【医薬品製剤入門】滑沢剤とは?機能・役割・種類などがこれで分かる![医薬品添加物の解説⑤]
「滑沢剤」(かったくざい)は、一般的にはあまり聞きなれない言葉と思われますが、錠剤を作るのに重要な役割を担っています。
今回のコラムでは、医薬品添加物の滑沢剤の基本知識について解説いたします。
目次
1.滑沢剤とは?
錠剤は、有効成分と賦形剤、結合剤等々の添加剤を機械的に圧縮(打錠)することによって作ります。
しかしながら、この過程において、圧縮装置に原料が付いたり、圧縮する力などによって錠剤の硬度が不足してしまい欠けてしまったりすることがあります。
これらを解消するために、「滑沢剤」という添加物が入れられます。
滑沢剤は、有効成分や添加剤と混合され打錠されたり(内部滑沢)、他の添加剤とは別に杵臼に噴霧する方法(外部滑沢)などもあります。
なお、錠剤のほか、カプセル剤に塗布され、カプセル同士の摩擦を減少させ、輸送による破損を防ぐカプセル潤滑剤として使われることもあります。
2.滑沢剤の機能・役割
滑沢剤の機能としては、
- 粉体間の付着力を弱め、粉体の流動性を高める
- 粉体の杵臼との摩擦を減少させる
- 粉体が打錠機(杵や臼)へ付着することを防ぐ[スティッキング防止(*)]
- 圧縮効率を高める
- 錠剤表面の光沢を向上させる
などが挙げられます。
すなわち、粉末や顆粒の流動性を改善し、圧縮成形時に滑りを良くし、スティッキング等の打錠障害を防ぐとともに、錠剤表面に光沢を与えるために配合されるものです。
*《スティッキングとは?》
錠剤の打錠工程におけるトラブルのひとつに「スティッキング」があります。
スティッキングとは、錠剤表面粒子と、杵表面との付着力に起因するもので、打錠機で錠剤を成形後、杵面に錠剤の一部が付着して剥がれる現象をいいます。
スティッキングを防止するには、滑沢剤を添加または増量すること、杵の洗浄、研磨のほか、打錠圧を上げて錠剤表面の粒子間の結合力を高める、粉体の乾燥などが挙げられます。
また、顆粒の粒度分布を粗くすることにより、錠剤表面の滑沢剤の割合を増加させることができ、スティッキングの防止につながります。
3.外部滑沢の特徴・メリット・用途
滑沢剤は、通常錠剤の原料となる粉末や顆粒に少量加えられますが(内部滑沢)、過剰添加は、硬度の低下や錠剤の崩壊・溶出時間の遅延をもたらす原因になると考えられているため、滑沢剤を粉体に添加しない「外部滑沢」が用いられます。
「外部滑沢」とは、滑沢剤の一部または全部を杵臼に噴霧して打錠を行う方法をいいます。
外部滑沢をすることにより、硬度が高く、崩壊性の良好な錠剤を製造することが可能となります。
外部潤沢は、滑沢剤を杵臼の表面に的確に噴霧することができることから、必要以上の滑沢剤を用いることなく、打錠することができます。
また、滑沢剤を錠剤の表面にのみ添加することができるため、有効成分等が滑沢剤と配合変化を起こしやすい製剤に向いているといえます。
さらに、外部滑沢法はキャッピング(*)の傾向が少ないとの報告もあります。
*《キャッピングとは?》
「キャッピング」とは、錠剤を打錠した後、臼から出す際に錠剤が帽子状に剥離・破損することをいいます。
錠剤と臼壁との摩擦力などによって発生します。
キャッピングを起こした錠剤は、外観が悪くなるだけでなく、有効成分量が保証できなくなってしまいます。
キャッピングは、錠剤硬度を高めることにより防止されますが、添加物組成、有効成分の粒径、造粒条件などの最適化が必要になります。
4.主な滑沢剤の種類と特徴
(1)ステアリン酸マグネシウム
ステアリン酸マグネシウムは、主としてステアリン酸及びパルミチン酸のマグネシウム塩であり、乾燥物換算したものはマグネシウム4.0~5.0%を含む金属石ケンの一種です。
性状としては、白色の軽くてかさ高い粉末で、においはないか、又はわずかに特異なにおいがあるとされています。
滑沢性、潤滑性及び付着防止性といった利点に加え、安全性において問題がないことが知られており、カプセル剤、錠剤などを中心として、医薬品分野において最も一般的に使用されています。
滑沢剤以外の用途としては、安定(化)剤、光沢化剤、コーティング剤、賦形剤、分散剤、防湿剤、流動化剤、基剤などがあります。
なかでも、強い撥水性を有する疎水性のステアリン酸マグネシウムを添加した場合、流動性が上がることが知られています。
最大使用量は、経口投与3g、一般外用剤40mg/g、経皮14.4mgなどとなっています。
(2)タルク
「タルク」とは、滑石という鉱石を微粉砕し、精製したもので、含水ケイ酸マグネシウム(3MgO・4SiO2・H2O)を主成分とする白色粉末です。
無機鉱物中、最も硬度が低く、耐熱性に優れ、しかも化学的に安定した物質で、板状結晶をしています。すべりのよい肌触りの粉末であり、古くからベビーパウダーやタルカムパウダーの主成分として用いられています。「蝋石」(ろう石)とも呼ばれています。
性状としては、白色~灰白色の微細な結晶性の粉末で、なめらかな触感があり、皮膚につきやすい、水又はエタノール(99.5)に殆ど溶けないとされています。
滑沢剤以外の用途としては、安定(化)剤、基剤、光沢化剤、コーティング剤、着色剤、糖衣剤、流動化剤、乳化剤、粘着増強剤、賦形剤、崩壊剤、防湿剤などがあります。
最大使用量は、経口投与 3384mg、一般外用剤 787mg/gなどとなっています。
なお、タルクには、ウロキナーゼ吸着による肌荒れ防止・抗炎症作用が認められたとの報告もあります。
(3)ステアリン酸カルシウム
ステアリン酸カルシウムは、主としてステアリン酸及びパルミチン酸のカルシウム塩の混合物であり、乾燥物はカルシウムを6.4 ~ 7.1%を含むとされています。
性状としては、白色の軽くてかさ高い粉末で、なめらかな触感があり、皮膚につきやすく、においはないか、又は僅かに特異なにおいがある、水、エタノール(95)又はジエチルエーテルに殆ど溶けないとされています。低水溶性で、粉末の流動性向上・固結防止等の機能を有しています。
滑沢剤以外の用途としては、結合剤、光沢化剤、コーティング剤、賦形剤、崩壊剤、流動化剤等があります。
最大使用量は、経口投与 1169.1mg、舌下適用8mgなどとなっています。
(4)ステアリン酸
ステアリン酸は、植物又は動物に由来する脂肪又は脂肪油から製した脂肪酸で、主としてステアリン酸及びパルミチン酸からなります。
性状としては、白色のろう状の塊、結晶性の塊又は粉末で、僅かに脂肪のにおいがある、エタノール(99.5)にやや溶けやすく、水に殆ど溶けないとされています。
滑沢剤以外の用途としては、安定(化)剤、基剤、矯味剤、結合剤、光沢化剤、コーティング剤、糖衣剤、乳化剤、賦形剤、分散剤、崩壊補助剤、防湿剤、流動化剤などがあります。
最大使用量は、経口投与 1200mg、一般外用剤275mg/g、舌下適用100mg/gなどとなっています。
(5)ラウリル硫酸ナトリウム
主としてラウリル硫酸ナトリウム(C12H25NaO4S)からなるアルキル硫酸ナトリウムで、水溶性の滑沢剤です。
性状は、白色~淡黄色の結晶又は粉末で、僅かに特異なにおいがある、メタノール又はエタノール(95)にやや溶けにくいとされています。
陰イオン性界面活性剤でもあり、「ドデシル硫酸ナトリウム」とも呼ばれているものです。
滑沢剤以外の用途としては、安定(化)剤、界面活性剤、可溶(化)剤、基剤、結合剤、光沢化剤、賦形剤、崩壊剤、乳化剤、発泡剤、分散剤、湿潤剤などです。
最大使用量は、経口投与 300mg、一般外用剤 20mg/gなどとなっています。
ラウリル硫酸ナトリウムを滑沢剤として使用した事例で、打錠時の摩擦を効果的に低下させた報告もされています。
(6)カルナウバロウ
カルナウバロウは、カルナウバヤシCopernicia cerifera Mart(Palmae)の葉から得た植物性固体ろうで、脂肪酸エステル、ヒドロキシカルボン酸などから構成されています。
性状としては、淡黄色~淡褐色の堅くてもろい塊又は白色~淡黄色の粉末で、僅かに特異なにおいがあり、味は殆どなく、水,エタノール(95)、ジエチルエーテル又はキシレンに殆ど溶けないとされています。
滑沢剤以外の用途としては、基材、懸濁剤、光沢化剤、コーティング剤、粘着増強剤、賦形剤などです。
最大使用量は、経口投与 960mgとなっています。
5.滑沢剤選択のポイントと注意点
滑沢剤は、スティキングなどの打錠障害を防止するために添加され、一般的には滑沢剤を増量することにより打錠障害を抑制することができることになります。
しかしながら、過剰添加は、錠剤硬度の低下や崩壊時間の延長、溶出の遅延など製剤物性に望ましくない影響を及ぼす場合があることも知られています。
滑沢剤を変えたり、添加量や混合条件や外部滑沢の選択など、打錠障害の発生状況により使い分けが必要となります。
また、滑沢剤は、製造されるバッチごとに性質が変動することも知られており、杵臼の状態も影響してくるとされていますので、注意が必要となります。
6.滑沢剤に関する特許・文献を検索してみると?
(※下記のヒット件数は、2020年7月時点における検索結果です。)
(1)滑沢剤に関する特許検索
j-Platpatを用いて、滑沢剤に関する日本の特許を調査してみました。
- 請求範囲検索: [滑沢剤/CL] → 1994件
- [滑沢剤/CL]*[A61K/FI] → 1767件
この 件の内容をざっとみたところ、錠剤の製法など医薬品製剤の特許が多数見られました。
滑沢剤にはFターム4C076FF09があります。
- Fターム検索: 4C076FF09 → 2389件
なお、Fタームに[4C076FF07・・団結防止、付着防止剤]があり、実際の調査ではこちらも考慮したほうが良い場合も考えられます。
《年代別グラフ》
Fターム検索で得られた2389件を年代別グラフにしてみると次のようになりました。
《滑沢剤の特許出願傾向》
また分野別にみてみると、やはり医薬分野の分類であるA61が圧倒的に多い結果となりました。
分野(FI) | 件数 |
A61(医学または獣医学;衛生学) | 2389 |
C07(有機化学) | 294 |
A23(食品または食料品) | 136 |
C12(生化学 など) | 59 |
B01(物理的または化学的方法または装置一般) | 39 |
C08(有機高分子化合物;その製造または化学的加工 など) | 35 |
《滑沢剤別の特許出願状況》
上記の滑沢剤が請求範囲に記載されている特許を調べてみました。
- ステアリン酸マグネシウム
- タルク
- ステアリン酸カルシウム
- ステアリン酸
(上記テアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウムを含むと考えられます)
- ラウリル硫酸ナトリウム
- カルナウバロウ
(2)滑沢剤に関する文献検索
特許検索に続いて、J-STAGEを用いた文献調査も行ってみました。
- 全文検索: 滑沢剤 ⇒ 351件
- 全文検索: 滑沢剤 * ステアリン酸マグネシウム ⇒ 123件
- 全文検索: 滑沢剤 * タルク ⇒ 57件
- 全文検索: 滑沢剤 * ステアリン酸カルシウム ⇒ 19件
- 全文検索: 滑沢剤 * ラウリル硫酸ナトリウム ⇒ 17件
種々の滑沢剤の効果や特性、メカニズムに関する文献などが多く見受けられました。
各検索結果に含まれる特許公報や文献の内容を確認してみたい方は、是非ご自身で実際に検索してみましょう!
(日本アイアール株式会社 特許調査部 S・T)