
(1)電磁波は「運ばれるエネルギー」
「電磁波」は、電界と磁界が結びついた状態で空間を伝搬する現象です。
アンテナから放射されたエネルギーは、導体を離れ、空間を伝搬していきます。
この性質により、アンテナ同士が物理的につながっていなくても、電磁波が空間での伝搬を行うことで情報のやり取りが可能になります。
(2)近傍界と遠方界の再確認
当連載の第1回でも触れましたが、アンテナ周囲の電磁界は「近傍界」と「遠方界」に分けられます。
近傍界では電界と磁界が複雑に分布し、エネルギーはアンテナ周辺に強く束縛されています。一方、遠方界では電界と磁界が安定した関係を保ち、電磁波として空間を伝搬します。
これは第1回でも触れましたが、空間インピーダンスが近傍界では一定ではなく、遠方界において安定した値になることで伝搬が可能になるためです。
電磁気学は、この両者の違いを理解するための基礎となります。
5.アンテナ理解に必要な最低限の電磁気学まとめ
ここまで見てきたように、アンテナを理解するために必要な電磁気学の要点は次のように整理できます。
- 電界と磁界は空間に存在する
- 高周波信号によって電界・磁界が時間的に変化する
- 変化する電界と磁界が電磁波を生む
- 電磁波は遠方界として空間を伝搬する
これらを押さえておけば、アンテナの放射原理や特性の説明を理解するための準備は十分です。
次回は、アンテナ性能を評価するための指標である「利得」「指向性」「放射パターン」などのパラメータを解説します。これらの概念は、今回解説した電磁界の振る舞いと密接に関係しています。
電磁気学を難解な理論として捉えるのではなく、アンテナ現象を説明するための「言語」として理解することが、アンテナ技術習得への近道です。
(日本アイアール株式会社 特許調査部 T・T)



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