歯車の強度計算|接線荷重・ルイスの式・ヘルツ接触応力を解説 [歯車設計の基礎③]

歯車設計に関する連載の第1回・第2回において、歯車の種類や用語、インボリュート歯形などの基礎的事項について解説してきました。
歯車を実際に設計する際には、与えられた仕様条件に対して十分な強度を有しているかを確認する必要があります。そして、強度計算を行う上での基となるのが、歯面に作用する接線荷重です。
今回は、接線荷重はどこから来るのか、接線荷重を用いて曲げ強さ・歯面強さをどう評価するのかを計算式と具体例を交えて整理します。
1.歯面に作用する荷重
(1)歯車の歯にはどのような力が作用するか
一対の歯車がかみ合って回転するとき、歯と歯は単にピッチ点で接触しているのではなく、トルクによって生じる力を歯面間で伝達しています。歯には図1に示すようにピッチ円の接線方向に接線荷重Ftが作用します。
強度設計では、この接線荷重Ftを基準として評価します。Ftは、歯を曲げる力、あるいは歯面を押し付ける力として作用します。

【図1 歯の断面と接線荷重】
実際に歯面間で伝達される力は、作用線方向の荷重、すなわち法線荷重Fnとして作用します。
一方、歯車の強度計算では、この力をピッチ円接線方向の成分である接線荷重Ftに置き換えて扱うのが一般的です。
作用線とピッチ円の接線方向とがなす角度を「圧力角」といいます。
(2)トルクと回転速度から接線荷重Ftを求める
歯車の設計条件として与えられる重要な値は次の2つです。
- 伝達トルクT[N·mm]
- 回転速度n[min-1]
歯車のピッチ円直径をd[mm]とすると、接線荷重Ftは次式で求めることができます。
T: 歯車に作用するトルク [N·mm]
d: ピッチ円直径 [mm]
なお、回転速度nは、Ftの算出式には直接現れませんが、周速度を通じて、後述する速度係数を決める重要な条件になります。
(3)接線荷重Ftの具体例
例として、次の条件を考えます。
伝達トルク: T=100[N·m]=1.0×105N·mm
ピッチ円直径: d=200mm
2.歯元曲げ強さとルイスの式
(1)ルイスの曲げ強さ式
歯元曲げ強さは、歯を片持ち梁とみなして、上記図1に示す歯の根元にある、曲げ応力が最も大きくなりやすい断面、すなわち危険断面に発生する曲げ応力で評価します。簡易的な強度評価では、安全側の考え方として、1枚の歯が荷重を受け持つものとして評価します。
歯元断面の曲げ応力を求める代表的な式が、下記に示す「ルイスの式」です。
- σb: 歯元曲げ応力[N/mm2]
- Ft: 接線荷重[N]
- b: 歯幅[mm]
- m: モジュール[mm]
- Y: 歯形係数
- Kv: 速度係数
- Ks: 衝撃係数
(※曲げ応力の解説は「応力とは?引張応力/圧縮応力/せん断応力/曲げ応力の概要と求め方」を参照)
(2)各係数の意味と代表値
① 歯形係数 Y
歯形係数は、歯数、圧力角、歯形によって決まる係数です。
例えば、圧力角α=20° の平歯車で、歯数が20の場合、Yは0.3程度の値になります。
歯数が少ないほどYは小さくなり、曲げ応力は大きくなります。
② 速度係数 Kv
回転速度 n が大きくなると、歯車の加工精度や組付け精度、周速度などに起因する動荷重の影響が大きくなります。歯車の精度等級とピッチ円上の周速度によって係数は変化します。
歯車精度が低いほど、あるいは周速度が速いほど、速度係数は大きくなり、その分だけ曲げ応力が高くなります。
例えば、一般的な機械装置用の歯車において、一定の歯車精度が確保され、周速度が8m/sを超え12m/s以下となる中速度域では、Kvは一般的に1.2程度の値として扱われます。
回転速度によって加わる動荷重の影響を考慮した係数であることから、動荷重係数と呼ぶ場合もあります。
③ 衝撃係数 Ks
負荷のかかり方を考慮した係数です。
- 滑らかな連続運転: Ks=1.0
- 軽い衝撃を考慮する場合: Ks=1.25
- 衝撃負荷を考慮する場合: Ks=1.5
など、用途によって選定します。
(3)曲げ応力の計算例
先ほどの Ft = 1000 N を用い、次の条件を仮定します。
- モジュール: m=4
- 歯幅: b=40mm
- 歯形係数: Y=0.30
- 速度係数:Kv=1.2
- 衝撃係数: Ks=1.25
これらの値を(1)式に代入して
この値を、歯車の使用する材料の許容曲げ応力と比較して安全性を判断します。
3.歯面強さ(面圧)とヘルツ接触応力
(1)歯面強さと面圧
歯面強さ(面圧)の評価は、歯と歯が接触する部分に生じる接触応力(圧縮応力)が、歯車材料の許容面圧の範囲内に収まっているかを確認することが目的です。
歯車の歯面は、理想的には歯幅方向の線で接触しているように扱われますが、実際には歯面の弾性変形により、接触線の周辺にごく狭い接触領域が生じます。

【図2 歯のかみあいと接触応力】
この接触領域に発生する接触応力σcを理論的に扱うものが、ヘルツの接触応力理論です。
歯面の接触応力は、ヘルツ理論を基にして整理された次式を用いて、簡易的に計算することができます。
- σc:歯面接触応力(面圧)[MPa]
- Ft:歯面に対する接線荷重[N]
- b:歯幅[mm]
- d:ピッチ円直径[mm]
- u:減速比(従動歯車の歯数/駆動歯車の歯数)
- ZH:領域係数(=
圧力角α=20°のときZH=2.495)
領域係数は、圧力角など歯車の幾何条件が接触応力に及ぼす影響を補正する係数です。 - ZE:材料係数 [
]
材料係数ZEは、歯車材料の縦弾性係数(ヤング率)とポアソン比に依存する係数であり、SNC、SNCM、SCMなどの鋼を用いた歯車同士がかみ合う場合は、一般的に190 [
]程度の値になります。
式(2)から分かるように、歯面接触応力は接線荷重の平方根に比例し、歯幅bやピッチ円直径dが大きいほど低下します。
(2)面圧の計算例
荷重、歯幅、ピッチ円直径、速度係数、衝撃係数は、曲げ応力の計算例と同じ条件とします。
- Ft=1000[N]
- b=40[mm]
- d=200[mm]
- u=2.0
- 領域係数ZH=2.5
- 材料係数ZE=190[
](鋼同士の歯車かみ合いの場合の代表値) - Kv=1.2
- Ks=1.25
これらの値を(2)式に代入して
この値を歯車材料の許容面圧と比較して評価します。
ヘルツ理論では、2つの弾性体が接触する際の最大接触応力は、接触荷重、接触形状(曲率半径)、材料の弾性特性によって決まることが示されています。
材料の弾性に関わる特性を整理し、歯車設計で扱いやすい形にまとめたものが、上記の材料係数ZEを用いた簡易計算式(2)です。
なお、ISO や JGMA などの規格では、さらに詳細な各種係数を用いた実用的な計算方法が定められています。
(2)式を用いて面圧値の見積を行ったうえで、より厳密な強度確認が必要な場合は、これらの規格に基づく実用計算式で確認する必要があります。
(3)歯車に使用する鋼種について
歯車に用いられる代表的な構造用鋼としては、次のようなものがあります。
- SNC系鋼(ニッケルクロム鋼)
- SNCM系鋼(ニッケルクロムモリブデン鋼)
- SCM系鋼(クロムモリブデン鋼)
これらの鋼種はいずれも、ヤング率やポアソン比が近いため、弾性特性の観点では大きな差はありません。そのため、SNC、SNCM、SCM といった鋼同士のかみ合いでは、材料係数ZEの値もほぼ同じ範囲(180~190 [
])に収まります。
上記の代表的な歯車用鋼では、ヤング率E
205~210[GPa]、ポアソン比:ν
0.28~0.30という値を持ち、これらをヘルツ接触応力理論に基づいて整理すると、平歯車で、かつ鋼同士がかみ合う場合には、上記程度の値が得られます。
一方で、これらの鋼種の違いは、熱処理性や表面処理のしやすさ、あるいは耐ピッチング性など歯面の耐摩耗性・耐食性を考慮する際に重要となります。
(4)設計上の意味づけ
このように歯面強さ設計では、接線荷重Ftの算出、歯幅やピッチ円直径などの諸元設定、材料・熱処理方法・表面処理方法の選定を総合的に考慮する必要があります。そのうえで、材料の弾性特性を反映したヘルツ理論由来の材料係数ZEの意味を理解し、面圧を評価することが重要です。
歯車設計では「曲げ強度は十分余裕があるが、歯面寿命が不足する」ことがあります。
面圧の計算結果は、材料の許容面圧と比較して、摩耗やピッチング(歯面に繰返し接触応力が作用することで、表面に小さなくぼみや剥離が生じる現象)などの表面損傷が発生しないかどうかを判断するために用いられます。
歯面強さの評価は、材料選定や熱処理条件を判断するための基礎とも位置づけることができます。
4.JGMA 401-01 とルイスの式の関係
(1)JGMA 401-01 とは
JGMAでは、歯車の曲げ強さや歯面強さを評価するための各種規格が整備されています。
JGMA 401-01 は、そのうち歯元曲げ強さの計算に関する代表的な規格の一つです。
使用条件、荷重条件、信頼性を体系的に考慮できるよう整理されています。
(2)ルイスの式との位置づけの違い
ルイスの式は、歯元曲げ強さを簡易的に評価するための基本式であり、概算設計や初期検討に適した方法です。歯を片持ち梁として単純化して扱うため、接線荷重や歯幅、モジュール、歯形係数などの主要な条件から、歯元に発生する曲げ応力を把握することができます。
一方、JGMA 401-01 では、ルイスの式よりも実使用条件を反映した形で歯元曲げ強さを評価します。たとえば、負荷のかかり方、運転条件、歯車の使用環境、安全率などを考慮して、より実務的な強度確認を行うことができます。
したがって実務では、まずルイスの式を用いて基本的な強度の見当をつけ、使用条件や要求される信頼性に応じて、JGMA 401-01 などの規格に基づく計算式で詳細な確認を行う、という使い分けが一般的です。
5.強度計算は「設計意図を説明するためのもの」
ここまで見てきたように、各種係数を選定する際には、必ず設計者の判断が入ります。したがって歯車の強度計算は、「なぜこの歯車でよいのか」を説明するための裏付けとして捉えることが重要です。
次回は、強度上は問題がなくても発生することがある、歯車の騒音・振動について、その設計上の要因を整理します。
(日本アイアール株式会社 特許調査部 S・Y)


































