用途別の様々な塗料を紹介(粉体塗料/船底用/道路用/紫外線硬化型 他)《塗料/コーティング技術入門④》
連載の2、3回では塗料の主な用途先である建築・自動車向け塗料の基本について解説しました。
用途の約半分を占める建築・自動車向けがメインですが、もちろんこれらの用途以外にも使われています。
水中で少しずつ溶ける性質など、特殊な用途向けの塗料では通常の塗料では考えられないような機能が付与されることもあります。
連載4回目となる今回はマイナーな、建築・自動車用途以外の塗料について解説します。
1.自動車・建材以外にも使われている
2021年度の国内実績では、重量ベースで塗料の33%が建築向けに使われ、18%が自動車に使われました(一般社団法人 日本塗料工業会調べ)。
次に多いのが、鋼製家具や物置などの金属製品で、全体の8%を占めます。新造船・補修を含む船舶向けが7%、プラントなどの構造物(金属)が6%、道路に塗られる路面標示用塗料が5%と続きます。
2020年度はコロナ禍の影響で全体の需要が落ち込み、21、22年度に回復しましたが、コロナ禍以前は10年間に渡って全体の国内需要は横ばいとなっており、塗料市場は飽和状態にあります。
ちなみに世界全体では新興国の経済発展に伴って塗料の需要が伸びていくと予想されており、年率3~4%(金額ベース)の割合で伸びていく見込みです。
【図1 2021年度 国内塗料用途実績(重量ベース)】
2.溶媒が不要な粉体塗料
スプレーで吹く塗料も、刷毛で塗る塗料も基本は液体であり、水・有機溶剤などの「溶媒」に樹脂や顔料などの塗膜成分が溶けている形状となっています。
一方、「粉体塗料」は文字通り粉状の塗料で、溶媒を含んでいません。
消費者にとってはマイナーな塗料ですが、鋼製家具など身近な部分に使われています。
VOC削減が求められている現代、粉体塗料の需要は高まっています。
粉体塗料も液体の塗料と同様、樹脂や顔料、添加剤を含んでいます。これらの原料を混練して混合し、粉砕したパウダー状のものが粉体塗料です。
通常はスプレーを用いた静電塗装で塗装されます。スプレーガンで帯電させたパウダー粒子(マイナス)が、接地された被塗物(プラス)に付着することで塗装される仕組みです。静電気力を用いた塗装法であるため、被塗物は金属などの導電性の物質に限られます。
【図2 粉体塗料の焼付工程(熱硬化性樹脂の場合)】
粉体塗料は焼付けが必須の塗料です。
塗装後は粉が被塗物に乗っているだけの状態であるため、焼付を行わないと、被塗物を触っただけでパウダーが取れてしまいます。
焼付工程では粒子が融着して塗膜が均一になった後、高温で樹脂反応が進むことで硬化塗膜が形成されます(熱硬化性樹脂の場合)。
なお、粉体塗料の主な用途には金属製家具や建築資材、配電盤などがあり、これら金属製品の防錆や色付けを目的として塗装されます。
3.徐々に溶け出す船舶用塗料(船底用塗料)
船が劣化する主な要因の一つが船底への生物の付着です。海中にはバクテリアが豊富に存在しており、これらが船底に付着することで、海藻類やフジツボなどの生物も船底に付着してしまいます。
付着物は船の速度低下をもたらすため、古代ギリシャでは木造船の船底に鉛製の板を張り付けるなどして対策が取られていました。現代では塗料でフジツボなどの付着を防止・解決しています。
【図3 船底塗料の付着防止機構 ※引用4)】
船底用塗料は、主に①防汚剤・忌避剤の配合、②加水分解性樹脂の配合というアプローチで生物の付着を防ぎます。
塗料成分にはバクテリアの付着を防ぐ防汚剤や、フジツボを対象とする忌避剤が含まれており、加水分解性の樹脂が海中で溶け出すことで防汚剤などを溶出させ、生物の付着を防ぐ仕組みです。
また、樹脂の加水分解で塗膜自体が溶け出すことにより、塗膜に付着した生物ごと海中に放出する効果もあります。加水分解型といっても海中ですぐに溶けてしまうわけではなく、2年スパンなど長期で徐々に溶け出していきます。小型船では1年に1回、大型船では2~3年に1回の頻度で船底を塗りなおします。
ちなみに船底が赤いのはフジツボの付着防止効果がある赤色の粉末顔料、亜酸化銅が船底用塗料に使われているためです。
4.その他の塗料
(1)道路用塗料
道路用塗料は白線や「止まれ」の文字など、道路に塗装される塗料です。
JIS規格上は「路面標示用塗料」と呼ばれます。
白や黄色がメインですが、高速道路を中心に近年では赤・水色の表示も見られるようになりました。
有機溶剤系・水系塗装・溶融型(無溶剤型)の3種類があり、交通量の都合で塗装に長い時間を割くことができない場合は溶融型が使われます。
溶融型の場合、粉体状の塗料成分を180~200℃の加熱で液状にしてから塗布し、冷却して固化させます。
道路用塗料の塗膜には早く固化する性質に加え、優れた耐摩耗性と視認性が求められます。
視認性に関しては、光の反射により塗膜を目立ちやすくするため、ガラスビーズを配合した塗料もあります。
なお路面標示用塗料の基本的な性能は「JIS K 5665」に従います。
(2)紫外線硬化型塗料
樹脂同士の硬化反応によって固化する塗料の場合、時間経過や加熱によって樹脂反応が進みます。
建築用の2液型塗料は時間経過で反応させるタイプであり、自動車ボディー用塗料は加熱によるタイプです。
時間経過、加熱でもなく、紫外線(UV)によって硬化させる塗料が紫外線硬化型塗料です。
光重合開始剤とアクリル樹脂が含まれており、紫外線照射によって光重合開始剤がラジカルを放出し、アクリルのC=C同士の反応が進む原理で硬化します。
紫外線が当たらない部分では反応が全く進まないため、被塗物は平状のものに限られます。
スマートフォンのカバーや化粧品容器に使われるほか、自動車用部品でも実績があります。
厚膜化できないなどの欠点もありますが、脱炭素化が求められる現在、加熱よりもエネルギーコストの低い塗料として紫外線硬化型塗料が注目されています。
似たような塗料として、高エネルギーの電子線をあてて硬化する電子線硬化型塗料も実用化されています。
(3)特殊用途向けの塗料
塗料の3大機能は「美観・保護・特別機能」ですが、特殊な用途向けに、特別機能の部分を強化させた塗料が各種実用化されています。
塗膜表面で菌を不活性化させる抗菌塗料には有機系・無機系の抗菌剤が含まれており、JIS規格で規定された抗菌性試験で効果が確認された塗料が上市されています。
似たようなものではピレスロイド系の薬剤を配合した防虫塗料があり、食品工場などで使用されています。
プリント配線や電磁シールドでは電気伝導性が必要なため、金属粉やグラファイトなどの導電性成分を配合した導電性塗料が使われています。
以上のように特別機能を付与するには専用の添加剤を使用することが一般的ですが、樹脂および全体の配合を工夫することで機能を付与させる塗料もあります。
耐薬品性塗料の場合はエポキシ樹脂やフッ素樹脂などの耐薬品性に優れた樹脂が配合され、顔料成分も化学薬品に反応しない不活性物質が使われます。
200℃以上の環境下でも耐えられる耐熱性塗料では、シロキサン結合を有する無機系樹脂が使われています。
5.まとめ
以上、建築・自動車以外に使われる塗料について解説しました。
これまで計4回の連載では塗料の基本や主な用途について解説しましたが、次回以降は樹脂の硬化機構など、より専門的な内容を含めて解説したいと思います。
(アイアール技術者教育研究所 G・Y)
≪引用文献、参考文献≫
- 1)トコトンやさしい塗料の本 (今日からモノ知りシリーズ),日刊工業新聞社(2016)
- 2)早わかり塗料と塗装技術,日本理工出版会(2010)
- 3)2021年度 需要実績見込み(日本塗料工業会)
- 4)中国塗料(Webサイト)
https://www.cmp.co.jp/tech_rd/cmp_tech/antifouling_coatings/antifouling_system.html - 5)日本ライナー(Webサイト)
https://www.nipponliner.co.jp/products/roadmarking