ばねの疲労強度と寿命の考え方:疲労破壊はどう防ぐのか? [ばね設計の基礎④]

Pocket

ばね設計(疲労強度)

ばねは、機械の中で繰り返し変形しながら荷重を受け続ける部品です。そのため、多くのばねでは使用中に応力の繰り返しが生じ、疲労による破損が発生する可能性があります。疲労破壊は外観上の変化が少ないまま突然発生することが多く、装置の信頼性や安全性に大きく影響する重要な問題です。このような破損を防ぐためには、ばねに発生する応力と疲労強度の関係を理解し、適切な疲労設計を行うことが不可欠です。

本記事では、金属疲労の基本的な考え方を整理したうえで、ばねに特有の疲労設計上の注意点や、疲労寿命を設計にどのように反映するかについて解説します。

1.金属疲労とは

疲労設計を行うためには、まず「疲労」という現象そのものを正しく理解する必要があります。
本章では、疲労強度に関する基本的な考え方を整理します。

 

(1)疲労破壊

ばねに限らず機械部品には、荷重が変動を繰り返して作用するものが数多くあります。静荷重として一定に作用する場合には問題ない応力レベルであっても、変動荷重として作用することで応力の変化が繰り返され、部材中のある箇所に小さな割れが発生・進展して破壊に至ることがあります。これを「疲労破壊」といいます。

疲労破壊は外観で見つけにくい小さな割れが進展して突然破壊に至る現象であり、機械の安全性の面から、疲労破壊を防止する設計を行うことが極めて重要となります。

[※関連記事:金属疲労・疲労破壊が発生するメカニズムとその対策

 

(2)応力振幅と平均応力

疲労を評価する際には、最大応力だけでなく、最小応力との関係が重要になります。
最大応力σmaxと最小応力σminの差の1/2を「応力振幅σa」、最大応力σmaxと最小応力σminの平均値を「平均応力σm」といいます。
疲労設計では、まず使用状態における応力の変動範囲を明確にすることが必要です。

 

応力振幅と平均応力
【図1 応力振幅と平均応力】

 

(3)疲労設計に用いる線図

① S-N線図

金属材料の疲労強度を求めるために実施されるのが疲労試験です。一般的な疲労試験は、一定の応力振幅の繰り返しのもとに行われ、疲労による亀裂が発生するまでの繰り返し数を測定します。試験結果を応力振幅と繰り返し数の関係で表した図を「S-N線図」(S-N曲線)といいます。

※S-N線図の解説は「強度設計の基本がわかる!」の4.(1)をご参照ください。

 

② 耐久限度線図

応力振幅σaを縦軸に、平均応力σmを横軸にとり、材料が疲労破壊に至らない耐久限度範囲(平均応力と応力振幅の組合せ)を示した図が「耐久限度線図」(疲労限度線図)です。

※耐久限度線図の解説は「疲労強度の確認方法と疲労限度線図」の4.をご参照ください。

 

(4)応力集中部

丸みの小さい段差部(フィレット)、切欠き(溝)など形状変化が極端な個所は他の部位に比較して応力が著しく大きくなります。これを「応力集中」といいます。
応力集中部は疲労による割れ発生の起点となるため、応力集中を緩和するための形状工夫が必要です。

※応力集中に関する解説は「強度設計の基本がわかる!」の3.をご参照ください。

 

(5)表面処理と疲労強度

疲労破壊は部材表面から発生することが多く、表面状態は疲労強度に大きな影響を及ぼします。
表面粗さが粗いほど疲労強度は低下します。
また、適切な表面処理を施すことにより疲労強度を向上させることが期待できます。

 

2.ばねに特有の疲労設計上の注意点

ばねは変形(伸び縮み)を繰り返して使用される部品であるため、疲労により損傷することがあります。
ばねの疲労設計においても、上記1.に記述した点を考慮して疲労強度の向上を図ることが重要です。

 

(1)応力を下げる

疲労対策の基本は、ばねに発生する応力を低く抑えることです。
応力は、ばね定数、使用変位、線径、コイル径など複数の設計パラメータによって決まります。

たとえばコイルばねに発生するせん断応力τは、
コイル平均径をD[mm]、線径をd[mm]、荷重をW[N]とすれば、

コイルばねに発生するせん断応力τの求め方

したがって、コイル平均径Dを小さく、線径dを大きくすれば応力は下げることができます。
ただし、Dが小さく、dが大きいばねは、いわゆる”強いばね”となり、同じ荷重を受けたときの変位が小さくなります。

ばね材料の横弾性係数をG[N/mm2]、変位をδ[mm]、有効巻き数Naとすれば、

ばね材料の変位δの求め方

したがって、ばねの機能上必要とされる変位と強度の両方を考慮して、ばねを設計することが重要となります。

 

(2)使用範囲に余裕を持たせる設計

ばねを自由長状態から最大変位付近までの範囲で使用すると、応力振幅が大きくなり、疲労寿命が低下します。ばねの使用範囲に余裕を持たせ、過酷な条件で連続使用されないよう配慮することが重要です。

 

(3)材料選択

ばね設計に関する当連載の第3回「ばね材料の種類・特徴、JIS規格による材料選定を解説」で紹介したピアノ線(SWP)や、ばね用オイルテンパー線(SWO)を用いることにより、疲労強度の向上を図ります。
また、腐食や高温など、疲労寿命に影響する使用条件・使用環境に応じて耐食性、耐熱性に優れたばね材料を選定することも重要となります。

 

(4)応力集中の影響

ばねでは、コイル内側(半径の小さい側)や端部、引張りばねのフック部、ねじりばねの脚部などに応力集中が生じやすくなります。これらの部位は疲労破壊の起点となりやすいため、設計時には、引張りばねのフック形状やねじりばねの脚部形状について、応力集中を抑えるよう工夫することが重要です。
急激な曲げや不連続な形状を避け、滑らかな応力の流れを意識した設計が疲労寿命の向上につながります。

 

ばねにおける応力集中箇所の例
【図2 ばねにおける応力集中箇所の例】

 

引張ばねフック部における応力集中形状有無の比較
【図3 引張ばねフック部における応力集中形状有無の比較】

 

(5)表面状態と疲労寿命の関係

ショットピーニングなどの表面処理は、ばね表面に圧縮残留応力を付与し、疲労強度を向上させる効果があります。高寿命が求められるばねでは、有効な疲労対策の一つです。

[※関連記事:ショットピーニング、ショットブラスト、そして残留応力

 

(6)使用条件のばらつき

ばねは組付け状態や使用環境によって、想定とは異なる応力状態になることがあります。
わずかな傾きや偏心であっても、疲労寿命に影響を及ぼす可能性があるため、設計では理想状態だけでなく、ばらつきを考慮した検討が重要です。

 

3.疲労寿命の考え方と設計への反映

疲労設計では、疲労寿命をどのように捉え、設計に反映するかが重要になります。

 

(1)疲労寿命の捉え方

疲労寿命は、破断までの繰り返し回数として評価されます。
ばね設計では、永久使用を前提とする場合もあれば、一定回数の使用後は交換を前提とする場合もあります。
使用目的に応じて、どのレベルの寿命が必要かを明確にすることが重要です。

 

(2)安全率の設定

疲労設計では、安全率の設定が不可欠です。材料特性のばらつきや使用条件の変動を考慮し、十分な余裕を持たせることで、実使用での信頼性を確保します。
具体的には、耐久限度線図から応力振幅と平均応力の関係を確認し、疲労限度応力も踏まえて、安全率を加味した最大使用応力を設定します。
ただし、過度な安全率はコストやサイズ増加につながるため、要求寿命とのバランスが求められます。

 

(3)寿命予測を設計判断にどう使うか

ばね設計に限りませんが、寿命予測では「要求される使用回数に対して十分な余裕があるか」を確認することが重要になります。

ばねの寿命設計は、大きく分けて永久使用を前提とする設計と、有限回数使用での交換を前提とする設計の、二つの考え方に整理できます。
前者では、応力レベルを十分低く抑え、繰り返し使用しても疲労破壊が発生しない耐久限度範囲でばねを使用することを目指します。
一方、使用回数があらかじめ想定できる場合は、疲労寿命が必要な回数を確実に満たすことを前提に設計を行う考え方もあります。

これら二つの設計方針の違いを整理したものが【表1】です。
使用条件や保全方針に応じて、どちらの設計思想を採用するかを明確にすることで、ばねの寸法、材料、応力レベルに対する判断基準が定まります。寿命予測は、「どの設計領域でばねを使っているのか」を把握し、設計に一貫性を持たせるための指標として活用することが重要です。

 

【表1 無限寿命設計と有限寿命設計の考え方の比較】

項目 永久使用前提設計 有限回数使用前提設計
想定使用回数 非常に多い/不定 明確
応力レベル 耐久限度範囲内に収め、
かつ安全率を考慮
SN曲線疲労限度
などを参考に決める
設計の考え方 壊れない前提 有限回数使用で交換
主な用途 常時稼働装置 定期交換部品

 

4.疲労設計を設計プロセスに組み込む考え方

疲労は、ばね設計初期段階から意識すべき重要な要素です。
本章では、疲労設計をどのように設計プロセスに組み込むべきかを整理します。

 

(1)初期設計段階での意識づけ

ばね定数や材料を検討する段階から、疲労を前提とした応力レベルを意識することで、後戻りの少ない設計が可能になります。

 

(2)設計・評価・改善の繰り返し

疲労設計は、ばねが「いつ壊れるか」を知るためだけではなく、「どのように設計すれば壊れにくくできるか」を考えることが重要です。応力レベルや寿命の考え方を整理したうえで、具体的な疲労設計の工夫や対策を検討していく必要があります。表面状態の改善、応力集中の低減、使用条件の制御などは、いずれも疲労寿命に直接影響する重要な要素です。
疲労設計を設計プロセスの中に組み込んだうえで、こうした実践的な対策を積み重ねることで、ばねの信頼性は大きく向上します。

確認ポイントを整理したチェックリストの一例を下表に示します。

 

【表2 ばね設計・疲労対策チェックリスト(例)】

分類 チェック項目 確認内容・観点
設計条件 使用目的 押し付け、復帰、位置決めなど、ばねを使用する目的
必要荷重 最小荷重・最大荷重
ばねの変位 初期変位・常用変位・最大変位
使用回数 永久使用前提 / 交換寿命想定
ばね特性 ばね定数の設定 操作性・機構要求などから設定
使用範囲 最大変位付近で常用しない
応力 応力 材料の疲労特性を考慮した応力
応力振幅
平均応力
最大応力・最小応力から確認
寿命 疲労寿命算出根拠 耐久限度線図、S-N線図など
形状 応力集中部 コイル内側、フック部、脚部など
形状の工夫 急激な曲げや不連続形状を避ける
表面 表面の状態 傷、加工痕、バリなどは疲労き裂発生起点になる
表面処理 ショットピーニング等の要否を検討
材料 耐疲労材料 SWP、SWO、SUSなどを検討
環境 使用環境 温度、湿度、腐食などの条件把握
耐使用環境 防錆、材料変更などの対策を検討
組付け 組付け状態 傾き、偏心、摩擦の発生を考慮
使用条件逸脱防止 必要に応じストッパー等で過負荷を防止など

 

5.まとめ ― ばね設計で重要なこと

本連載では、ばね設計の基本として、種類と役割、ばね定数、材料選定、疲労設計、疲労対策と破損防止について解説してきました。
ばね設計の良し悪しが、ばねを使用する機械全体の信頼性に大きく影響します。
重要なことは、実際の使用条件を想定し、疲労や破損を防ぐ視点を設計に組み込むことです。

本連載が、より確実で信頼性の高いばね設計を行うための一助となれば幸いです。

 

(日本アイアール株式会社 特許調査部 S・Y)

 

【連載:機械設計マスターへの道】ばね設計の基礎シリーズ

 
【ばね設計の実践セミナー】強度評価の計算や寿命予測手法など、重要スキルを習得!
 

Pocket

関連するセミナー

製造業eラーニングTech e-L講座リスト

製造業向けeラーニングライブラリ

アイアール技術者教育研究所の講師紹介

製造業の新入社員教育サービス

技術者育成プログラム策定の無料相談受付中

スモールステップ・スパイラル型の技術者教育

技術の超キホン

機械設計マスターへの道

生産技術のツボ

早わかり電気回路・電子回路

早わかり電気回路・電子回路

品質保証塾

機械製図道場

スぺシャルコンテンツ
Special Contents

導入・活用事例

テキスト/教材の制作・販売