半導体微細加工とフォトレジスト《技術概要/課題/技術動向など要点解説》
目次
1.フォトレジストは日本勢が世界をリード
半導体の進歩が止まりません。
半導体の最小線幅はますます細くなり、最先端品ではついに3nmとなりました1)。
この半導体の進化の中で、残念ながら図1のように、世界における日本の半導体産業の地位は「凋落」と評されるほど低下してしまいました2)。
【図1 企業国籍別の半導体製造シェアの推移 ※引用2)】
しかし、それでも半導体の製造装置や原料部材の生産では日本は引き続き世界をリードしています。
その代表格が半導体の微細加工を支えるフォトレジストです。図2に示す通り、フォトレジストを生産している日本の化学系企業5社の世界シェアを合計すると90%に達します2)。
【図2 フォトレジスト世界市場のシェア(2019年) ※引用2)】
本稿ではフォトレジスト(以後レジストと略します)を用いる微細加工の技術革新の流れを振り返ると共に、今後の可能性を展望します。
2.半導体の微細加工とレジスト
ここで半導体の微細加工におけるレジストの機能をおさらいします。図3をご覧ください。
半導体基材を加工して微細なパターンを形成するためには、図3の工程が必要になります。
レジストは、紫外(UV)光が照射されると化学反応を起こして溶剤への溶解性が大きく変化する材料、すなわち感光性樹脂です。照射部が溶けやすくなる型(ポジ型)と不溶化する型(ネガ型)の二種類があります。図3はポジ型のケースです。
【図3 半導体の微細加工におけるレジストの機能】
マスクは、半導体回路の設計図に基づいて作製された、UV光透過部(図の白抜き)とUV遮蔽部(黒塗り)を有しています。ここでdはその幅を表しています。
このマスクを通してUV光を露光すると、マスクのパターンがレジスト上に転写されます。
露光後にレジストを溶剤で現像すれば、基材上にレジストでパターンが形成されます。
これにより、レジストで保護されていない部分の基材のみを加工することができます。
3.微細加工における課題とそれへの対応
図3のマスクの幅dを狭めれば、同一の紫外線と同一のレジストを用いて、最小線幅が10nmであろうと1nmであろうと際限なく微細な加工が可能のように見えます。
しかし実際にはそれは不可能です。図3は現実とは異なる理想像なのです。
現実には下記2つの障害があり、対応が必要です。
(1)UV光の回折現象
UV光も光ですので回折が起きます。マスクの黒色部に位置するレジストにもUV光が回り込みます。図4の左側はその様子を模式的に示したものです。この結果、現像後に形成されるレジストパターンは壁部が垂直ではなく、裾広がりの形状になってしまいます。
この問題を軽減するにどうしたらよいでしょうか?
その答えが図4の右側になります。より短波長のUV光を使用することで軽減可能です。
【図4 露光光源の短波長化:回折の弊害軽減】
これまでの最小線幅の微細化は、光源としてより短波長のUV光を採用することで達成されたものです。
UV光源の波長はg線(436nm)→i線(365nm)→KrFレーザ(248nm)→ArF(193nm)と短波長化し、最先端の微細加工では波長13.5nmのEUV(極端紫外)光が採用されるに至っています。
もちろん、光源さえ短波長化すればすべて解決という訳ではありません。
短波長光源で十分な感度を有するレジストを提供してきたメーカーの開発努力がこの進歩の裏にあります。
レジストメーカーの努力という点では次項も重要です。
(2)感光成分によるUV吸収で発生する課題
レジストは、通常、樹脂本体と感光成分とから構成されています。
この感光成分の濃度は高いほど良いのかというと、そうではありません。
高いことにより生じる弊害があります。図5はその点を示したものです。
レジストは基材の保護膜として働く必要がありますので一定の膜厚が必要です。
この膜厚があるために、感光成分の濃度が高いと図5の左側の問題が起こります。
【図5 感光成分の濃度を低減する効果】
すなわち、レジスト膜上部でUV光がほとんど吸収されてしまうために、レジスト膜下部まで届く量が少なくなります。これにより、現像後のレジストパターンは裾広がりの形状になってしまいます。
この問題に対して、レジストメーカーは、増感作用を持つ感光成分を使用することにより感光成分の濃度を下げたレジストを開発して対応してきました。
また樹脂本体もUV吸収が低い樹脂を採用しています。これにより、図5の右側に示すように、UV光がレジスト下部まで到達するようになり、問題が軽減されています。
以上、具体的な材料や化合物の名称には触れずに、微細加工の進歩のエッセンスを解説いたしました。
材料名を含めたより深い知見をご希望の方は、近刊の成書3)等をご参照いただきたいと思います。
4.新タイプのレジスト採用の可能性
EUV光源による露光の時代を迎えた現在、今後のレジストの動向を正確に予測するのは困難です。
従来の手法を発展させる形で進むかもしれませんが、新タイプのレジストが採用される可能性もあります。
新タイプのEUV用レジストとして有望視されているのが、図6に示す、米国オレゴン大発のベンチャー企業「Ipria」が開発した金属含有レジストです4)。
従来のレジストには金属は含まれていませんが、このレジストは金属のHf(ハフニウム)を含有しています。
EUV光照射により不溶化するタイプだと報告されています。また、金属を含有するので基材を保護する機能が高いとされています。
【図6 米国Ipria社の金属含有レジストの光反応機構 ※引用4)】
レジストの世界シェアトップのJSR社がこのIpria社を完全子会社化したと2021年9月に発表し5)、話題となりました。このレジストの今後の進捗が注目されます。
(日本アイアール株式会社 特許調査部 N・A)
《引用文献、参考文献》
- 1) 台湾TSMC社website
https://www.tsmc.com/english/dedicatedFoundry/technology/logic/l_5nm - 2) 財務省広報誌ファイナンス, 2022年4月号p42
https://www.mof.go.jp/public_relations/finance/202204/202204i.pdf - 3) フォトレジストの最先端技術, シーエムシー(2022)
- 4) ACS Appl. Nano Mater. 1, 4548−4556(2018)
https://pubs.acs.org/doi/pdf/10.1021/acsanm.8b00865 - 5) JSR株式会社(Webサイト)
https://www.jsr.co.jp/news/2021/20210917.html