3分でわかる技術の超キホン プロドラッグとは?
医薬品は、既存品よりも活性の高いもの、より副作用の少ないもの等々、より良い医薬品を開発しようと、世界中の製薬企業がしのぎを削っています。
種々ある医薬品開発の手段の一つとして「プロドラッグ」が用いられており、今使われている医薬品のうち、結構な数がプロドラッグによって商品化されています。
目次
1.プロドラッグとは?
プロドラッグ(prodrug)とは、日本薬学会の薬学用語解説では、「体内で代謝されてから作用を及ぼすタイプの薬」と定義されています。
体内あるいは目標部位に到達してから薬理活性をもつ化合物に変換され、薬理効果を発揮(活性化)するように化学的に修飾された薬です。プロドラッグは、医薬品の溶解性や吸収性、安定性の改善などを目的とした分子修飾を行ったものといえます。
体内で薬理活性の強い化合物に代謝変換するように設計されるプロドラッグは1958年にAlbert によってその概念が提唱されて以来、多くの医薬品が開発され、臨床応用されています。
プロドラッグやアンテドラッグ/ソフトドラッグ型創薬は、安全性の高い医薬品の開発において非常に有効な手段となっています。
(※関連コラム:アンテドラック/ソフトドラッグについてはこちらをご参照ください)
2.プロドラッグの目的
プロドラッグの主な目的としては、下記のようなものが挙げられます。
(1)副作用の軽減
インドメタシンそのものは、消化管障害があるとされ、これを回避した化学構造をもつものが選ばれています。
アンピロキシカム、ドキシフルリジン、カペシタビンも同様な消化管障害を回避したプロドラッグといわれています。
(2)作用の持続化
フルルビプロフェンは、血中消失半減期が比較的短く、ヒトではほとんど尿中に排泄されてしまいます。
プロドラッグ及び製剤化することにより、静脈内投与が可能な製剤になったといわれています。
テガフールも同様な効果を期待されてプロドラッグとなりました。
(3)吸収増大
テノホビル自体は腸管から吸収されないという欠点があり、プロドラッグ化により吸収が向上しました。
テノホビルジソプロキシル、テノホビルアラフェナミドが知られています。
バラシクロビルも同様で、アシクロビルの吸収率は20%程度ですが、プロドラッグされたバラシクロビルでは70%程度と高くなっています。
バロキサビルマルボキシル、オセルタミビル、テモカプリル、オルメサルタン等も吸収率が向上したプロドラッグとされています。
(4)水溶性増大
イリノテカンは、カンプトテシンをリード化合物として開発されましたが、最終的には水への可溶性を高めることにより、注射剤として製剤化可能となりました。
その他、安定や、味・においの改善等々を目的としたプロドラッグが開発されています。
3.プロドラッグの設計
プロドラッグは、医薬品の薬効に関わる官能基をエステル結合などでマスクして、分子全体の特性を変化させて、薬としての欠点を改善します。
生体内に取り込まれた後、標的とする患部で薬理活性の強い薬物に代謝変換するように設計されています。
例えば、インドメタシンのように、副作用として胃腸障害があり、これを軽減するために、プロドラッグとしてカルボン酸エステルが選択されることが多くあります。
また、注射薬開発のために、リン酸やマンニトールを結合して水溶性を増大させたプロドラッグ(Fosfluconazole、Bortezomib mannitol ester等)もあり、種々の目的に応じたプロドラッグが開発され、実用化されております。
4.プロドラッグの例
プロドラッグをタイプ別に分類すると下記のようなものが挙げられます。
(1)エステル化
カルボキシル基を持つ化合物のプロドラッグ化に用いられる手法です。
エステル化の例としては数多く、代表的なものには、インドメタシン誘導体(アセメタシンやプログルメタシン)があります。
バルガンシクロビルも水酸基をエステル化したプロドラッグで、経口吸収性が改善され、生物学的利用率が格段に向上しました。
バラシクロビルは、活性体であるアシクロビルをバリンエステル体としたもので、吸収率を上げることに成功しています。
セフカペンピボキシルは経口投与後、吸収時に腸管に存在するエステラーゼにより加水分解され、活性体セフカペンとなります。
セフェム系抗生物質や抗インフルエンザウイルス薬はエステル化によるプロドラッグが多くみられます。
降圧剤であるテモカプリル、アジルサルタン、エナラプリル、ペリンドプリルもカルボキシル基をエステル結合にしたものです。
(2)アルキル化
活性体が水酸基やNH基を持つものにアルキル基を導入するタイプです。
水酸基の例としては、アンピロキシカム、フルルビプロフェンアキセチルがあります。
アンピロキシカムは経口投与後、腸管から吸収される過程でピロキシカムに変換されます。
バロキサビルマルボキシルは最近流行りの抗インフルエンザウイルス薬ですが、これも水酸基のアルキル化によるものです。
NH基の例としては、フルオロウラシルが挙げられ、作用の持続性向上を目的としています。
プルリフロキサシンはNH基のアルキル化により経口投与での吸収性が向上した例です。
(3)リン酸エステル化
テノホビルは、テノホビル二リン酸を活性体とするもので、リン酸をエステル化することで、プロドラッグとしています。
テノホビルジソプロキシル、テノホビルアラフェナミドが知られています。
ソホスブビルは、体内で段階的にヌクレオシド誘導体三リン酸である活性代謝物へ代謝されると考えられています。
(4)リン酸化
ホスラブコナゾールは、活性体のラブコナゾールの水酸基にリン酸を付けたものです。
ラブコナゾールの水溶性及び生物学的利用率を高めたプロドラッグとなっています。
ホスアンプレナビルカルシウムも同様なプロドラッグです。
ホスフェニトインは活性体のNH基にアルキルリン酸を付けたもので、血中で速やかに加水分解され、活性体のd-アンフェタミンを生成します。
(5)酸化・還元等
活性体が水酸基を持つ場合などで、体内で酸化・還元されて活性体になるタイプです。
ロキソプロフェンナトリウムは、未変化体として消化管から吸収され、その後速やかに活性代謝物(trans-OH体)に変換されて鎮痛、抗炎症、解熱作用を示すものです。
ミノキシジルは体内で硫酸化されたサルフェート体になり、作用を示すと考えられています。
その他にもいろいろなプロドラッグがあります。それぞれの薬剤の具体的な内容については、今後ご紹介する予定です。
5.プロドラッグの特許を調べてみると?
プロドラッグの日本特許について、特許庁のデータベース「J-Platpat」で調べてみました。
「プロドラッグ」の分類(FI)は、A61P43/00,123となっています。この分類コードを使ってプロドラッグの特許出願傾向等をみてみました。
(※いずれも2019年7月時点での検索結果です)
①FI (A61P43/00,123)を出願年別にみると、【表1】のようになりました。
【表1】
出願数としては、2004年をピークに年々減少の傾向になっています。
②このうち、薬効分類別でみると【表2】のようになりました。(2001年以降を対象)
【表2】
件数 |
FI |
分類の説明 |
1282/2910 | A61P35 | 抗腫瘍剤 |
1225/2910 | A61P25 | 神経系疾患の治療薬 |
1111/2910 | A61P9 | 循環器系疾患の治療剤 |
982/2910 | A61P3 | 代謝系疾患の治療薬 |
902/2910 | A61P29 | 非中枢性鎮痛剤,解熱剤,抗炎症剤 |
882/2910 | A61P1 | 消化器官,消化系統の疾患治療薬 |
815/2910 | A61P31 | 抗感染剤,例.抗菌剤,消毒剤,化学療法剤 |
732/2910 | A61P17 | 皮膚疾患の治療薬 |
712/2910 | A61P19 | 骨格系疾患の治療剤 |
670/2910 | A61P37 | 免疫またはアレルギー疾患の治療薬 |
666/2910 | A61P13 | 泌尿器系疾患の治療薬 |
627/2910 | A61P11 | 呼吸系疾患の治療薬 |
577/2910 | A61P27 | 感覚器系疾患の治療剤 |
499/2910 | A61P7 | 血液または細胞外液の疾患の治療薬 |
438/2910 | A61P15 | 生殖,性関連疾患の治療薬;避妊薬 |
369/2910 | A61P21 | 筋または神経筋系疾患の治療薬 |
314/2910 | A61P5 | 内分泌系疾患の治療薬 |
特許出願ですので、重複があると思いますが、抗腫瘍剤のプロドラッグが多い結果となりました。
③また、プロドラッグ化のタイプとして、化合物・反応に関するキーワードをA61P43/00,123に掛け合わせたところ【表3】のようになりました。
【表3】
キーワード(特許請求範囲) |
件数 |
エステル化 | 99 |
アルコキシカルボニルオキシ | 34 |
アルキル化 | 142 |
アシル化 | 77 |
カーバメート | 16 |
リン酸化 | 32 |
プロドラッグとしてはエステル化されている医薬品が多く見受けられますが、特許のキーワードとしてはアルキル化の方が多くヒットしました。
なお、全文検索で「エステル」「アルキル」をかけると、「エステル」は2949件、「アルキル」は2299件とややエステルが多い結果となりました。
③また、プロドラッグとしてよく知られている医薬品名をA61P43/00,123に掛け合わせたところ【表4】のようになりました。
【表4】
キーワード(特許請求範囲) |
件数 |
イリノテカン カンプトテシン | 121 |
フルオロウラシル テガフール | 112 |
シタラビン | 62 |
カペシタビン | 49 |
インドメタシン | 45 |
シンバスタチン | 39 |
バラシクロビル アシクロビル | 35 |
ロスバスタチン | 32 |
カンデサルタン | 30 |
フルルビプロフェン | 28 |
エナラプリル | 27 |
ピロキシカム | 26 |
プラデフォビル アデフォビル アデホビル | 21 |
ここでも、抗腫瘍剤のプロドラッグが多い結果となりました。
※いずれも簡易的な検索による件数確認に過ぎませんので、分類やキーワードを厳密に精査したうえでの検索結果とは異なります。
(日本アイアール株式会社 特許調査部 S・T)
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