3分でわかる技術の超キホン ヒアルロン酸とは?機能・用途などの基礎知識を整理
ヒアルロン酸とは?
「ヒアルロン酸」という言葉を聞いたことがないという方は少ないかもしれませんが、どのような物質であるか具体的に理解されていますか?
ヒアルロン酸は、私たちの体中のいたる所に含まれている、ネバネバしたジェル状の生体成分であり、コンドロイチンと同様、ムコ多糖という一群の物質に属しています(専門的には「グリコサミノグリカン」と呼ばれています。)。
たった1gのヒアルロン酸で6ℓの水を保持できるほどの高い保水性があります。
少し専門的になりますが、ヒアルロン酸は、酸性の多糖類(ブドウ糖のような単糖類が多数つながったものを多糖類といいます。)の一種ですが、他のグリコサミノグリカンと異なり、硫酸基は結合していません。
アミノ糖(N-アセチル-D-グルコサミン)とウロン酸(D-グルクロン酸)とから成る二糖の単位が反復して多数連なった多糖類で、生体内では通常分子量数百万の高分子として存在していると言われています。
なお、ヒアルロン酸は、1930年代半ばに牛の目の硝子体から初めて分離されました。
そのため、ギリシャ語の硝子体(Hyaloid)、この物質がウロン酸(Uronic acid)という物質を多く含むことから、「ヒアルロン酸(Hyaluronic acid)」と命名されたとのことです。
1980年代には多糖体の国際命名法により、学問的には「ヒアルロナン(Hyaluronan)」という言葉も使用されるようになりました。
ヒアルロン酸の生体内での役割(機能)
ヒアルロン酸は、生体内で様々な機能を果たしています。
例えば、関節液や関節軟骨に多く含まれ、骨と骨との滑りを良くする潤滑作用やクッションとしての機能など、関節で重要な役割を果たしています。
また、眼球の硝子体では、緩衝作用(クッションとしての役割)眼球の形状を保つのに役立っています。
さらに、皮膚では、真皮に多く含まれ、肌の乾燥を防ぎ、みずみずしさを保つ役割を担っています。
なお、ヒアルロン酸は加齢とともに減少すると言われています。
ヒアルロン酸の用途
ヒアルロン酸は、現在、医薬品(医療機器を含む)、医薬部外品、化粧品、健康食品(美容食品)など幅広く使用されています。
特に医療用医薬品としては、変形性膝関節症や、いわゆる五十肩と呼ばれる肩関節周囲炎、慢性関節リウマチによる膝関節の痛みに対して、痛みを和らげたり炎症を抑えるために関節内に注入して使用される関節機能改善剤、白内障の手術や角膜移植術の際に補助剤として、傷つきやすい細胞を保護するとともに、手術する空間を広げることを目的に使われる眼科手術補助剤、消化器のガンの切除・剥離の際に使用される内視鏡用粘膜下注入材、ドライアイ治療用の点眼剤など幅広い用途に使用されています。
さらに近年、ヒアルロン酸を化学的に修飾する技術も発展しており、ヒアルロン酸同士を化学的に架橋して生体内での滞留性を増加させたり、薬剤をヒアルロン酸に結合して、薬剤が徐々に放出されるようにしたものも実用化されています。
最近、ヒアルロン酸などの生体溶解性ポリマーを利用した溶解性マイクロニードルパッチ も注目され、特許紛争も起きています。
(平成26年(ネ)第10109号 特許権侵害行為差止等請求控訴事件 平成27年10月28日判決言渡)
[※参考情報:知財高裁の判決文をご覧になりたい方はこちらをご参照ください。]
また、美容外科分野でも、シワ取りや鼻を高くするためにも使用されています。さらに、ヒアルロン酸は保水力が高いため、皮膚の潤いを保つ化粧水、スキンクリーム、入浴剤などに長い間使われています。
ヒアルロン酸の製法
長年、鶏のトサカなど動物から抽出・精製され、現在もこの方法で多量に生産されています。
近年は微生物(乳酸球菌(Streptococcus zooepidemicus)等)を利用した発酵法によるヒアルロン酸もかなり多くなったようです。
さらに、ヒアルロン酸合成酵素の遺伝子を利用したバイオ技術での生産も実用化されているようです。
ヒアルロン酸の特許調査をするなら?
ヒアルロン酸に関する特許調査をするなら以下のような分類(FI)をチェックしてみましょう。
まず、2018年4月16日時点で、「ヒアルロン+ヒアルロネート+ヒアルロナン」というキーワードが請求項に記載された公開特許公報+登録特許公報(公告を含む)の件数を調べてみると、6988件ヒット(J-PlatPatによる)します。
それでは、どのような分野が多いのでしょうか?
キーワード検索の結果をFIのクラスレベルで概観してみましょう。
FI(クラス) | クラス概要 | 件数 |
A61 | 医学;衛生学 | 5,987 |
C12 | 生化学;微生物学;酵素学;遺伝子工学 | 1,115 |
C08 | 有機高分子化合物 | 988 |
C07 | 有機化学 | 716 |
ということで、最も多いのは、やはり医療分野がメインのA61でした。
次に、医療分野(A61)の中では、どのようなものに利用されているのでしょうか?
FI(サブクラス) | サブクラス概要 | 件数 |
A61K | 医薬用,歯科用又は化粧用製剤 | 4,657 |
A61P | 化合物又は医薬製剤の特殊な治療活性 | 3,014 |
A61L | 包帯,被覆用品,吸収性パッド,手術用物品 | 1,676 |
A61Q | 化粧品又は類似化粧品製剤の特殊な使用 | 1,569 |
A61F | 血管へ埋め込み可能なフィルター;補綴 | 546 |
医薬(おそらく製剤)、化粧品が最も多く、また、薬効(治療活性)を期待する発明も多いようです。
より具体的に、FIのサブグループレベルのヒット件数を見てみましょう。
FI(サブグループ) | サブグループ概要 | 件数 |
A61K47/36 | ・・多糖類;その誘導体,例.…ヒアルロン酸,… | 1,450 |
A61K31/728 | ・・・・ヒアルロン酸 | 803 |
C08B37/08 | ・ …コンドロイチン硫酸エステル… | 539 |
C08B37/08@Z | その他のもの,例.ヒアルロン酸またはその誘導体 | 493 |
以上の通り、A61K47/36、A61K31/728、C08B37/08の3メイングループが関係する主な分類のようです。
なお、関係する主なFタームとして以下のようなものがありました。
FIと併せて検索に利用することを検討しましょう。
- 4C076EE37 ・・・キチン,コンドロイチン硫酸,ヒアルロン酸
- 4C090BA62 ・・ムコ多糖,粘質多糖又はグリコサミノグリカン
- 4C090BA64 ・・・酸性ムコ多糖類
- 4C090BA67 ・・・・ヒアルロン酸又は誘導体
以上、今回は「ヒアルロン酸」に関する基礎知識と関連する特許分類などについてご紹介しました。
(日本アイアール株式会社 特許調査部 A・A)
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