環境技術

LCA(ライフサイクルアセスメント)の基本を解説!計算方法と活用事例、CFPとの違いもわかる

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地球環境

近年、企業の環境対応が求められる中、「LCAライフサイクルアセスメント)」という言葉を耳にする機会が増えています。しかし、「LCAとは何か?」「どうやって計算するのか?」「CFP(カーボンフットプリント)との違いは?」など、具体的にはよくわからないという方も多いでしょう。

本記事では、LCAの基礎知識をわかりやすく整理し、計算方法や算定プロセス、CFPとの違いなどについても解説します。

1.LCAとは?

LCA」(Life Cycle Assessment:ライフサイクルアセスメント)とは、製品やサービスが環境に与える影響を、原材料の採掘から製造・流通・使用・廃棄・リサイクルに至るまでの全プロセスを対象に、定量的に評価する方法です。
つまり、ある製品が「一生を終えるまでに、どれだけ環境に負荷を与えるのか」を総合的に調べる取り組みです。言わば、「環境へのやさしさ」を数値化して測るものさしです。

 

LCAは「環境へのやさしさ」を測るものさし
【図1 LCAは「環境へのやさしさ」を測るものさし】

 

LCAが注目される背景

最近LCAが注目されている理由として、以下のような背景が関係しています。

  • 脱炭素社会の実現に向けた動きの加速
    地球温暖化対策として、各企業の製品やサービスの全ライフサイクルにわたる温室効果ガス排出量を把握し、削減する必要性が高まっています。
  • サステナビリティに対する企業・消費者の関心の高まり
    多くの企業がESG投資やサステナビリティ報告への対応のため、LCAを活用して環境負荷を可視化し、削減目標を設定しています。消費者も「環境にやさしい製品」を求めるようになっています。
  • 国内外の規制や基準への対応の必要性
    EUでは製品のライフサイクル全体にわたる環境負荷を低減することを目的として、エコデザイン規則(Ecodesign for Sustainable Products Regulation, ESPR)が導入されています。EU市場で製品を販売する企業は、ESPRの要件を満たす必要があります。また、G20財務大臣・中央銀行総裁会議の要請を受けて設立されたTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)の提言に基づき、各企業に温室ガス排出量の開示が求められています。その算定基準としてGHGプロトコルが使われていますが、そのうちの「Scope 3」ではサプライチェーン全体(原材料調達、輸送、販売、使用、廃棄など)の排出量を管理する必要があります。

LCAはこれらのニーズに対して定量的な評価を行うことができるため、その重要性はますます高まっています。

 

2.LCAの計算・算出・算定方法【ステップ別解説】

 

(1)目的と範囲の設定

まず、「なぜLCAを行うのか(目的)」と「どこまでを対象にするのか(範囲)」を明確に定義します。

(例)ペットボトル1本のCO₂排出量を把握するため、原材料調達から廃棄までを対象とする。

 

(2)インベントリ分析(LCI)

次に、ライフサイクル各段階で投入された資源・エネルギー量、排出された物質量(CO₂、NOxなど)をデータとして収集します。

(例)ペットボトルのライフサイクルとして、原材料(PET)生産、ボトル成型、輸送、使用、廃棄・リサイクルに分けて、それぞれ定量化する。

 

(3)インパクト評価(LCIA)

集めたデータをもとに、各環境影響カテゴリー(地球温暖化、酸性雨、資源枯渇など)への寄与度を数値化します。

(例)ペットボトルを焼却処理した場合とリサイクル処理した場合とでそれぞれの環境影響を数値化し、比較する。

 

(4)解釈と報告

結果を総合的に分析し、改善可能なポイントや意思決定への示唆を導きます。

 

LCA算定の具体例

【ペットボトル1本あたりのCO₂排出量を計算してみよう!】
具体例 ペットボトル1本あたりのCO₂排出量を計算してみよう!

 

《合計排出量(算出結果)》

  • 焼却処理の場合:
    合計 = 80 + 30 + 10 + 30 =150 g
  • リサイクル処理の場合:
    合計 = 80 + 30 + 10 -10 = 110 g

このように、各段階での排出量を積み上げていくのがLCAの基本的な算定方法です。
実務ではさらに細かいデータ(例えばエネルギー使用量別や、リサイクル率など)も考慮します。

 

3.LCAとCFP(カーボンフットプリント)の違い

LCAとよく比較されるものにCFPカーボンフットプリント)があります。
両者には次のような違いがあります。

 

項目 LCA CFP
評価対象 地球温暖化だけでなく、水資源消費や酸性化なども含む総合的な環境負荷 温室効果ガス排出量(CO2換算)のみ
使用目的 環境負荷全体の評価k・改善提案 温室効果ガス排出量の可視化・削減
範囲の広さ 広い(複数環境影響カテゴリ) 温暖化影響のみ
 

つまり、CFPはLCAの一部分に相当し、主に「カーボンニュートラル」や「脱炭素経営」を推進する際に使われます。

 

4.業界別LCA活用事例

LCA(ライフサイクルアセスメント)は、さまざまな業界で環境負荷の可視化・改善に役立っています。
ここでは、代表的な業界別に、具体的な活用事例をわかりやすく紹介します。

 

(1)自動車業界の事例

《活用事例:EV(電気自動車)の環境評価》

電気自動車(EV)は走行中の排出が少ない一方、バッテリー製造段階でのCO₂排出が大きいことがLCAによって示されています。自動車メーカーでは、再生可能エネルギー導入やバッテリーリサイクル技術開発に取り組んでいます1),2)

 

(2)食品業界の事例

《活用事例:持続可能な食の選択の提示》

原材料の調達から製造、流通、消費、廃棄までの全ライフサイクルをLCA評価することで最も環境負荷の高い工程を特定し、持続可能な農業支援プログラムやパッケージの軽量化などの施策を導入しています。
また、大豆ミートなどの植物由来食品は、畜産と比較してCO₂排出、水使用、土地利用の削減効果があることがLCAで示されています3),4)

 

(3)建設・建材業界の事例

《活用事例:建築物LCA制度の導入》

日本政府は、建築物のライフサイクル全体でのCO2排出量を評価する「建築物LCA制度」の導入を検討しています。欧州ではすでに義務化が進んでおり、日本でも2028年度から建設業者にLCAの実施を促す新制度が開始される予定です5),6)

 

5.まとめ

上述のように、LCAは製品やサービスのライフサイクル全体にわたって環境負荷を定量的に「計算」「算出」「算定」するための方法です。LCAの結果を解析することで、より戦略的な環境対策や製品開発が可能になります。
ESPRやGHGプロトコルのような国際基準に対応するためにも、LCAの知識と活用が不可欠です。
今後のサステナブル経営に向けて、LCAを正しく理解し、実務に活かしていきましょう!
 

(日本アイアール株式会社 特許調査部 K・T)

 


《引用文献、参考文献》


 

 

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