【機械設計マスターへの道】クリープ現象と低温脆性がこれでわかる!知っておきたい金属材料特性の基本

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今回は、高温域または低温域で使用される機械や機器を設計する際に、注意する必要のある材料特性についてお話しします。

1.クリープとは?

金属材料にある応力σが作用するとき、材料の応力‐ひずみ特性に応じたひずみεが発生します。
通常は、応力σを一定値に保持すれば、ひずみεも材料の横弾性係数(ヤング率)と応力から決まる値に留まって、材料の変形は進行しないと考えることができます。
ところが、ある温度以上になると、時間の経過とともにひずみが増大して、ときには破断に至る現象が発生することがあります。

このように、ある一定の温度条件下において一定の荷重(応力)が作用するとき、時間とともに変形(ひずみ)が増大する現象を「クリープ」(creep)といいます。
 

クリープの進行(時間の経過)とひずみの変化

クリープによるひずみ増大を模式的に示すと図1のようになります。

応力値が大きいほど、ひずみとその増加速度が大きくなり、破断に至るまでの時間(寿命)が短くなります。(曲線C)
応力値は一定として、温度が異なる場合にも、図と似たような特性となって、温度が高いほどクリープ現象が顕著に表れるようになります。

クリープ変形は、曲線Aに示すように、クリープ速度=ひずみの時間的変化率(dε/dt)の大きさによって、第1期(遷移クリープ)、第2期(定常クリープ)、第3期(加速クリープ)に分類されます。

第1期の遷移クリープにおいて、ひずみは急激に増加しますが、やがて増加速度が徐々に減少し、第2期の定常クリープでは、ひずみはほぼ一定の速度(最小クリープ速度)で増加するようになります。
第3期の加速クリープに入ると、クリープ速度は加速され、ついには破断に至るようになります。
ただし長期間の使用によって材料内部組織の劣化も生じるので、実際の変形進行は、図のように単純にはなりません。
 
また応力(荷重)あるいは温度が低い場合は、図1の曲線Bのようにひずみは増加せずに、時間の経過に対して水平になります。時間経過に対してひずみ増加が発生しない最大応力を「クリープ限界」といいます。
 
クリープ限界
 

クリープ破断と材料選択

材料が、クリープ変形の進行と材質劣化によって最終的に破断する現象を「クリープ破断」(または「クリープラプチャ」)といいます。
 
クリープが発生するような温度で使用される機器の許容応力は、各種材料に対して複数の温度条件における、応力と破断時間との関係を表したクリープ破断曲線をもとに、選定されます。

一般的な炭素鋼の使用限界温度は350℃で、それ以上の高温域では耐クリープ性を考慮した材料を使用する必要があります。

溶質元素の添加による固溶強化、炭化物や金属間化合物による析出強化、高融点金属の添加による拡散抑制強化などによって、耐クリープ性を向上させた耐熱鋼や耐熱合金が多数開発実用化されています。
Mo鋼、Cr-Mo鋼などの低合金鋼、Cr16%以上の高クロム鋼、オーステナイト系耐熱鋼(高Cr-高Ni)、Fe基、Ni基、Co基など耐熱合金があります。

 

2.金属材料と低温脆性

一般に、鉄鋼材料の引張強さ、降伏点は温度が下がるとともに増大します。
しかし、伸び、絞り、衝撃値は、温度低下とともに減少して、ある温度以下では塑性変形することができなくなって、極めて脆くなります。
この現象を「低温脆性」(Cold Brittleness)といいます。

低温脆性の性質を持つ材料で、切り欠きのような応力集中部やき裂(ノッチ)があると、構造上の塑性変形の拘束の影響も関係して、脆性破壊を生じる可能性があります。
低温脆性は、材料の結晶構造が体心立方格子(bcc)であるか、面心立方格子(fcc)であるかによって異なってきます。

面心立方格子(fcc)の場合は、比較的大きなすべり、すなわち塑性変形が起こりやすいため、低温域でも良好な靭性を有します。オーステナイト系ステンレス鋼や、アルミおよびアルミ合金が該当します。

炭素鋼やマルテンサイト系ステンレス鋼など体心立方格子構造(bcc)の材料で、温度を下げたときに、吸収エネルギーもしくは延性破面率が延性から脆性へ50%変化する温度を「遷移温度」といいます。
 

シャルピー衝撃試験とは?

金属材料の靭性を評価する試験として代表的なものに、シャルピー衝撃試験があります。
これは、Vノッチを有する試験片に衝撃力を加えたときに、試験片で吸収される衝撃エネルギーと、破断面に現れる、延性破壊、脆性破壊、特有の破面の比率により、金属材料の靭性を評価するものです。
様々な温度で衝撃試験を行うことにより、低温脆性を評価し遷移温度を把握することができます。

図2に、シャルピー衝撃試験結果のグラフを模式的に示します。
 
エネルギー遷移温度をTrE破面遷移温度をTrs50と表します。
 
低温脆性
 
吸収エネルギーを高める、あるいは遷移温度を下げるための工夫として、炭素(C)量の低減、焼きならし熱処理、アルミ(Al)添加による結晶粒の微細化、ニッケル(Ni)添加によるフェライト地の靭性改善、などが行われます。
 

《シャルピー衝撃試験が普及した意外な契機とは?》

なお、シャルピー衝撃試験は、第2次世界大戦中に多発した米国のリバティ船の沈没事故を契機として普及したといわれています。
溶接不良や構造上の応力集中が一次的原因と考えられましたが、低温の北洋で沈没が多発したことから、低温脆性を考慮する必要があることが着目されました。当時の船体材料の遷移温度は20℃程度と高く、遷移温度を下げる材料開発もこの事故を契機に進んだようです。

 
(日本アイアール株式会社 特許調査部 S・Y)
 

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