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皆さんは「食物繊維」についてどの程度ご存じでしょうか?
特定保健用食品(トクホ)や機能性表示食品の表示を見ると、「食物繊維」と表示されているものを多く見かけます。
今回は「食物繊維」にどのような種類があり、どのような機能があるのかをまとめてみたいと思います。
先ず、厚生労働省のe-ヘルスネットで概要を把握します。
『食物繊維は「人の消化酵素で消化されない食物中の難消化性成分の総体」と定義されています。...食物繊維はこの消化酵素の作用を受けずに小腸を通過して、大腸まで達する成分です。』(「食物繊維の必要性と健康」1)、日本食品標準成分表2010より)、『整腸作用など身体の中で有用な働きをすることが注目され、第6の栄養素といわれることもある。』(「食物繊維」2)より)と記載されています。
種類について『水に溶けない不溶性食物繊維と水に溶ける水溶性食物繊維に大別できます。不溶性食物繊維はセルロース・ヘミセルロース・キチン・キトサンなど、水溶性食物繊維にはペクチン・グルコマンナン・アルギン酸・アガロース・アガロペクチン・カラギーナン・ポリデキストロースなどがあります。』(「食物繊維」2)より)と説明されています。
また、「人の消化酵素で分解されない難消化性あるいは軟吸収性の食品成分」との定義も提案されています(総説「食物繊維の保健効果」3))。
さらに、食物繊維学会は「ヒトの小腸内で消化・吸収されにくく、消化管を介して健康の維持に役立つ生理作用を発現する食物成分」4)との定義を提案しています。
なお、食物繊維は「ダイエタリーファイバー」(dietary fiber)とも呼ばれています。
前述の通り、食物繊維は水に溶けない不溶性(water-insoluble dietary fiber ; IDF)と、水に溶ける水溶性(water-soluble dietary fiber ; SDF)に大別されますが、不溶性食物繊維はセルロース・ヘミセルロース・キチン・キトサンなど、水溶性食物繊維にはペクチン・グルコマンナン・アルギン酸・アガロース・アガロペクチン・カラギーナン・ポリデキストロースなどがあります。
また、水溶性食物繊維を、高分子水溶性食物繊維と低分子水溶性食物繊維にさらに分類することもあります。
主な所在 | 主な含有食品 | |||
不溶性食物繊維 | 植物性 | セルロース | 細胞壁 | 穀類、野菜 |
ヘミセルロース | ふすま、緑豆 | |||
リグニン | ココア、野菜 | |||
寒天 | 海藻多糖 | 紅藻類 | ||
動物性 | キチン | 甲殻類の殻 | カニ、エビ | |
コラーゲン | 真皮、骨 | 畜肉、フカヒレ | ||
高分子水溶性食物繊維 | 植物性 | ペクチン | 細胞壁 | 果物、野菜 |
グルコマンナン | こんにゃく | |||
キサンタンガム | 微生物多糖 | ドレッシング | ||
グアガム | ガム質 | グア豆 | ||
アルギン酸ナトリウム | 海藻多糖 | 褐藻類 | ||
カルボキシメチルセルロース | 合成・修飾多糖 | アイスクリーム | ||
動物性 | コンドロイチン硫酸 | 軟骨 | 魚肉 | |
低分子水溶性食物繊維 | 植物性 | 低分子アルギン酸 | 海藻多糖 | 褐藻類 |
低分子グアガム | ガム質 | グア豆 | ||
難消化性デキストリン | 難消化性オリゴ糖 | パン | ||
プルラン | 菓子、タレ | |||
ガラクトオリゴ糖 | 飲料 | |||
マルチトール | 甘味料 | |||
ポリデキストロース | 合成・修飾多糖 | クッキー、飲料 |
※出典:参考文献(3)、(8)の表を参考として作成
また、食物繊維を細胞壁構造物質と細胞非構造物質に大別する分類も存在します。
起源 | 分類 | 成分 |
細胞壁構造物質 | ペクチン質(不溶性) | ガラクツロナン |
セルロース | β-d-グルカン | |
ヘミセルロース | キシラン、マンナン、ガラクタン | |
リグニン | 芳香族炭化水素重合体(多糖類ではない) | |
キチン | ポリグルコサミン | |
細胞非構造物質 | ペクチン質(水溶性) | ガラクツロナン |
植物ガム | ポリウロニド | |
粘物質 | ガラクトマンナン、グルコマンナン | |
海藻多糖類 | アルギン酸、カラギーナン、寒天 | |
化学修飾多糖類 | メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、難消化性デキストリン、ポリデキストロース |
※出典:参考文献(5)の表を参考として作成
上記の表を若干補足します。
セルロースは植物の細胞壁の主成分で、野菜や穀類の外皮に多く含まれます。
ヘミセルロースも細胞壁を構成する不溶性食物繊維ですが、セルロースを構成するグルコースが他の糖で置換された多糖類です。
リグニンは果物や野菜の茎、穀類の外皮に含まれる木質の繊維です。
キチンは、N-アセチル-D-グルコサミンが連なるアミノ多糖であり、キトサンはキチンからアセチル基が除かれたD-グルコサミン単位からなるものです。
ガム質は植物の分泌液や種子に含まれている粘質物で、代表的なものにグアー豆に含まれるグアーガム(マンノース2分子に1分子のガラクトースの側鎖をもつ多糖類)があります。
ペクチンはガラクツロン酸がα-1,4結合した構造、腸内細菌では分解できますがヒトの消化酵素では分解できません。果物類に多く含まれ、水分を吸収してゲル化する性質があり、砂糖と酸を加えて加熱調理するジャムやゼリーの製造に利用されています。
藻類多糖類には、渇藻類に多いアルギン酸、紅藻類に多いフコイダン、寒天の主成分であるアガロース等があります。
また、トウモロコシを原料として人工的に合成されるポリデキストロースや難消化性デキストリンも食物繊維として使用されています。
主な食物繊維の構造(示せるもののみ)は以下の通りです。
主に多糖類あるいはオリゴ糖です。
難消化性デキストリンは平均分子量約2000程度のグルカンです。
メチル化分析により、難消化性デキストリンは原料でん粉同様に1→4グルコシド結合を主としながら、1→6結合に加えて1→2ならびに1→3結合を持っており、原料でん粉よりも分岐構造が発達していることが明らかとなっています。
※出典:(独)農畜産業振興機構HP 「難消化性デキストリンの特性と用途」より転載
https://www.alic.go.jp/joho-d/joho08_000547.html
※出典:
https://m.chemicalbook.com/ChemicalProductProperty_JP_cb7353572.htm
https://www.semanticscholar.org/paper/Polydextrose-in-Lipid-Metabolism-Putaala/1c7a7ec3a8d69c91b62ca11e08194e31d57eb038/figure/0
※出典:
http://www.lifence-inc.co.jp/kouzou.htm
直鎖状に結合したD-マンノース2分子にD-ガラクトース1分子の側鎖をもつ高分子多糖類
※出典:
http://phgg.jp/about-phgg/phgg-1/
https://www.tatourui.com/about/type/07_guar.html
アルギン酸の配列には、3種類のユニットが存在します。
1つ目はマンヌロン酸が連なり、2つ目はグルロン酸が連なり、3つ目はマンヌロン酸とグルロン酸が交互に連なっているユニットです。
※出典:
https://www.tatourui.com/about/type/10_sodium_alginate.html
ペクチンの構造はガラクチュロン酸とガラクチュロン酸メチルエステルの比率により、大きく2つに分類できます。
ペクチン分子全体に占めるガラクチュロン酸メチルエステルの割合(エステル化度:DE)により分類され、DEが50%以上のHMペクチン(High Methylester Pectin)と50%未満のLMペクチン(Low Methylester Pectin)があります。
※出典:
https://www.tatourui.com/about/type/05_pectin.html
サイリウムは、プランタゴ・オバタ(Blond psyllium:プランタゴ・オバタ)というオオバコ科の植物の種皮を粉末にしたもの(オオバコ科の種皮に含まれる粘質多糖類)です。
水溶性繊維としては体内でゲル状になり胆汁酸の吸着作用を発揮します。
また、難溶性繊維としては水を含んで膨らみ腸の運動を活発にして便の量を増やす働きがあります。
※出典:化学と教育 64 巻 6 号(2016 年)292-295
https://www.jstage.jst.go.jp/article/kakyoshi/64/6/64_292/_pdf
海藻の中でもコンブ、ワカメ(メカブ)、モズクといった褐藻類にのみ含まれる特有のヌメリ成分で、水溶性食物繊維の一種です。
化学的には、硫酸化フコースを主とする高分子多糖類で、フコース以外に、ガラクトース、マンノース、キシロース、ウロン酸なども結合しています。
「フコイダン」という名称は同一構造の物質につけられたのではなく、主成分がフコースである高分子多糖類の総称として使用されています。
※出典:
https://www.fucoidan-life.com/info_fucoidan/about_fucoidan/
https://www.yakult.co.jp/ypi/product/fuco.html
α-1,4結合を持ち、小腸で消化吸収されにくい難消化性糖質であるため、血糖値の上昇が少なくインスリンの分泌を促進しません。
グルコースとソルビトールが結合した糖アルコールで、麦芽糖を高圧水素添加して、カルボニル基を還元して得られます。
※出典:
https://hfnet.nibiohn.go.jp/contents/detail640.html
海藻フクロノリから抽出され、硫酸多糖を主成分とする抽出物です。
β-D-ガラクトピラノースと3,6-アンヒドロ-α-L-ガラクトピラノースが交互に繰り返した構造を持ちます。
※出典:
https://hfnet.nibiohn.go.jp/contents/detail643.html
水溶性食物繊維は、水に溶けるとゼリー状になり、小腸での糖質の吸収を抑制し、食後の血糖値の上昇を抑える効果があります。
また、コレステロールを吸着し体外に排出することで血中のコレステロール値も低下させ、高コレステロール症を予防する効果があります。さらに、陽イオンを吸着し、ナトリウムを排出する効果もあるので、高血圧を予防する効果もあります。食物繊維は低カロリーで肥満の予防にもなるので、糖尿病、脂質異常症、高血圧、動脈硬化など、さまざまな生活習慣病の予防に効果があります。
不溶性食物繊維は、水分を吸収して便容積を増やして大腸の蠕動を促進し、あるいは超内容物の通過時間を短縮する便秘を抑制します。
また、陰イオンを吸着し、有害物質を便と一緒に体の外に排出したり、便量を増加させ、有害物質を希釈することにより、腸をきれいにして大腸がんのリスクを減らしてくれます。
また、どちらの食物繊維も大腸内の細菌により発酵・分解され、ビフィズス菌などの善玉腸内細菌の餌になるため、善玉菌が増え、腸内環境が改善されます。
食物繊維は特定保健用食品(トクホ)や機能性表示食品の機能性関与成分として利用されていますが、その実態はどうなっているでしょうか?消費者庁のデータを確認してみました。
トクホについては以下の通りでした。
関与する成分 | 許可製品数 | 販売中 (令和元年度実績) |
難消化性デキストリン | 382 | 83 |
キトサン | 33 | 9 |
サイリウム種皮由来の食物繊維 | 21 | 10 |
フクロノリ抽出物(フノランとして) | 19 | 4 |
マルチトール | 18 | 3 |
低分子化アルギン酸ナトリウム | 17 | 2 |
大麦若葉由来食物繊維 | 7 | 2 |
ポリデキストロース | 6 | 2 |
難消化性再結晶アミロース(α-1,4グルカン会合体として) | 2 | 0 |
寒天由来の食物繊維 | 2 | 2 |
高架橋度リン酸架橋でん粉 | 1 | 0 |
総商品数 | 493 | 113 |
特定保健用食品許可(承認)品目一覧 [※令和3年8月2日確認時におけるデータです]
また、機能性表示食品については以下の通りでした。
関与する成分 | 許可製品数 | 販売中 (令和元年度実績) |
難消化性デキストリン | 386 | 168 |
イソマルトデキストリン | 57 | 29 |
イヌリン | 56 | 25 |
グアーガム分解物 | 15 | 5 |
キトサン | 13 | 8 |
コンドロイチン硫酸 | 8 | 4 |
サイリウム種皮由来の食物繊維 | 5 | 2 |
アルギン酸Ca | 4 | 3 |
ポリデキストロース | 3 | 0 |
大麦若葉由来食物繊維 | 2 | 0 |
マルチトール | 1 | 0 |
トマト由来食物繊維 | 1 | 1 |
大豆発酵多糖類(大豆水溶性食物繊維として) | 1 | 0 |
小麦ふすま由来難消化性多糖類 | 1 | 0 |
寒天由来ガラクタン | 1 | 1 |
総商品数 | 557 | 248 |
機能性表示食品の検索 [※令和3年7月29日確認時におけるデータです]
ということで今回は、食物繊維の基礎知識をご紹介しました。
健康にとても有益な食物繊維を積極的に摂りましょう!
(日本アイアール株式会社 特許調査部 A・A)
1) e-ヘルスネット(厚生労働省)「食物繊維の必要性と健康」
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/food/e-05-001.html
2) e-ヘルスネット(厚生労働省)「食物繊維」
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/food/ye-016.html
3) 辻啓介、ビフィズス 8:125-134,1995
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jim1987/8/2/8_2_125/_pdf
4) Kiriyama S, Ebihara K, Ikegami S, Innami S, Katayama Y, Takehisa F. Searching for the definition, terminology and classification of dietary fiber and the new proposal from Japan(食物繊維の定義・用語・分類の探索と日本からの新たな提案). J Jpn Assoc Dietary Fiber Res 10: 11-23. (2006)( 日本食物繊維学会誌 10 巻 (2006) 1 号 p. 11-24)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjdf2004/10/1/10_1_11/_pdf/-char/ja
5) 池上幸江「食物繊維の評価」日本循環器管理研究協議会雑誌 31巻 2号 p. 141-148 (1996)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjcdp1974/31/2/31_2_141/_pdf
6) 高橋 陽子、日本食品科学工学会誌 2011 年 58 巻 4 号 p. 186
https://www.jstage.jst.go.jp/article/nskkk/58/4/58_4_186/_article/-char/ja
7) 辻啓介「食物繊維と高血圧」臨床栄養 84:275-279(1994)
8) 辻啓介「食物繊維とその機能」食生活総合研究会誌 3(1) 26-30(1992)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jisdh1991/3/1/3_1_26/_pdf/-char/ja
9) 「食物繊維の働きと1日の摂取量」 健康長寿ネットより
https://www.tyojyu.or.jp/net/kenkou-tyoju/eiyouso/shokumotsu-seni.html
10) 辻啓介、辻悦子ら,食物繊維のナトリウム吸着能が高血圧自然発症ラットの血圧に及ぼす影響,家政誌39:187-195, 1988
11) 特定保健用食品許可(承認)品目一覧 (令和3年8月2日更新)
https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/health_promotion/assets/food_labeling_cms206_210802_01.xls
12) 機能性表示食品の検索 (令和3年7月29日更新)
https://www.fld.caa.go.jp/caaks/cssc01/