熱重量測定(TG,TGA)の基本がわかる!原理・装置・TG曲線などをやさしく解説

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熱重量分析の解説(TG,TGA)

材料や化合物の熱的挙動を明らかにするためには、熱分析が欠かせません。その中でも、物質が加熱される際に質量がどのように変化するかを高精度で測定できる手法が熱重量測定(熱重量分析)と言われます。
本記事では、熱重量測定の原理や測定できる対象、使用する装置の仕組みなどの基礎知識を解説します。

1.熱重量測定とは

熱重量測定」とは、材料を温度制御下において加熱・冷却・保持しながら、時間や温度に対する質量変化を連続的に測定する熱分析法の一つです。一般的には「TG(Thermogravimetry)」や「TGA(Thermogravimetric Analysis)」と略されます。(以下では「TG」とします。)

この手法は、物質が加熱によって揮発、分解、酸化、還元といった化学反応を起こす際の「重量変化」に注目し、熱安定性や成分の定量評価、反応挙動の解析を行います。単なる温度変化だけでなく、「どのような機構で重量が変化したか」を知る手がかりになるため、材料開発、品質管理、環境分析、製薬など多くの分野で活用されています。

 

2.TGの測定原理・仕組み

熱重量測定の基本的な原理は、「高精度の天秤上に試料を乗せ、一定のプログラムで温度変化させながら質量の変化を記録する」というシンプルなものです。

TG装置は、天秤機構と加熱炉を組み合わせた装置です。試料を加熱炉に吊り下げ、重量変化を検知して記録します。装置には主な仕組みは以下の4つがあります。

  1. 試料の配置
    微量(数mg程度)の試料を白金製などの耐熱性の高いるつぼに入れ、熱天秤の上に設置します。
  2. 温度制御
    炉内で試料に一定の加熱速度(例:10℃/分)で温度を与えます。加熱範囲は室温から1000℃以上に及ぶこともあります。
  3. 質量の測定
    天秤はマイクログラム単位の質量変化をリアルタイムで記録します。反応や物質の揮発による質量減少、あるいは酸化などによる質量増加がグラフ化されます。
  4. 大気制御
    測定雰囲気も制御可能です。空気、窒素、酸素、ヘリウムなどのガスを導入し、酸化・還元などの条件を再現します。

このようにして得られる「TG曲線」は、横軸が温度または時間、縦軸が重量の変化(%)を示すグラフであり、試料の熱分解温度、熱分解の段階、熱分解の生成物、酸化開始温度などを知ることができます。

 

3.熱重量測定装置の構成

熱重量測定装置は、極めて高精度な測定と安定した温度制御が求められるため、各構成要素に工夫が施されています。

 

【表1 主な構成】

構成部品 説明
熱天秤
(バランスユニット)
μg単位の質量変化を検出。外部振動や温度変化に強い設計。
(ファーネス) 高温加熱を行う装置。均一加熱と急速昇温が可能。
ガス導入系 大気制御のために、惰性ガスや酸化性ガスなどを自動制御で供給。
制御ユニット 加熱プログラム、データ取得、解析ソフトウェアとの連携を担う。

 

4.測定結果(TG曲線)の読み方と解析のポイント

熱重量曲線(TG曲線)からは、以下の情報を抽出することができます。

  • 分解開始温度: 分解反応が始まる最小温度
  • 分解終了温度: 反応が終了した温度
  • 質量減少量(%): 成分の含有率や反応の進行度を反映
  • 段階的な質量変化: 反応機構の複雑性や多段階性を示唆

 

5.TG同時熱分析装置

近年の装置では、同時熱分析機能が搭載され、熱重量変化とともに吸熱・発熱、質量変化などの情報も同時に取得できるようになっています。これにより、反応の理解がより深まり、研究や開発への応用範囲が広がっています。

 

TG-DTA

TG-DTA(Thermogravimetry–Differential Thermal Analysis)は、熱重量測定(TG)と差熱分析(DTA)を同時に行う熱分析手法です。これにより、試料の重量変化と吸熱・発熱反応の双方を同一条件下で取得できます。

[※関連記事:示差熱分析(DTA)の基礎知識

DTAは、試料と参照物質の温度差を計測することで、吸熱反応(融解、蒸発)や発熱反応(結晶化、酸化)を検出できます。TGでは試料加熱時の熱分解、酸化、還元、脱水などの重量変化、DTAおよびDSCでは吸熱・発熱反応から融解、ガラス転移、結晶化などの情報を得ることができます。

TG-DTAでは、たとえば以下のような複合情報が得られます。

  • 質量減少と同時に発熱ピーク → 分解反応による発熱
  • 吸熱ピークがあるが質量変化なし → 融解やガラス転移など物理的変化
  • TGで質量減少、DTAで吸熱 → 蒸発や昇華反応

このように、質量変化の原因となる熱反応の特性を把握できるため、材料の性質をより精密に評価できます。
TG-DTA装置は、多くの場合、装置内部にDTAセンサーが組み込まれており、ユーザーの操作負担も少なく、信頼性の高いデータ取得が可能です。

 

TG-DTA-MS

熱重量測定と質量分析装置(示差熱分析装置)が連結された装置です。試料加熱に伴う重量変化(TG)、示差熱(DTA)の測定と同時に、試料から発生するガス成分の質量分析(MS)が可能となります。

[※関連記事:質量分析器を用いた分析(主な種類と原理)

 

6.TGで測定できるもの

熱重量測定によって測定・解析可能な対象は多岐にわたります。代表的な用途を以下に示します。

 

(1)熱分解挙動の解析

高分子材料や有機化合物がどの温度で分解を始め、どのような機構で段階的に質量を失うかを明らかにします。たとえば、ポリ塩化ビニル(PVC)の脱塩素反応などを解析可能です。

 

(2)含有水分・揮発成分の評価

食品、医薬品、化粧品などに含まれる水分や揮発性成分の量を測定できます。乾燥過程や保存条件による変化の影響も確認可能です。

 

(3)無機物の酸化・還元挙動

金属粉末やセラミックスなどの材料が加熱により酸化・還元される反応を追跡し、熱的安定性や反応速度を解析します。

 

(4)複合材料の組成分析

複数成分からなる材料(例:充填剤入り樹脂)のうち、各成分が加熱によりどの温度帯で分解・燃焼するかを分析し、含有量を算出します。

 

(5)反応のキネティクス解析

熱重量測定データを用いて、分解反応や昇華・脱水などの速度論的パラメータ(活性化エネルギーなど)を求めることも可能です。

また、熱重量分析は熱安定性評価にも使用できます。ある温度範囲で、もし熱的に安定であれば、重量変化は観測されません。測定チャートに勾配がほとんどないか、全く無い場合は、重量減少は無視できるとみなされます。

このように熱重量分析は幅広い材料へ応用できます。

 

7.まとめ

熱重量測定は、物質の熱的安定性や反応性、含有成分の定量評価に極めて有効な分析手法です。その原理はシンプルでありながら、装置の高精度性と多機能性によって、さまざまな分野での応用が可能となっています。
とりわけ、複合材料や新素材の開発、品質管理、化学反応の設計など、研究開発の現場において、今後も熱重量測定の果たす役割は拡大していくものと考えられます。

 

(日本アイアール株式会社 特許調査部 H・L)

 

 

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