“三方よし”の徹底がもたらす絶大な効果!ルールとマインドセットの考え方と倫理教育の重要性
QMS(品質マネジメントシステム)、EMS(環境マネジメントシステム)、そしてISMS(情報セキュリティマネジメントシステム)など、組織の体質を強化するためのしくみやプロセスがあります。(図1)
本コラムでは、これらのマネジメントシステムが実際に効果をあげるためのキーポイントについて考えてみたいと思います。
【図1 マネジメントシステム】
目次
1.マネジメントシステムのルールとマインドセット
マネジメントシステムにおける「ルール」は、ある目的を達成するために定めた規定です。
一方、「マインドセット」(mindset)とは、各個人の基本的なものの考え方です。各個人のそれまでの経験や教育などに影響され形成されます。
マネジメントシステムにおける目的の実現のためには、「ルールによる行動」と「マインドセットによる行動」の両方を考慮する必要があります。(図2)
【図2 行動と目的の実現】
マネジメントシステムには、対応しなければならない様々な事象(できごと)があります。
図3では模式的に、ルールを網の目で表しています。
(a)で表したようにルールの網の目が粗い場合には、ルールでカバーできない事象が発生します。そのような事象を減らすには、(b1)のように、網の目を細かくしていけば良いのですが、さらにその細かさでも対応できない事象が発生します。(b2)のように、これをカバーする力を持つのがマインドセットです。
【図3 マインドセットによるカバー】
どこまでのレベルをルールで押さえて、どこ以上のレベルをマインドセットで押さえるかがポイントです。
例えば、ルールの目的や考え方が充分理解できていればマインドセットによる類推・応用が期待できるというレベルを考え、ルールによるカバー範囲(図3の網の目の細かさ)を決めることができます。このようなレベルは、組織集団の元々のマインドセットの状況(平均的考え方、考えのバラツキ)により異なります。
2.類推・応用する力
マインドセットにより、個々のルールで対応できない事象に対応できるのは、人間には類推・応用する力があるからです。
将来高度化されたAIでは、学習機能の強化により、推論・応用の能力も進化すると思いますが、類推・応用する力は人間の大きい特長です。(図4)
【図4 類推する力】
マニュアルやルールの狙いの達成のために、類推・応用する力、あるいは配慮や注意する気持ちを高める方法を考えてみましょう。
例えば、ルールを教育する場合には、そのルールの心、目的を充分説明すること、そして、それをマニュアルやドキュメントにも記述することが必要です。(完全に理解できるまで、繰り返し確認できるように)
あくまで、ルールは目的を達成するための手段です。
一方、目的意識があって、実際の事象においてどう行動するか迷うという感性は重要です。そのような際に確認するルートを決めておくことも、ルールでカバーできない部分に対応する方法です。
3.三方よしの考え方が重要:「社会もよし」に繋がるか?
組織活動を収益を得るための活動だけではなく、より良いものにしていくには、マインドセットの考え方の一つとして、「三方よし」の考えが重要です。
「三方よし」とは、かって近江商人が提唱した考え方で、商売の心がけとして、売り手と買い手だけが満足することなく、社会も含めて三者に良いような商売の仕方をしなければならないというものです。組織活動においても、「社会もよし」の活動になっているかを考えなければいけません。
モチベーション、モラール、そしてモラル
図5に示す三つの因子、すなわちモチベーション、モラール、そしてモラルは、行動に繋がるようなマインドセットに影響を与えます。これらの因子が「社会もよし」の活動に繋がるようになっていることが重要です。
【図5 マインドセットへの影響因子】
「モチベーション」は行動意欲を、「モラール」(morale)は組織集団として目標を達成していく士気、そして「モラル」(moral)は、善悪を意識し行動を律する心持ちを意味します。
不正を防ぐ!環境・仕組み作りと「倫理教育」の重要性
悪い方の例で言えば、私利私欲に基づいたモチベーション、ノルマ達成だけを考えるようなモラールの鼓舞、そして企業倫理(business ethics)に反するような活動は、「三方よし」の考えに反するものです。
正しいモチベーション、モラール、そしてモラルが形成されるように、環境・仕組み作りと適切な教育が行われなければなりません。
企業倫理に関しては、組織的な不正による「一方だけよし」(売り手だけよし)的な考えは論外ですが、知識不足で知らずに不正をしてしまうというようなことを防ぐための教育も必要です。
加えて、不正を正そうとするものが守られ、不正を正していける仕組みも必要です。
4.三方よしの拡大 ⇒ SDGsへ
「三方よし」を組織としてしっかりやっていくことは、活動に誇りとやりがいを持てて、良い意味での結束力も高まり、倫理感を向上させることにも繋がります。
図6は、「三方よし」の考えを拡大していったものを示しています。
「社会もよし」では、組織活動やビジネスを行う地域社会や環境だけでなく、グローバル社会や地球環境を配慮した活動が必要となります。開発において環境配慮設計を行うことは、広い意味での「社会もよし」に繋がります。
【図6 三方よしの拡大】
組織がサステイナブル(持続可能)な成長を続けていくには、その活動の方向性が、グローバル社会や地球環境の持続可能を目指す活動、すなわちSDGs(Sustainable Development Goals、持続可能な開発目標)の活動と整合していかなければなりません。これは、「三方よし」の「社会もよし」の考えを拡大していくことにより実現できます。
マインドセットは気持ちを反映するものです。共通認識として高い「志」を持つことはモチベーションの向上にも繋がり、より良いマインドセットを形成することができます。
(アイアール技術者教育研究所 H・N)