3分でわかる技術の超キホン ドラッグデザインとは?その手法と代表的な事例がこれでわかる
目次
ドラッグデザインとは?
ドラッグデザインとは、医薬品開発の一つの方法です。
既知の化学物質の構造と薬理作用の関係の知識をもとに、その構造の一部を変換して新しい効果やより強い効果をもつ物質を開発する方法をいいます。
リード化合物から周辺化合物を作る際、数限りない組み合わせが考えられる場合があります。
しかし、ただやたらに周辺化合物を作り出しても、後でその中から有益な化合物をスクリーニングするのに時間がかかってしまい非効率的です。
新薬開発研究者は、合成・薬理効果確認の試験を繰り返す過程で、化合物と薬理効果や毒性等々の情報から、新しい効果やより強い効果等をもつには、化学構造のどの部分をどう変えればいいのかを推理します。
ドラッグデザインという言葉は、1960年Schuelerが用いたのが最初といわれています。
当時は、化合物一つ合成するにはそれなりの研究仮説をたて、一つ合成するたびにそれが作用を示すことを願っていたと想像されていますが、近年ではコンピュータを多用し、新薬候補化合物を見つけ出すための効率的なアプローチが取られています。
ドラッグデザインの手法
(1)LBDD(従来法)
従来型の創薬手法は、何らかの薬理活性のある化合物(リガンド)そのものに注目して、それを改良していく方法です。アスピリンやペニシリンは、従来型の手法で開発されました。
- アスピリンは、柳の木の皮の鎮痛成分サリシンが解明されたのは1820年で、それから類似化合物が探索され、アスピリンにたどり着きました。その間たくさんの化合物を合成してテストを繰り返しています。
- ペニシリンは、発見からその構造が分るのにも21年かかっています。1949年にペニシリンの構造が解明され、多くの類似化合物が合成され、それらの結果が蓄積されることによって、新規化合物設計に経験的に利用されました。
- 抗マラリヤ剤・アテブリンは、1941年からの5年間で、14,000化合物が試験され、その中から選出されました。同系統のものとして、ブラスモチヒンが10,000化合物、クロロチンが14,000化合物のスクリーニングテストの結果見いだされたものであるされています。
(2)SBDD
1980年代後半からDNAやタンパク質などの立体構造が続々と決定されるようになりました。
標的タンパクの構造データ、いわゆる『鍵穴』の立体構造を調べることにより、その形にあった薬物分子いわゆる『鍵』をデザインすることができるようになったのです。
これがストラクチャー・ベースド・ドラッグ・デザイン(SBDD)と呼ばれる手法です。
この鍵穴の情報を参考に、[薬物設計 → シミュレーション → 合成 → 構造評価 → 再度の薬物設計]というサイクルを繰り返すことにより、良いリード化合物を見つけ出すことが、SBDDの目的となります。
コンピュータを用いたドラッグデザイン(CADD)が、創薬に活かされるようになり、三次元の構造に基づくアプローチが可能になったことはその後の医薬品開発の発展に大きく貢献してます。
ドラッグデザインの事例
(1)レニン阻害剤
レニン・アンジオテンシン系は、生体の血圧調節に重要な酵素ホルモン系として知られており、レニン阻害は、結果として高血圧症を治療することが出来ることになります。
1960-70年代は、レニンの基質のペプチド配列を参考にして阻害剤の開発が進められました。従来型の創薬手法です。
ただし、ペプチド性の阻害剤は、経口投与してもほとんど吸収されないことから、開発がストップしてしまいました。
1980年代から構造に基いた薬剤設計(SBDD)が用いられるようになり、1990年代になって、レニンとペプチド型阻害剤(CGP38560)の複合体の結晶構造解析がされ、三次元構造の情報から新たな阻害剤が設計されるようになりました。
SBDD手法を用いることよって、ノバルティス社はアレスキレンの開発に成功しています。
(2)セレコキシブ
セレコキシブは、非ステロイド性の、関節リウマチ、変形性関節炎などの消炎・鎮痛薬ですが、シクロオキシゲナーゼ-2(COX-2)を選択的に阻害することにより、炎症、発熱作用を持つプロスタグランジンが抑制されることで抗炎症作用・解熱作用を発現します。
これ以前、同様な作用を持つアスピリンが胃腸障害などの副作用を起こすことが問題となっていました。
アスピリンもシクロオキシゲナーゼをアセチル化することによりプロスタグランジンの産生を抑制しますが、シクロオキシゲナーゼにはCOX-1とCOX-2があり、COX-1は消化管の粘膜保護などにも関与していることが知られております。アスピリンはCOX-1も阻害するために副作用がでてしまったのです。
セレコキシブは、X線結晶構造解析に基づいてCOX-2を選択的に阻害することを目的にドラッグデザインされ、日本でCOX-2選択的阻害剤としてカテゴライズされている唯一の薬剤となりました。
COX-1とCOX-2は、60%の相動性を持っていますが、異なる部分でセレコキシブがCOX-1に結合しにくくなっていることが、その後の構造解析から予測されています。
(3)タミフル
タミフル(リン酸オセルタミビル)は、ドラッグデザインにより生み出された抗インフルエンザウィルス薬です。
ノイラミニダーゼ活性部位のアミノ酸配列の研究やインフルエンザウイルスとシアル酸あるいは遷移状態類似構造を有する2-デオシキシアル酸とのX線共結晶構造解析の結果に基づいて、コンピュータにより、3次元的にノイラミニダーゼの活性部位に高い親和性を持つように、ドラッグデザインされました。
タミフル、セレコキシブの合成に関する特許を検索してみると?
(※いずれも2019年5月におけるヒット件数です)
①J-Platpatでタミフルの合成に関する特許を調査
- 全文: タミフル,20N,合成 ⇒ HIT件数15件
この集合の中には、タミフルの中間体に関する特許などが含まれていました。
その特許分類(FI)としては、C07C269/06|A61P31/16|A61K31/245 が多く付与されています。
- FI: C07C269/00/FI* (A61P31/00/FI+A61K31/00/FI) ⇒ HIT件数208件
という検索式を試行したところ、リン酸オセルタミビルの製造法等の特許が検出されました。
②J-Platpatでセレコキシブの合成に関する特許を調査
- 全文: セレコキシブ,20N,合成 ⇒ HIT件数59件
FI別では、A61分類が58件、C07分類が38件の該当がありました。
そのうち、C07分類にはジアリールピラゾールの合成に関する特許などが検出されました。
これらの特許の内容に興味がある方は、ぜひ実際に検索してみてください。
(日本アイアール株式会社 特許調査部 S・T)
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