3分でわかる エンドトキシンとは?検出方法「LAL試験」の概要も解説
「エンドトキシン」という言葉について、医療、医薬品、医療機器、その他健康産業関係の方はよく耳にされていると思いますが、他の分野の方はほとんどご存知ないかもしれません。
本記事では主に初心者の方向けに、エンドトキシンの基礎知識を解説します。
1.エンドトキシンとは?
「エンドトキシン」(Endotoxin)とは、グラム陰性菌(細菌の一種)の外膜に存在する「リポ多糖」(Lipopolysaccharide、LPS)という成分です。これが細菌の死滅や分裂時に外に放出され、人間や動物の体内に入ると強い免疫反応を引き起こします。
エンドトキシンは「エンド(内)」+「トキシン(毒素)」という言葉の通り、細菌の内部(正確には細胞壁の一部)に存在する毒素であるため「内毒素」とも呼ばれます。
エンドトキシンが引き起こす影響
エンドトキシンはごく微量でも人体に悪影響を及ぼすことがあります。代表的な症状には以下があります。
- 発熱(熱原性反応)
- 血圧低下
- 多臓器不全
- 敗血症ショック
これらの影響は特に医療現場や注射製剤、点滴液などで問題になります。
エンドトキシンが混入した医薬品や医療機器は、安全性の観点から重大なリスクとなるため、製品から完全に除去されていることを確認する厳格な検査が義務付けられています。
2.エンドトキシンの検出方法:LAL試験
最も一般的なエンドトキシンの検出法はLAL試験(Limulus Amebocyte Lysate、リムルス試験)です。これはカブトガニの血液成分を使って、エンドトキシンの有無を確認する方法(カブトガニの血球成分がエンドトキシンにより凝固することを利用した試験)です。
医薬品中のパイロジェンの検出は、かつてはウサギに投与して発熱を検査するウサギ発熱性試験が用いられていましたが、近年ではLAL試験で置き換えられています。
LAL試験によるエンドトキシン試験は、日本薬局方(JP)、米国薬局方(USP)および欧州薬局方(EP)に記載されおり、3薬局方において基本的な考え方や操作方法は同じです。
LAL試験の原理
LAL試験は、カブトガニ(Horseshoe Crab、学名:米国産”Limulus polyphemus” または日本産”Tachypleus tridentatus”)の血球抽出成分より調製されたライセート試薬(「リムルス試薬」とも呼ばれます)を用いて、グラム陰性菌由来のエンドトキシンを検出又は定量します。
ライセートとエンドトキシンの反応機構(カスケード反応)を図1に示します。
C因子(Factor C) がエンドトキシンにより活性化し活性化C因子 に、B因子(Factor B)が活性化B因子に順次連鎖的に活性化し、最終的に 天然の酵素基質コアギュローゲン(Coagulogen)がコアギュリン(Coagulin)に加水分解されてゲル化が起こります。
【図1 ライセートとエンドトキシンの反応機構】
これを利用し、試験管中で試料と反応させたリムルス試薬がゲル化するかどうかを目視で観察する半定量法(ゲル化転倒法)が最初に開発され、現在では定量的に測定可能なゲル化法も利用されています。また、このゲル化は濁度増加を伴うために比濁法による測定も行われています。
さらに、合成基質(ペプチド-pNA)を共存させ pNA(p-ニトロアニリン)が遊離して黄色に着色する発色合成基質法(比色法)による測定も行われています。
なお、LAL試験は真菌(カビ、酵母、キノコ)の細胞壁成分であるβ-グルカンでも陽性を示します。そこで、エンドトキシン、β-グルカンをそれぞれ特異的に検出するLAL試験法が開発されています。
LAL試験の利用
LAL試験によるエンドトキシンの測定は、注射剤などの医薬品、再生医療製品、医療機器の品質管理だけでなく、血中エンドトキシンを測定することによって、グラム陰性菌感染による敗血症(Sepsis)、エンドトキシン血症の病態を示す各種疾患の補助的診断法として利用されます。
一方、LAL試験によるβ-グルカン測定は、真菌の検出、特に臨床的には血中β-グルカン測定による深在性真菌症の補助的診断法に利用されます。
貴重なカブトガニを使っていいの?
余談ですが、カブトガニは姿を変えずに2億年以上も生き続けていることから、「生きる化石」ともいわれる生物です。医療のためとはいえ、このような貴重な生物を捕獲して血液を採取して良いのか、と心配される方も多いと思います。
しかし、心配は無用です。
カブトガニからの血液採取は以下のような方法で行われています。
まず、生きたまま体を洗浄し、体を折りたたんで台に固定、次にステンレス鋼の針を使って青い血液を採取、採血量は、カブトガニの体内血液の30%にあたります。その際、3%程度の個体は死んでしまいますが、その他は捕獲した場所から少し離れた海へリリースされます。つまり、カブトガニの献血によってリムルス試薬は製造されているのです。
また、近年では上記のカスケードに関わる各因子を遺伝子組換えで製造する技術も実用化され、将来カブトガニを利用する必要がなくなる日も近いようです。
(日本アイアール株式会社 特許調査部 A・A)
《引用文献、参考文献》
- 1) 稲田捷也 他, 「エンドトキシンの血中濃度測定法」, 日本細菌学雑誌, 1990年45巻6号
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsb1944/45/6/45_6_937/_pdf/-char/ja - 2) 土谷正和 他,「大過剰のカルボキシメチル化カードランによるG因子系阻害作用を利用したエンドトキシン特異的リムルステストの開発とその応用」, 日本細菌学雑誌, 1990年45巻6号
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsb1944/45/6/45_6_903/_pdf - 3) 吉田稔 他,「カブトガニ凝固因子と合成基質を利用したEndotoxinの測定による重症血液疾患に伴う敗血症の診断率の向上」, 臨床血液 1987年28巻6号
https://www.jstage.jst.go.jp/article/rinketsu/28/6/28_6_818/_article/-char/ja/ - 4) 田中重則,「透析液細菌汚染の検出・測定法」, 日本透析医会雑誌, 2001年16巻1号
https://www.touseki-ikai.or.jp/htm/05_publish/dld_doc_public/16-1/16-1_2.pdf - 5) 稲田捷 也,「エンドトキシンの疾患における役割」, 日本集中治療医学会雑誌, 1999年6巻4号
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsicm1994/6/4/6_4_337/_pdf/-char/ja - 6) 大林民典, 「日本発血中 (1→3)-β-D-グルカン測定法」, Medical Mycology Journal, 2017年58巻4号
https://www.jstage.jst.go.jp/article/mmj/58/4/58_17.020/_pdf - 7) 吉田耕一郎 他, 「深在性真菌症診断とβ-D-グルカン値測定」, 日本集中治療医学会雑誌, 2010年17巻1号
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsicm/17/1/17_1_1/_pdf/-char/ja
- エンドトキシン試験法の基礎と実践(講師:田村弘志 氏)