【医薬品製剤入門】賦形剤とは?主な種類と選択のポイント[医薬品添加物の解説①]

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医薬品添加物1
 
医薬品には、医薬品原薬の他に「添加剤」と呼ばれるものが入れられています。

第17改正日本薬局方の製剤総則には、「添加剤は、製剤に含まれる有効成分以外の物質で、有効成分及び製剤の有用性を高める、製剤化を容易にする、品質の安定化を図る、又は使用性を向上させるなどの目的で用いられる.」と記載されています。
そして、添加剤には、その用途により、賦形剤、安定剤、保存剤、緩衝剤、矯味剤、懸濁化剤、乳化剤など種々のものがあります。

今回は、添加剤の中で最も多くの量が使われる「賦形剤」について取り上げてみました。

1.賦形剤とは

「賦形剤」は、固形製剤の製造においては、服用しやすい大きさの製剤を造ることを目的に使用されます。
多くの場合、医薬品の有効成分は一回の投与量が少なく、極微量(中にはマイクログラム単位のものもあります)であることから、有効成分そのものだけでは取り扱いが困難になってしまいます。
そこで、添加剤を加えて希釈することにより、取り扱いが容易な量(嵩や質量)にします。
この添加剤を「賦形剤」といいます。

 

2.賦形剤の要件

賦形剤は、上述のように製剤に容量や重量を増す目的で使われるのですが、賦形剤の要件とされているものとしては、

  • 薬理作用を持たないこと
  • 安全性が高いこと
  • 有効成分と反応しないこと
  • 品質が一定であること
  • 比較的安価であること
  • 入手が安定していること 等々

が挙げられ、有効成分の治療効果を妨げ、または、製造や製品等に支障をきたさないことが必要になります。

 

3.主な賦形剤

賦形剤としては、一般的には、乳糖、結晶セルロース、トウモロコシデンプンが用いられることが多く、汎用性の高い賦形剤といえるようです。

以下、賦形剤として使用されるものの代表例を取り上げてみます。

(1)乳糖水和物

乳糖水和物

乳糖水和物(単に、乳糖)は、ガラクトースグルコースによる二糖類で、白色~灰白色の結晶性の粒子、粉末です。無臭、わずかに甘味があります。
最大使用量は経口投与では適量とされています。配合量としては、通常5~60%で用いられます。
賦形剤の他、安定(化)剤、滑沢剤、甘味剤、矯味剤、結合剤、懸濁(化)剤、コーティング剤、糖衣剤、等張化剤、分散剤、崩壊剤、崩壊補助剤などとしても使用されます。

「日本薬局方解説書」を見ると、乳糖にはα型、β型の結晶多形が存在し、それぞれの水和物も記載されています。特に、α-1水和物とβ-無水物は、吸湿特性など特性が異なります。

また、乳糖には種々のグレードがあり、一般的には、

  • 結晶乳糖は、粒子径が大きく、流動性が良好で、散剤やカプセル剤に用いられ、
  • 微粉乳糖は、湿式造粒に適しており、
  • 造粒乳糖は、流動性が良好、圧縮成形性があることから直接打錠の錠剤に適している、

とされています。

ただし、乳糖は還元性末端を有しているため、医薬品がアミノ基を有する場合やアルカリ存在下では継時的に着色する場合がありますので注意が必要です。
 

(2)結晶セルロース

結晶セルロース

植物の細胞膜の主成分であるセルロースを酸で部分的に加水分解・精製したものです。
白色の粉末状で、水に溶けず、味はありません。
微小なセルロース結晶が集合した粒子状になっています。

最大使用量は経口投与で 3.7gです。
賦形剤の他、滑沢剤、結合剤、懸濁化剤、コーティング剤、崩壊剤、流動化剤等としても使用されます。

結晶セルロースは、圧縮成形性に優れ、直接打錠による錠剤に多く用いられています。
また、保水性があり、湿式造粒にも用いられます。
化学的安定性が高く、流動性や崩壊性が良好で、散剤やカプセル剤にも適しているとされています。

粒度、粒子形状、嵩密度などによるグレードがあり、必要に応じて選択されます。
直接打錠処方において、流動性不足の場合は、造粒乳糖や高流動性結晶セルロースを使用すると流動性が良好となる場合があります。
また、成形性不足の場合は、高成形性結晶セルロースを使用すると成形性が良好となる場合があるようです。
 

(3)トウモロコシデンプン

トウモロコシを原料にとした純度の高いデンプン(コーンスターチ)をいいます。
白色、無臭で、水またはエタノールにほとんど溶けない、化学的安定性が高く、崩壊性が比較的良好で、安価であるという利点があります。

最大使用量は経口投与で 19gです。配合量としては、通常5~30%です。トウモロコシデンプンの粒径は6~25μmでよくそろっている特徴があります。

流動性、圧縮成形性が低いため、湿式造粒で使用されることが多いようです。
崩壊剤としても使用されることがありますが、その作用は緩和なものとされています。
崩壊剤の他、滑沢剤、結合剤、分散剤、賦形剤、流動化剤、コーテイング剤などとしても使用されます。
 

(4)マンニトール

マンニトール

「マンニット」とも呼ばれ、穏やかな甘味と水溶性があることから、チュワブル錠や口腔内崩壊錠(OD錠)の賦形剤として使用されることが多くあります。
吸湿性が低く、化学的安定性が高いという特性があります。
乳糖よりも医薬品との配合性や吸湿特性などに優れているとされています。

一方で、マンニトールは成形性が好ましくなく、打錠障害を起こしやすい傾向があり、乳糖や結晶セルロースなどに比べて使用されることは少ないようです。

マンニトールにはα、βおよびδ型の3つの結晶多形の存在が確認されていますが、流動性や成形性に差はないとされています。

タンパク凍結乾燥製剤においては、マンニトールの濃度等により、得られる凍結乾燥物中のマンニトールの結晶性が異なり、保存時のタンパクの安定性に大きく影響するとの報告もされています。
 

(5)バレイショデンプン

ジャガイモを原料としたデンプンで、料理に用いる片栗粉です。
デンプンの中でも粒径が大きいこと、保水性が高いことが特徴です。
医薬品製剤としては、トウモロコシデンプン等に比べて使用される頻度は少ないようです。

 

4.賦形剤選択のポイント

上述の賦形剤の要件、すなわち、薬理作用を持たないこと、安全性が高いこと等々であることをクリアした上で、薬物の性質と製剤技術を考慮して、製剤設計に適した賦形剤を選ぶ必要があります。
 

(1)製品上の選択

医薬品は、厚生労働省の「安定性試験ガイドライン」に基づいて、医薬品の製造承認申請の際に、厚生労働省に資料を提出する必要があります。
安定性は、温度、湿度、光等の様々な環境下で製品の経時的変化がないものにしなければならず、賦形剤も有効成分の物理、化学的安定性及び特性を損なわないものを選択しなければなりません。
また、有効成分と混合したときに、混合均一性である製剤品になることも重要です。
 

(2)製造上の選択

賦形剤は、医薬品を製造する上でも、良好な性状を有するものを選ぶ必要があります。
製造上の性状としては、例えば、流動性、造粒性、圧縮成形性などが挙げられます。
通常は、これらのバランスを取りながら複数の賦形剤が使用されますが、他の添加剤との相性なども加味して検討する必要があります。

製剤化検討については、多くの先例が文献で報告されており、特許公報の内容も参考にできる場合がありますので、類似する有効成分や剤形についての文献や特許の調査を事前に行うことも製剤設計には有用です。
 

(3)特許上の選択

新規な賦形剤(添加物)に限らず、既存の賦形剤(添加物)でも配合比率を限定したりするなど医薬品添加物の特許は数多く存在します。
中でも、特定の医薬品との組み合わせや製剤製法には特に注意する必要があり、特許を考慮した医薬品製剤の設計をしなければなりません。
事前に特許調査を行い、他社特許に抵触しない賦形剤(添加物)を選択するようにします。

 

5.賦形剤に関する特許調査をしてみると?

j-Platpatを用いて「賦形剤」の特許を簡易的に調査してみました。
(※いずれも2020年7月時点での検索結果です)

  • キーワード検索: [賦形剤/CL] → 36325件
  • [賦形剤/CL]*[A61K/FI]  → 34674件

この件の内容をざっとみたところ、各種医薬品製剤の特許が多数見られました。

また、「賦形剤」には、そのもののFターム「4C076FF04」があります。

  • Fターム検索: 4C076FF04 → 4588件

このうち、化粧品関連(A61K8/00)や歯科用製剤(A61K8/00)等を除いた医薬品製剤(A61K9/00)に限定すると、以下の件数となりました。

  • [4C076FF04/FT]*[A61K9/00/FI] → 3948件

これを公知年別に件数を見てみると次のようになります。
 

《年代別グラフ(2000年以降)》

年代別グラフ

分野別にみてみると、やはり医薬分野が多い結果となりました。

分野(FI) 件数
A61 2819
C07 370
A23 219
C12 112
C08 71
B01 38

 

《賦形剤別の出願件数》

上記の賦形剤が請求範囲に記載されている特許を調べてみました。

  • 乳糖水和物
[4C076FF04/FT]*[A61K9/00/FI]*[乳糖/Cl] ⇒ 322件
[4C076FF04/FT]*[乳糖/Cl] ⇒ 339件

  • 結晶セルロース
[4C076FF04/FT]*[A61K9/00/FI]*[結晶セルロース/Cl] ⇒ 482件
[4C076FF04/FT] *[結晶セルロース/Cl] ⇒ 512件

  • トウモロコシデンプン
[4C076FF04/FT]*[A61K9/00/FI]*[トウモロコシデンプン/Cl] ⇒ 117件

  • マンニトール
[4C076FF04/FT]*[A61K9/00/FI]*[マンニトール/Cl] ⇒ 764件

  • バレイショデンプン
[4C076FF04/FT]*[A61K9/00/FI]*[バレイショデンプン/Cl] ⇒ 20件

 

6.賦形剤に関する文献を検索してみると?

続いて、文献データベース”J-STAGE”を用いて、文献の調査を行ってみました。

  • 全文検索: 賦形剤 ⇒ 1398件
  • 全文検索: 賦形剤 * 医薬 ⇒ 773件
  • 全文検索: 賦形剤 * 乳糖 ⇒ 433件
  • 全文検索: 賦形剤 * 結晶セルロース ⇒ 117件
  • 全文検索: 賦形剤 * トウモロコシデンプン ⇒ 51件
  • 全文検索: 賦形剤 * マンニトール ⇒ 96件
  • 全文検索: 賦形剤 * バレイショデンプン ⇒ 43件

賦形剤の特許・文献は多数ありますので、調査の目的によっては更に絞り込みをしていく必要があると思われます。

 
(日本アイアール株式会社 特許調査部 S・T)
 

医薬系の特許調査なら日本アイアール

 

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