アニオン重合の特徴とは?カチオン重合との比較、リビング重合の概要も解説

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化学

今回の記事では、付加重合(ラジカル重合・カチオン重合・アニオン重合の3形式)のうち、アニオン重合の基礎知識についてわかりやすく解説します。
 

1.アニオン重合とは

アニオン重合は、成長末端がアニオンの付加重合と定義されます。
即ち、アニオン重合とは、成長末端アニオンと対カチオンと有し、二重結合をもつモノマーへのアニオンの付加反応(有機化学的に表現すれば求核付加反応)が連鎖的に進行することを意味します。
形式的には表1に示すように、アニオン重合では成長末端と対イオンの符号がカチオン重合と反対になります。

 

【表1 アニオン重合とカチオン重合の対比】
アニオン重合とカチオン重合の対比

 

2.アニオン重合の特徴(開始反応/停止反応など)

アニオン重合の素反応を表2に示します。

まず開始反応については、最初から同時に開始される点がカチオン重合と共通しており、重合中に継続して開始されるラジカル重合とは対照的です。

アニオン重合の開始剤として代表的なのはカルボアニオンであり、中でもブチルリチウム等の有機アルカリ金属化合物がよく用いられます。アミン等の化合物も開始剤として利用可能です。
アニオン重合の開始剤は、その求核性が高いほど高活性であることが知られています。

アニオン重合可能なモノマーとしてはメタクリル酸メチルアクリロニトリルスチレン等が挙げられます。
モノマーについては、モノマーのe値(二重結合の電子密度の尺度)が高いほど高活性になります。

表2に停止反応連鎖移動を記載しましたが、これらの反応がラジカル重合やカチオン重合よりも起きにくいのがアニオン重合の特徴です。後述するリビング重合(活性点が消滅しない重合)が最初に見いだされたのがアニオン重合であったのは、この特徴によるものと考えられます。

 

【表2 アニオン重合の素反応】
アニオン重合の素反応(開始反応/成長反応/停止反応/連鎖移動)

 

3.アニオン重合可能な開始剤とモノマーの組み合わせ

ある特定のモノマーをアニオン重合させるにはどの開始剤を用いればよいのか、その目安があれば便利です。

鶴田禎二氏らは、開始剤は求核性が高いほど高活性であり、モノマーはe値が高いほど高活性という前述の傾向を用いて、アニオン重合の反応性を体系化しています1)
図1をご覧ください。開始剤は活性が最大のaから最小のdまでの5段階、モノマーは活性が最小のAから最大のDまでの5段階にグループ分けしています。開始剤の各グループとモノマーの各グループは、その組み合わせでアニオン重合が可能な場合にグループ間が直線で結ばれています。

図1は、活性最大のaグループの開始剤ならば、活性最小のモノマーAグループを含めた全モノマーグループの重合が可能であることを表しています。
c1グループの開始剤ではC1,C2,Dの3グループのモノマーが重合可能であること、活性最小のdグループの開始剤で重合するのは活性最大のDグループのモノマーだけであることも図1から分かります。

 

アニオン重合が可能な組み合わせ
【図1 アニオン重合が可能な組み合わせ1)

 

4.リビング重合とは

1956年にニューヨーク州立大学のSzwarcらが、ナフタレンナトリウムを用いたスチレンのアニオン重合において、停止反応も連鎖移動も起こらず、モノマーが消費された後でも成長末端が生きておりモノマーを加えれば重合が再開されることを見出しました2)。そして彼らはこの重合を「リビング重合」と名付けました。

その後リビング重合はラジカル重合やカチオン重合でも見出されていますが、アニオン重合で最初に発見された画期的な技術です。

 

リビング重合のメリット

リビング重合には以下の特長(メリット)があり、工業的に極めて有用です。

  • (1) ポリマーの分子量の大きさを制御することができる。
      重合度≒モノマー/開始剤 になります。
  • (2)分子量分布が狭いポリマーが得られる
      ポリマーの分子量がほぼ同一です。
  • (3) 生きているポリマー末端を用いて末端に官能基を導入できる。
  • (4)ブロック共重合体が合成できる。

モノマーAの重合が終了した後にモノマーBを加えて重合すれば、AのポリマーブロックとBのポリマーブロックを同一分子中に有するブロック共重合体が合成できます。

 
今回で付加重合を終了し、次回から縮合重合について解説します。

 

(日本アイアール株式会社 特許調査部 N・A)

 


《引用文献、参考文献》

  • 1) 下記に基づいて作成
    鶴田禎二, 新訂 高分子合成反応, 日刊工業新聞社(1976)
  • 2) M. Szwarc, Nature, 178, 1168 (1956); M. Szwarc etc., J. Am. Chem. Soc., 78, 2656 (1956)

 

 

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