3分でわかる技術の超キホン ポリイミドの構造/特徴/用途|ポリアミドとの違いは?
「ポリイミド」(PI, polyimide)と聞いてもあまりピンとこない人が多くいらっしゃると思いますが、実は多くの業界で欠かせない高分子化合物であり、「ポリイミドがなければ、今日のマイクロエレクトロニクス技術は存在しなかった」と言われれるほど重要な存在です。
その活躍のカギはポリイミドの優れた性能にあります。
今回のコラムでは、そんな「ポリイミド」の基礎知識について解説します。
目次
1.ポリイミドの構造
ポリイミド とは、主鎖にイミド結合(-CO-NR-CO-)で繋がるポリマーのことです。
化学構造によって、脂肪族ポリイミド、半芳香族ポリイミド、芳香族ポリイミドの3種類に分類します。
図1のA, Bに芳香族環を導入して、イミドと結合するものが芳香族ポリイミドであり、工業上で多く使われています(図1)。
【図1 ポリイミドの構造通式】
図2に示したのは工業上に最初に使われたポリイミドーデュポン社の「カプトン H」(Kapton)です。
【図2 カプトンHの構造式】
2.「熱硬化性」と「熱可塑性」
また、大きく分けて、ポリイミドは「熱硬化性」と「熱可塑性」に分かれます。
熱硬化性樹脂は、室温で液体の樹脂ですが、加熱または化学物質の添加により硬化します。材料内のポリマー間で化学反応が発生するので、再び加熱しても結合が壊れず、形を変えることはありません。
一方、熱可塑性樹脂は、加熱すると柔らかくなり、ガラス転移温度を超えると樹脂は溶けます。樹脂の加工には、化学結合とは関係ありません。
熱硬化性ポリイミドは軟化温度(ガラス転移温度:Tg)が高く、コーティング用途やフィルム基材に使用されています。
熱可塑性ポリイミドはTgが200~300℃で加熱成形が可能であり、各種装置の部品に使用されています。
3.ポリイミド樹脂の性質
ご存じのように、共役構造を持つ芳香族環は、アルキル基のようなソフトな構造ではなく、剛直で平面な分子構造を持ちます。
工業上よく使われるポリイミド分子はAとB両方に芳香族環を導入するので、分子全体は剛直な平面構造をとり、分子鎖が緊密に充填される秩序構造でパッキングされます。
さらに、極性の高いイミド結合が強い分子間力を有するため、分子鎖間の結合力も強固です。
この結合の特徴により、ポリイミドは通常の高分子より優れた化学的、物理的性質を有します。
4.ポリイミドの優れた性能(特徴)
ポリイミドは、構造材料としても機能材料としても有力な高分子化合物です。
(1)強固な構造由来の高強度と耐熱性
ポリイミドの特性としてまず挙げられるのは、強固な構造に由来する高強度と耐熱性です。
未充填のポリイミドフィルムでもその引張強度は100MPa以上に達します。カプトン(Kapton)式ポリイミドフィルムは170MPa以上になります。
弾性率に関して、通常の3~4GPaに対して、ピロメリット酸二無水物とp-フェニレンジアミン(図3)で合成された繊維は理論計算値の500GPaに達し、炭素繊維に次ぐレベルの強度です。高温での引張り強さも非常に高いのが特徴です。
【図3 ピロメリット酸二無水物(左)、p-フェニレンジアミン(右)の構造】
熱重量分析によると、全芳香族ポリイミドの分解温度は一般的に500℃程度です。
ピロメリット酸二無水物とp-フェニレンジアミンから合成されるポリイミド(図3)は熱分解温度が600℃になります。ポリイミドは最も熱的に安定なポリマーの一つです。
その一方で、極低温にも耐えられ、-269℃の液体ヘリウム中でも脆くならないとされています。
(2)電気特性
電気特性が安定していて、誘電率や体積固有抵抗等は極低温から高温までほとんど変化がありません。
また、電気絶縁性も優れており、電子回路の絶縁材料として用いられます。フィルムとして用いる場合は、電子回路材料の絶縁基材として用いられる場合がほとんどです。
さらに、熱膨張率は金属に近いほど低いです。電子回路の絶縁材料として使うとき、金属配線との熱膨張によるひずみが生じにくく、高精度で配線加工が可能です。
(3)アルカリ加水分解により、二無水物とジアミンの原料回収が可能
ポリイミドの種類によっては、有機溶剤に不溶で希酸に対しても安定ではあるものの、加水分解にあまり強くないという欠点があります。この特徴を利用して、アルカリ加水分解により、二無水物とジアミンの原料回収が可能となります。カプトンフィルムの場合、回収率は80%-90%に達します。
構造変化により、加水分解に非常に強い種類も作ることができます。
(4)安全性
ポリイミドは、極度の高真空下でもほとんどガスを放出せず、数千回の滅菌に耐えることができます。
安全性が高いため、食器や医療器具の製造に利用できます。
また一部のポリイミドは、優れた生体適合性も備えています。
(5)その他のメリット
ほかに高い熱伝導率、耐薬品性、耐放射線性、難燃性などの特性も併せ持ちます。
5.ポリイミドの用途
ポリイミドは、その特性を活かして様々な用途に使用されています。
電子機器では、フレキシブルプリント基板として幅広く利用されています。また、ポリイミドフィルムは電子回路材料の絶縁基材として用いられる場合がほとんどです。
ポリイミドフィルムの配向性を利用して、ディスプレーの画素分離膜にも使用されています。フッ化ポリイミドは透明性や耐熱性、絶縁性に優れる材料ですので、有機EL(OLED)ディスプレー用パネルに使えます。なお、フッ素の含有率が高いフッ化ポリイミドは輸出管理の対象になっています。
また、機械強度や寸法安定性などを活かして、切削加工用素材としても使用されています。
このように、航空宇宙からマイクロエレクトロニクスまで、液晶、分離膜、レーザーなど幅広い用途で活躍しています。
6.ポリアミドとポリイミドの違いは?
「ポリアミド」と「ポリイミド」は混同されやすいポリマーですが、実は構造と性質には大きな違いがあります。
「ポリアミド」(PA, Polyamide)は、アミド結合(-CO-NH-)の繰り返しでできたポリマーです。
脂肪族骨格を含むポリアミドは「ナイロン」と呼ばれ、芳香族骨格のみで構成されるポリアミドを「アラミド」といいます。
また、ポリアミドには天然と合成二種類があります。
天然のポリアミドにはタンパク質、ウール、シルクなどが挙げられます。
合成ポリアミドでは上述のナイロンが有名です(図4)。
【図4 ポリアミドの分子構造】
ポリアミドのうち「ナイロン6」や「ナイロン66」といったポリマーをよく聞きます。強度が高くて摩耗に強いので、衣料品の合成繊維に使う素材です。
衣料品だけでなく、自動車部品や電気、電子部品、食品用フィルム、バッグ、歯ブラシなどの日用品などの製品に用いられています。
このようにポリイミドとポリアミドは各自の強みがあり、それぞれ幅広い用途で活用されています。
ということで今回は、知っておきたいポリイミドの基礎知識をご紹介しました。
(日本アイアール株式会社 特許調査部 H・L)
《引用文献、参考文献》
- 1)古知 政勝,「ポリイミド最近の進歩 1992」
- 2)株式会社東レ(WEBサイト)「ポリイミドの基礎知識」
URL: https://www.electronics.toray/column/polyimide_01.html