【早わかりポンプ】真空ポンプの基礎知識と分類・種類
当連載では、これまでにポンプをテーマとして18回にわたって色々と解説してきました。
その18回の内容はすべて「ターボ形ポンプ」に関する知識が中心です。
連載第1回「ポンプの基本原理と分類」では、ポンプの分類として、ターボ形ポンプの他に、容積形ポンプ、その他の形式のポンプ、があるということを書きました。
これらはいずれも、淡水、海水、石油、化学液など液体を扱うポンプです。
液体や気体を扱う機械のことを「流体機械」と呼びますが、その中でポンプや水車などは”液体”を扱うので「水力機械」、圧縮機や送風機など”気体”を扱う機械は「空気機械」、と一般的には区分されます。
しかしながら、気体を扱うにもかかわらず「ポンプ」と呼ばれる機械があります。
それが、今回ご説明する「真空ポンプ」です。
目次
1.真空ポンプとは?
「真空ポンプ」(Vacuum Pump)とは、容器内を大気圧以下の低圧(真空)に保持するために容器内の気体を外へ排出する機械で、主要部の構造や作動原理は、空気機械である圧縮機と同じです。
圧縮機として使用できるものはすべて真空ポンプとしても応用が可能ですが、気体を排出する容器の外は通常大気圧で、吸込み圧力が低く、負荷が吸込み側にかかるため、真空ポンプとしての構造上の工夫が必要です。
2.真空ポンプの分類
真空ポンプの大分類として「気体ため込み式」と「気体輸送式」の2つがあります。
「気体ため込み式」は、表面での吸着または凝縮などによって気体分子を捕捉しため込むことによって排気を行うものです。
「気体輸送式」は、さらに「容積移送式」と「運動量輸送式」とに分類されます。
「容積移送式」については、容積形ポンプと同様に”往復動式”と”回転式”の2種類があります。
また、「運動量輸送式」には”機械式”と”流体作動式”の2種類があります。
“機械式”はターボ形ポンプ、”流体作動式”はその他の形式のポンプに相当します。
3.真空ポンプの性能
水ポンプにおける流量に相当するのが排気速度[L/min]、全揚程に相当するのが圧力(到達真空度)[Pa]です。
大気圧は105[Pa]で、これより低い圧力を「真空」といいます。
真空域は、低真空(102~105「Pa」)、中真空(10-1~102「Pa」)、高真空(10-5~10-1「Pa」)、超高真空(10-8~10-5「Pa」)、極高真空(10-8「Pa」以下)に区分されます。
要求する真空到達度により、選定すべき真空ポンプの形式が変わってきます。
4.主な真空ポンプの種類(容積移送式・回転式)
上記2.の分類のように真空ポンプには多くの形式がありますが、「容積移送式」の中の”回転式”には次のようなものがあります。
(1)水封式真空ポンプ
下図のようにケーシング内に適量の水を入れて、羽根車を回転すると、水は遠心力によりケーシング内面に付着して循環流れを形成します。
羽根車をケーシングに対して偏心させるか、あるいはケーシングを楕円形にすると、水と羽根に囲まれた空間は、羽根車の半回転ごとに、膨張過程における”吸引”と収縮過程における”排出”を繰り返します。
前者を「エルモポンプ」、後者を「ナッシュポンプ」と呼びます。
水封式は、104Pa程度の低真空しか得られませんが、蒸気や水を含んだ気体を吸い込んでも全く影響を受けないので、ターボ形ポンプの呼び水用や、火力発電における復水器真空ポンプ、あるいは蒸気や水分を含んだ気体を扱う化学工業、などで使用されます。
(2)油回転式真空ポンプ
油回転式は、低真空から中真空で使用されます。
回転式圧縮機のケーシング内に油を適量封入することにより、油膜がケーシングとロータのすき間を密封して体積効率を高め、比較的高い真空度を得ることが可能になります。
油回転式真空ポンプには、回転翼形(ゲーデ形)、揺動ピストン形(キニー形)、カム形(センコ形)の3種類があります。
「回転翼形」は、偏心ロータがシリンダ面を面接触摺動しながら回転し、ロータには2枚の羽根が挿入され、ばねによりシリンダ内壁に押し付けられます。
ロータの回転にともない、シリンダ、ロータ、および羽根で囲まれる空間容積が変化して、吸排気します。
「揺動ピストン形」は、吸気口が、シリンダ内面と摺動するスライダと一体に作られ、偏心ロータの回転にともなってスライダは上下に揺動してスライダとシリンダで囲まれる空間容積が変化して、吸排気を行います。
「カム形」は、偏心ロータがシリンダ内面を摺動しながら回転し、ロータ面にばねで押し付けられた仕切り板が、吸気側と排気側の空間を分け、回転にともなって各空間容積が変化することで吸排気を行います。
簡単に構造を示すと下図のようになります。
(3)ドライ真空ポンプ
低真空から中真空で使用されます。
図のように、ケーシングの中に、三つ葉のまゆ形ロータ(「ルーツ形」といいます)が一対、固定接触することなく僅かな隙間を保ちながら互いに反対方向に回転し、気体を圧縮して移送します。
個体接触がないので潤滑油が不要で、水や油を封入する必要がないので、清浄な空気を必要とする半導体製造装置などに使用されます。
(4)メカニカルブースタ
2つ葉のルーツ形真空ポンプの排出側に、油回転式ポンプまたは水封式真空ポンプを粗引き用として配置することで、比較的高い真空度を達成することが可能になります。
ルーツ型真空ポンプをこのように使う場合を、「メカニカルブースタ」といいます。
大気圧中では、気体分子が自由に飛び回って、互いに衝突を繰り返しています。
1個の分子が、他の分子に衝突するまでに進む平均距離を「平均自由行程」といいます。
粗引きで圧力を真空状態にすることで、平均自由行程が長くなり、回転すき間からの漏れの影響が少なくなってルーツ型真空ポンプの体積効率が向上して、高真空を達成することができます。
(5)ターボ分子ポンプ
真空度が低い領域では、気体の分子が多数存在して連続体(流体)の性質を持ちます。
しかし、真空度が上がるにつれて分子の数が少なくなって平均自由行程が長くなり、気体分子同士の衝突が殆どない分子流となります。
気体が分子流となる中高真空領域では、分子に運動量を与えて排気するための「ターボ分子ポンプ」が使われます。
構造は、多段の軸流圧縮機に似ています。
回転する動翼と、固定静翼を、多段構造に重ね配列して、気体分子を排気側へと送り出します。
回転速度が数万min-1の高速で、動翼先端の周速度は300~400 m/sに達します。
高速回転の安定性を高めるためと、油による気体分子の汚染を防止するために、気体軸受あるいは磁気軸受が使用されます。
なお、気体分子の数が多い状態では動翼の負荷が大きく強度的に問題が生じるので、ドライ真空ポンプなどの使用により、ある程度の真空としてからターボ分子ポンプを運転します。
【ターボ分子ポンプ】
以上、今回は「真空ポンプ」のうち代表的なものを簡単に説明してきました。
他にも往復動式や流体作動式、あるいは気体ため込み式など多種類の真空ポンプがあります。
様々な産業で真空環境を必要とする場合は数多くあります。
用途や要求する排気速度・真空度を考慮し、適切に真空ポンプを選定することが重要です。
(日本アイアール株式会社 特許調査部 S・Y)