3分でわかる 希土類金属(レアアース)と磁性|高性能な永久磁石の原理を解説

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希土類金属(レアアース)の磁性特性と高性能永久磁石:磁気異方性と保磁力

希土類元素は、レアアースとも呼ばれ、金属材料としては希土類金属として扱われます。ネオジム磁石やサマリウムコバルト磁石など、現代のハイテクノロジーを支える高性能永久磁石に欠かせない元素です。電気自動車(EV)、ロボット、航空機、風力発電機、スマートフォンなど、さまざまな分野で使用される高性能モーターには、小型で強力な永久磁石が必要不可欠です。なかでも希土類磁石は、実用永久磁石の中でも特に高い磁気エネルギー積を示す代表的な高性能磁石として知られています。

では、なぜ希土類元素を用いることで、このような強力な永久磁石が実現できるのでしょうか?
その秘密は、別コラム「3分でわかる 希土類金属(レアアース)の基礎知識・要点解説」の中で解説した、「内側に隠れた4f電子」にあります。4f電子は希土類イオンの大きな磁気モーメントに関与するだけでなく、スピン軌道相互作用と結晶場を通じて、磁化の向きを特定方向に保とうとする「結晶磁気異方性」の源にもなります。

本稿では、まず希土類元素そのものの磁性特性を解説したうえで、後半では高性能永久磁石へどのように応用されているかを紹介します。

1.希土類元素の磁性特性

(1)磁性の基礎知識

磁性といえば、「鉄」を思い出す方が多いかもしれません。室温付近で強磁性を示す代表的な金属元素としては、FeCoNi がよく知られています。

電子は「スピン」と呼ばれる量子力学的な性質を持っています。これは古典的な意味で電子が自転しているというより、電子が本質的に持つ角運動量として理解されます。

Fe、Co、Ni などの3d遷移金属では、主に3d電子のスピン磁気モーメントが磁性の主要な要因になります。
一方、希土類元素では、4f電子の軌道角運動量が失われにくく、スピン軌道相互作用を通じて磁性や磁気異方性に大きく関与します。

Feでは3d電子に不対電子が存在し、固体中で隣接原子間の交換相互作用により磁気モーメントが同じ方向にそろいやすくなります。そのため、鉄は強磁性を示します。
一方、Cuでは3d殻が満たされており、強磁性を生むような3d電子の磁気モーメントの整列が起こりにくいため、通常は反磁性的な金属として振る舞います。

 

鉄と銅のd軌道電子配置と磁性の関係
【図1 鉄と銅のd軌道電子配置と磁性の関係】

 

(2)4f電子と不対電子

ランタノイド元素では、内側の4f軌道に電子が順次収容されます。4f電子は外側の5s・5p電子によって遮蔽されているため、結晶中でも比較的局在性の高い性質を保ちます。この4f軌道に不対電子が存在すると、希土類イオンは大きな磁気モーメントを持ちます。

4f軌道は3d軌道よりも多くの不対電子を保持できるため、大きな磁気モーメントを生じやすい。です。
これらの電子はスピン磁気モーメントと軌道磁気モーメントを生じ、イオン全体として大きな磁気モーメントを形成します。

なお、希土類イオンの磁性は不対電子数だけで決まるわけではありません。4f電子では軌道角運動量が残りやすく、スピン軌道相互作用によって形成される全角運動量Jも重要になります。

表1に示すように、多くのランタノイド元素では4f軌道に電子が収容され、3価イオンの状態でも4f軌道に不対電子が残る場合があります。これらの4f電子は外側の電子によって比較的遮蔽されているため、結晶中でも局在性を保ちやすく、希土類イオンの磁気モーメントの主な起源となります。
ただし、希土類イオンの不対電子が存在するだけで強磁性が生じるわけではなく、磁気秩序の形成には原子間の交換相互作用が関与します。

 

【表1 希土類元素の電子配置、原子価、半径および水溶液の色(:非磁性)】

原子番号 元素記号 原子量 原子の電子配置 M3+イオンの電子配置 原子価(主な酸化数) 原子半径(pm) M3+半径(6配位)(pm) M3+塩の水溶液の色
21 Sc 44.97 3d14s2 3d0 +3 163 88 無色
39 Y 88.92 4d15s2 4d0 +3 178 104 無色
57 La 138.92 5d16s2 4f0 +3 187 117 無色
58 Ce 140.13 4f15d16s2 4f1 +3, +4 183 115 無色
59 Pr 140.92 4f36s2 4f2 +3, +4 182 113
60 Nd 144.27 4f46s2 4f3 +2, +3, +4 181 112 赤紫
61 Pm 147.00 4f56s2 4f4 +3 180 111 淡赤
62 Sm 150.35 4f66s2 4f5 +2, +3 179 110 淡黄
63 Eu 152.00 4f76s2 4f6 +2, +3 198 109 無色
64 Gd 157.26 4f75d16s2 4f7 +3 179 108 無色
65 Tb 158.93 4f96s2 4f8 +3, +4 176 106 無色
66 Dy 162.51 4f106s2 4f9 +2, +3, +4 175 105
67 Ho 164.94 4f116s2 4f10 +3 174 104 淡黄
68 Er 167.27 4f126s2 4f11 +3 173 103 桃色
69 Tm 168.94 4f136s2 4f12 +2, +3 172 102 淡緑
70 Yb 173.04 4f146s2 4f13 +2, +3 194 101 無色
71 Lu 174.99 4f145d16s2 4f14 +3 172 100 無色

 

(3)結晶磁気異方性

希土類元素の最大の特徴のひとつが、「大きな結晶磁気異方性」です。
4f電子は外側の5s、5p電子によって遮蔽されているため、結晶中でも比較的局在性を保ちやすい電子です。
その結果、4f電子の軌道角運動量が失われにくく、スピン軌道相互作用を通じて磁気モーメントの向きが結晶中の特定の方位と結びつきやすくなります
この性質が、磁化を特定方向に保とうとする「結晶磁気異方性」の大きさにつながります。

 

(4)磁石材料における主な希土類元素とその役割

希土類元素は、元素ごとの磁性特性や耐熱性への寄与の違いによって、磁石材料の中でさまざまな役割を担っています。

  • Nd(ネオジム): 高性能永久磁石であるネオジム磁石の主要元素。
  • Sm(サマリウム): サマリウムコバルト磁石などの高耐熱磁石に利用。
  • Gd(ガドリニウム): 4f軌道に7個の不対電子を持ち、大きなスピン磁気モーメントを示す。
  • Dy(ジスプロシウム): 高温時の保磁力向上に寄与。
  • Tb(テルビウム): ネオジム磁石の保磁力や高温特性の向上に利用。

特にDyやTbは、ネオジム磁石の高温環境下での減磁を抑えるうえで重要な元素です。
ただし、これらの重希土類は資源制約やコストの面で課題があるため、近年では使用量を抑えつつ効果を高める技術も重視されています。

 

2.磁性体の種類

磁性体は、外部磁場に対してどのように反応するか、また内部のスピンがどのように並ぶかによって、主に以下の5つのタイプに分類されます(表2、図2)。

 

【表2 磁性体の主要な分類】

分類 スピンの状態
(外部磁場なし)
外部磁場への反応 代表的な物質
強磁性体 同じ方向に揃っている 強く引きつけられ、磁場を除いても磁化が残る場合がある 鉄 (Fe)、コバルト (Co)、ニッケル (Ni)
常磁性体 バラバラな方向を向いている 磁場と同じ方向に弱く磁化されるが、磁場を除くと磁化がほぼ消える アルミニウム、酸素、希土類イオンの多く
反磁性体 原子・分子全体として永久磁気モーメントを持たない 磁場と逆方向に極めて弱く磁化され、磁石にわずかに反発する 銅(Cu) 、水、金
反強磁性体 隣り合うスピンが逆向きに並ぶ 全体として磁気モーメントが打ち消されるが、内部には規則的な磁気秩序を持つ 酸化マンガン、酸化ニッケル
フェリ磁性体 逆向きのスピンが交互に並ぶが、大きさが異なる 打ち消しきれない磁気が残り、強磁性と似た性質を示す フェライト(酸化鉄系磁性体)
 

物質の磁気双極子の並び方
【図2 代表的な磁性体における磁気双極子の並び方】

 

[※関連記事:3分でわかる 磁性体の基礎知識|磁性体とは?磁気の源は?強磁性体になる理由は?

次章では、このような希土類元素の磁性特性が、ネオジム磁石やサマリウムコバルト磁石などの高性能永久磁石にどのように活用されているかを見ていきます。

 

3.希土類永久磁石

このような希土類元素の磁性特性は、FeやCoなどの3d遷移金属と組み合わされることで、高性能永久磁石として実用化されています。
希土類磁石では、FeやCoの3d電子が大きな磁化を担い、希土類元素の4f電子が結晶磁気異方性の発現に大きく寄与します。その結果、磁化方向が安定化され、磁化反転が起こりにくくなるため、高い保磁力を示します。これにより、外部磁場や熱による減磁が起こりにくくなります。

この「3d電子による強い磁化」と「4f電子による強い磁気異方性」の組み合わせによって、ネオジム磁石やサマリウムコバルト磁石に代表される高性能な希土類永久磁石が実現されています。

 

(1)ネオジム磁石

ネオジム磁石(Nd-Fe-B)は、ネオジム、鉄、ホウ素を主成分とする代表的な高性能永久磁石です。

実用永久磁石の中でも特に高い磁気エネルギー積を持ち、小型・高出力化が求められるモーターや電子機器に広く利用されています。スマートフォンの振動モーター、EV駆動モーター、産業用ロボット、風力発電機など、幅広い分野で重要な材料となっています。

特にNdの4f電子に由来する大きな結晶磁気異方性により、磁化反転が起こりにくいことが特徴です。この性質が高い保磁力につながります。

[※関連記事:なぜネオジム磁石は最強なのか?原理と用途をわかりやすく解説

 

(2)サマリウムコバルト磁石

サマリウムコバルト磁石Sm-Coサマコバ磁石)は、サマリウムとコバルトを用いた永久磁石です。

ネオジム磁石より最大磁気エネルギー積は一般に小さいものの、耐熱性・耐食性に優れており、高温環境下でも安定した性能を維持できます。そのため、航空宇宙分野、高温環境で使用される産業機器、信頼性が重視される特殊用途などで利用されています。

[※関連記事:主な希土類磁石と合金磁石の特性・用途を比較解説(サマコバ/ネオジム/アルニコ)

 

(3)Dy・Tb添加による高温特性向上

重希土類であるジスプロシウム(Dy)テルビウム(Tb)は、ネオジム磁石の保磁力を高め、高温環境下での減磁を抑える目的で添加されることがあります。
EV駆動モーターでは高温環境下でも安定した磁気特性が求められるため、Dy や Tb の添加、または粒界拡散による重希土類の効率的な利用が重要になります。
ただし、Dy を過剰に添加すると残留磁束密度や最大磁気エネルギー積が低下する場合があるため、近年では添加量を抑えつつ、粒界付近に効率的に配置する「粒界拡散技術」などの開発が進められています。

[※関連記事:磁性材料(レアアース/レアメタル)の使用量削減・節約技術|コバルト・ジスプロシウム

 

4.まとめ

希土類元素の多くは、4f電子に由来する大きな磁気モーメントや強い結晶磁気異方性に関係する性質を持つことが特徴です。
一方、実際の高性能永久磁石では、Fe や Co などの3d電子が強い磁化を担い、希土類元素の4f電子が結晶磁気異方性を通じて磁化方向の安定化や高い保磁力の実現に寄与しています。

つまり、希土類永久磁石の高性能化は、主に次の二つの役割分担によって説明できます。

  • 3d電子による強い磁化
  • 4f電子による強い磁気異方性と、それに基づく保磁力の向上

この二つの役割分担によって、ネオジム磁石をはじめとする高性能希土類永久磁石が実現されているのです。
今後、EVや再生可能エネルギー分野の拡大に伴い、希土類磁石の重要性はさらに高まると考えられます。

そして、この4f電子は、磁性だけでなく、レアアースのもう一つの重要な機能である「発光」にも深く関係しています。
次回は、LED、レーザー、光ファイバー通信などを支える、レアアースの発光メカニズムについて解説します。

 

(日本アイアール株式会社 特許調査部 H・L)
 


《参考文献》


 

 

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